マスター☆ロッド げいんざあげいん

第十話 トール教授と生徒達(終)


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その日、アルバ王立魔法学院は大いに盛り上がっていた。その日は奇しくもリューイ=コトブキなるアルバの勇者の卵が、合宿先の霊山にてかの大賢者カイル=ヴァドクリフトより、彼の武器である支配の槍についての秘奥を授かり、意気揚々と帰還した日である。

彼の合宿先での活躍や、規格外のモンスターを新奥義で屠ったことが、帰還前にして既に学院に知られたのであろうか。リューイと合宿についていったクラスの者達や随伴の教師らはそんなことを思っていた。

だが、次第に判明する。
そうではないことを。
この騒ぎの元が何かを。

元々たかが合宿の帰還に出迎えはない。

だが、ただの一人も、友人やバックアップの教師さえもが姿を現さないというのは少し異常である。リューイ自身もリアラやアキの出迎えを期待していたし、過去にダンジョンで単身突入して帰ってきた時も、ずっと入り口で待っていてくれた二人である。

そう、自分はそれくらいのことをしてくれるぐらいには、彼女ら二人に与えていたはずであると、リューイは考える。今回の合宿だって、自分の修行という名目はあるものの、目的は魔王への単独討伐許可証を王国から発行してもらうためだ。単独討伐許可証があれば、王国の支援を個人の裁量によって使うことができる。もちろんそれに見合う力があってこそだが。

一個人での対軍・対城能力。単独討伐許可証の取得はその力を有す印であり、その時点でこの学院を卒業する証でもある。

リューイはその条件に今回の合宿でもう少しで届きそうになった。大賢者カイル=ヴァドクリフトが持つ支配者の杖の一部を譲り受けることで、前方にしか効力を発揮できなかった従来とは異なり、ある程度の陣を敷くことで力を大きく増幅したり、放出の方向性を制御できるようになったのである。

「あとは数年間練り込めば……」

きっとリューイの運命打破は戦場を切り裂く巨大な万能の光となり、単独討伐許可証を得て、そのままリアラやアキと共に魔王討伐へと旅立てるはずだ。その後は調子に乗っている魔王をこかした後、自分は彼女達の故郷を救い、きっと彼女らは自分に一生掛けても返しきれない恩義と好意を抱くであろう。

リューイ=コトブキ、いや稲本竜一(30+16)は期待してしまう。彼女達からの羨望の眼差しと約束されたお返しを。自分は今まで真摯に彼女達に接してきたと思う。無理矢理迫ってもいないし、キスだってまだだ。アキとリアラ、どっちと結婚しようかなとか、いや両方ともいけるかな、とか。

――故にである。

「しっかしこの時期に独立討伐許可証取得者かぁ、しかも二人同時とはねぇ」

ざわめく喧噪の中、リューイはその言葉に言いようのない不安と焦りを感じてしまったのである。いやまさか、とぽつりと呟くと、リューイは無言で走り出した。出迎えに来ない二人。討伐許可証取得者も二人。リューイはいやまさかとは思う。だが彼はどうしてもアキとリアラの所在を確かめにはいられなかった。


アキ=カーマイン
リアラ=セイグン
それぞれ単独での鉱物含有多頭龍(マテリアルヒュドラ)撃破の功績を称え、ここに単独討伐許可証をかの二人に授与し、魔王への遊撃任務を命じる。


二人を探し回るリューイの視界にそんなことが書いてある掲示が見えた。あの二人が? あのリアラが、あのアキが、よりにもよって鉱物含有多頭龍の撃破だって? とリューイのあたまの中で不可解な鐘の音がぐわんぐわんと鳴り響く。

鉱物含有多頭龍(マテリアルヒュドラ)は現存するモンスターの中ではトップクラスの危険生物である。あらゆる天然石、魔法石を食料とする彼らは並々ならぬ装甲と鉱物や魔法混じりのブレスを操る一個の動く城塞である。討伐には一軍を持って当たるのは当たり前だし、足止めを行うために攻城兵器を使うことも珍しくない。リューイの運命打破なら彼の前に立ち塞がるという条件付きだがその体に風穴なり、中をかき混ぜるなりで、ダメージを通すこともできるかもしれないが、その巨躯故に数発の力の行使が必要になるであろう。

そんな、難敵をである。

アキ=カーマインが行使した魔法により、多頭龍はぼこぼこの虫食い状態になり息絶えた。
リアラ=セイグンが召喚したヒュドラの倍もある水龍がかの多頭龍を絞め殺し、あたまから丸呑みし、滅した。

と、言うのだ。
この噂を信じるなら、彼女達はこの難敵を相手に苦戦や手こずりなど無く圧倒したという話になる。

「し、知らないぞ。あの二人が、そんな魔法を使えるなんて、俺は、俺にはそんなこと一度も……!!」

講堂、教室、食堂、練習場、トール教授の胡散臭い研究室。リューイはあらゆるところを探したがどこにも二人の姿はなかった。

そして――、

そして、二人の部屋。アキと、リアラがこの魔術学院で寝泊まりしていた二人の部屋の前にリューイはたどり着く

リューイはドアノブを握る。きっといつもと変わらない二人がそこにいることを期待して。そして、――かちゃんと、何の抵抗もなくリューイの動きに応じてドアノブが捻られる。鍵がかかってない、という事実。鍵を掛ける必要がない? という疑問がリューイを襲うが、それらをゆっくり検証する思考を今のリューイの体が許さない。

「り、リアラ、アキ……は、はいるぞー……?」

そんなリューイの独り言が、がらんとした部屋にこだました。

「う、うそだろ……。うそだろぉっ?」

既にその部屋にリアラとアキの私物は無く、空き部屋と化していた。そこにあるのは無機質で空っぽの家具、そして人気を感じさせない冷たい無機質な空気。

「……いや、これは違う。か、彼女達は何か事件に巻き込まれたんだ、きっとそうだ。だって、そうじゃなきゃおかしい。彼女達の目的は故郷を救うことで、それはこの俺がいなきゃできないことなんだからな……。――はは、はははは。――そうに違いない。となると黒幕はこの国か? アルバの貴族か、王族か? どこで彼女達に目を付けたか知らないが、この俺を甘く見るなよ、すぐに追い詰めて、陰謀を暴き出して……っ」

そこまでリューイが呟いたときである。

――ごとん

と、近くで何かが落ちる音がした。
リューイの今の思考を酷く咎めるかの様にどこからか。

そう、まるで何も無い空間から降って湧いたたかのように、水晶玉が一つ床に転がり、
ころころ、ころころ、まるで意思を持つかのように、リューイの足下まで独りでに転がり、彼の靴先に当たってぴたり止まった。


その水晶玉を見たリューイの背筋に、冷たく気持ちの悪い何かがほとばしる。そう、彼の本能が言っているのだ。その水晶玉を嫌悪せよと。触れてはならぬ、見てもならぬと。このまま放置しておけば、最良は逃すが最悪は防げると。水晶玉と触れている部分は靴越しの一部だというのに、まだじっくりと見てもいないのに。

絶対に関わるなと。
今すぐこの部屋から出て、何事も無かったように学園生活に戻れと。
リューイの中の何かが警告するのである。

日頃、運命打破という概念魔法を操るリューイは、自分の未来、不可視の事象を読み取る流れという、曖昧な不確定要素ものに対して事細かに鼻が利く。普段は神の啓示の様な直感力としてそれは働くが、こんなにも警告じみた感覚は彼の転生生涯で初めてのものであった。

故にこの水晶玉はには関わらない方が良い。
そんな事はリューイ自身痛いほど解っているし感じているだろう。

だかしかし、だがしかしだ。
リアラとアキは彼の異世界人生の目的そのものでもあるのだ。譲れないし、換えが効かないのだ。圧倒的優位な立場で積み上げて、圧倒的優位な状況で、近しい存在になれる女の子。それも二人もだ。

「何年もかけて、前の人生では考えられなかった、あんないい子を二人もだぞ……!!」

それは少年の純粋な思いとはかけ離れすぎた、打算的で、投機的な支配欲。稲本竜一の本質である一方通行の方程式。支配者の槍という無限ストックを持ちながら、交渉相手にただメリットを積み上げていくだけのギブ&プラス。彼の中では至極当然であるのであろう。

だって、リアラ=セイグンと、アキ=カーマインは、彼の中では、

「二人とも俺の物だぞ……っ!!」

そう叫んで、リューイ=コトブキは破滅の予言を振り切って、足下の水晶玉を手に取ってしまう。

最も、その傲慢とも言うべき支配欲が、きっと槍に選ばれた証ではあるのだが、このときをもってリューイ=コトブキが本来歩み行く筈だった道は断たれ、坂道を転がり落ちていくことになる。そこから彼が再び這い上がれるかは、また別の話であるが。

水晶玉に魔力が籠もり、
中空に映像が映し出される。
そこにはリューイが探していた二人である、リアラとアキがいた。

「リュー君いえーい!!」
「え、私もやるのこれ、あー…おほん、いえー……い? これでいいの?」

「リアラっ、アキっ!!」

リューイは思わず映像に向けて叫ぶが、向こうに音声は届いていないようである。動画にはリューイに対する反応そのものが感じ取れず、録画であることが彼に見て取れた。映像の中ではリアラとアキの二人が椅子に座ってカメラ目線でこちらを見ている。映像が拡大され、上半身がアップになったところで、リアラがまず話し始めた。

「えーっと、リュー君がこれを見ているころには、私たちはきっと学園にいないかな。でも黙っていなくなっちゃうのは失礼だと思うので、こうしてお別れの映像を残すことにしました、トール教授って便利道具いっぱいもっててすごいねぇ。ね、アキちゃん?」
「ほーら、リアラ、いきなり話をずらさないの、ちゃんとお別れと御礼を言うんでしょ、いままでの」

お別れ、今までの御礼。不穏なキーワードがどんどん出てくるが、リューイが出来ることは二人の映像を見続けることだけである。あたまの中では、見るな忘れろという警告が未だ響いているが、どうしても従うことができない。

「えへへ、ごめんねアキちゃん。はい、それじゃリュー君。いいえ、リューイ=コトブキさん。まずは今まで私たちを守ってくれてありがとう、そして故郷を一時的に救済してくれてありがとう。このご恩は私とアキちゃんは決して忘れません。だからもう一緒にはいれないけど、リュー君が困ったらきっと力になるよ、約束するね?」
「そうね、故郷の救済についてはもう解決したから気にしないで、安定的な水の供給は実現したし、農地の開墾も前向きに検討されているの。それまでの短期的な水の供給も確保したから、しばらくは村に付きっきりになるけど、リューイに守ってもらう必要はもう無いわ。本当に今までありがとう」

それは一方的な別れの挨拶であった。

「……ちょっと待ってくれリアラ、アキ、そりゃぁないだろう。よしんばお別れしなくちゃいけないからといって、急すぎやしないか」

そんな、リューイの呟き、だがその呟きに呼応したのか、それとも偶然なのか。

「でも、リュー君。酷いです。ええとごめんなさい、このお名前は本当のお名前じゃなかったですよね。イナモトリューイチさんでしたっけ? その、もう結構お年を召されているんでしょう?」
「そうそう、リューイ。ええとリューイチ? 悪いけど勇者とかやってる年じゃないと思うわ私」

彼女らの言葉は、リューイコトブキという薄っぺらい皮をいとも容易くはがし、稲本竜一というコミュ障の中年サラリーマンという本体をさらけ出させた。

「え……そ、その……いや俺は……は」

「あのね、リュー君が私たちの事を好きなんだなーって気持ちは伝わっていたの。でも私達、リュー君に色々助けてもらったし、その曖昧にしてて、ごめんね。現時点では私はリュー君のお嫁さんにはなれません」
「そうね、私もリューイには感謝してるわ、でもちょっと結婚は無理かなー、だって酒場で飲んだくれているあの冒険者達と同じくらいの年齢なんでしょ? ごめん、ちょっと引く」

「えう……いや……でもっ、それは前の世界の話だし!! ……この世界に来てからは関係ないし!! そ、それに一緒にが無理なら、どっちかだけでも、片方は愛人としてだって……っ、だって、だって……。お、俺はいっぱい君たちに与えてきたじゃ無いか……!!」

そう、リューイが叫んだ瞬間。

「あ、やっぱ本当だったんだ」
「うっわ、しかも結構最低なこと言ってるし」

いつから映像の向こうと繋がっていたのか、
水晶玉の映像の向こうで、リアラとアキの可愛らしい顔が嫌悪に歪んでいた。

「酷いね、リュー君。どっちかだなんて、私達ものじゃないよ?」
「ねぇ、今までずっとそんな目で見ていたってこと?」

そして、

「わはは、リューイ君!! あ、リューイチ君だっけ? あ、どっちでもいいかー?そういうわけだから二人のことは諦めたまえよ。二人とも自立して自分の道を行こうとしているのだ。僕らはおっさんらしく門出を祝福してあげようじゃ無いか。」

全裸のトールが現れ、それと同時に二人を抱き寄せ、揉み揉みと胸を揉みしだく。

「やぁん」
「あんっ、あっ」
「うーん、柔らかいお胸とコリコリ乳首、これを独占とは許しがたい、リュー君、ギルティ」

後ろから胸を玩具の様に揉みしだかれているにもかかわらず抵抗の様子が無い二人に、リューイの中で何かがはじけ飛ぶ。

「……トールっ!! 貴様、貴様だなっ!! 二人に何をした? 洗脳か?記憶改ざんか? いいだろう、そっちがそこまでやるなら……」

と、リューイが槍を構える。展開された力場が目の前の映像に干渉を始める。映像越しの空間とリューイのいる場所がじりじりと繋がる準備が始まろうとしている。リューイがこの後力を解放すれば、リューイの『前方』にある映像の場所とここはなんの脈絡も無く繋がり、トールとリアラ達をリューイの手の届くところに運んでしまうのだろう。

だが、その行為を止めたのは、トールの概念魔法でもなく、リューイ自信でも無く、何の気無しの二人の言葉であった。

「あー、リューイ。あんたが勘違いするのは構わないけど、人様に迷惑かけるのは自重しなさいよね」
「そーだよリュー君。私達洗脳とか言いなりとか、無理矢理なんてなんにもされてないもんね」

リアラとアキとリューイ。それは長いようで短いような付き合いとも言えるが、数年間共に人生を歩んできた仲間である。だからリューイには分かってしまう。細かい口調や雰囲気、言葉の選び方。まごう事なき正気の二人であることを。

故にだ。

今もうねるように揉まれているリアラのやわらかそうな胸。
服の中まで手を突っ込まれて、おそらく乳首を弄られているアキ。
二人が遠慮がちにあげているくぐもった喘ぎ声。

その二人が、何か期待するような、焦れったいような表情で、
リューイ=コトブキが見たことの無い表情で、
トールという男に熱い眼差しを向けている事実が、

正気の沙汰の出来事であるということを、認めてしまったのだ。

「……は? よくわからないよ。 なんで、俺がダメでその男ならいいんだ、そいつだってきっと俺と同じ穴の狢だっ!! 年だって四十や五十じゃ利かないかもしれないぞ!! だったら……っ」

と、リューイが叫んだその時、彼の目の前に青いキューブが現れ、そして中から水で作られた巨大な手が彼の体を鷲掴むと、そのままリューイをその中へと引きずり込んだ。

リューイの視界が開ける。そこはどことも知らぬ建物の中。目の前にはトールと、アキと、リアラが確かにそこにいた。

「違うのよ、リューイ」

アキがキューブをぽん、と消す。

「そうだよ。トール教授はリュー君よりも頼りになるんだよ?」

リアラの手からうねるように出現している水が生き物のように変化し、リューイを拘束し続けている。

「な、なんだよ、こんな魔法、俺の支配の槍で……くそっ、なんでだ、なんで起動しないぃぃっ!!」

暴れるリューイを少し冷めた目で見ながら、リアラは口を開く。

「これは私の概念魔法、万能の水《源なる水面》。どんな水量にもなるし、どんな形にも、どんな性質にも変化する魔法。例えば、リュー君を捕まえて概念魔法が使えなくしちゃう水、なんてこともできるんだよ」

生徒達は言っていた。水の龍が鉱物含有多頭龍を頭から丸呑みしたと。

「私のは一期の扉《何処かへの道》二つの扉を通してどこにでも繋げられるし、繋がりを隔てることもできる」

そのアキの言葉に、確か鉱物含有多頭龍が虫食いだらけで倒されたと、生徒のうわさ話を思い出し、リューイは息を飲んだ。

「トール教授はこの魔法を私達にくれたの」
「ええ、私達の夢、というか目的を叶えるための具体的な方法をね」

「……俺じゃ…俺が魔王を倒して、それからじゃだめだったのか? きっと故郷を救うことぐらい……っ」

そう、リューイがつい、口から出てしまった内容が失言と気づいたのは、すぐであったが――

「それで、リューイは」
「リュー君は」

言ってはいけなかった言葉であった、彼女達にこの言葉を言わせてはいけなかった。リューイは心底後悔する。ああ、自分はすっとぼけて鈍感で、そこ抜けのいい人を演じ続けなければならなかったのだと。

「「私達に、何をさせるつもりだったの?」」

――なにも、なんて言えないのだ。そう、リューイ=コトブキとしても、稲本竜一としても。もはや二人にリューイは見透かされてしまったのだ。支配の槍という特権を手にしたことで、彼女達に尽くしていた様に見えて、見えない恩義で縛っていた後ろ暗い思いを。

見透かされた、終わってしまったとリューイが自覚した途端である。
彼の心うちの暗い暗い扉から、ぽろぽろとそれが零れだし始めた。

「き」

彼の自己中心的な、暗い暗い欲望が。

「キスは……毎日したいなぁ……へへ」

まるで、今までそれを堰き止めていた箍が外れてしまったかのように――

「へへへ、えへへへへぇ……なんだよもう、なんだよぉ」

溢れ出した。

「リアラと、アキはさぁ。毎朝セックスして疲れた俺を、べろちゅーとフェラで起こしにくるんだ。ああ、食事の前に二、三発は出したいなぁ、それで食事中はあーんしながらだっこでファックさ、二人とも代わる代わる抱いてやるんだ。ああ、故郷にもどったら二人の実家で一緒に犯してやるのさ。それぞれの部屋でしっかりと孕ましてやるんだ。いっぱいいっぱいファックして、それで子供を作って。前も後ろもあふれ出るまで、朝から昼から夜まで!! そうさ、故郷を救うんだ、何年尽くしたと思ってる、それくらいは俺の当然の権利だ……っ。そうだろう!?」

そして、リューイは二人をみる。どうだ、これが俺の本性だと。見損なったか、と。

だがしかし。

「まーそうだね、故郷を救うところまでやったらいいんじゃない?」
「男の子だもんね、それくらいは仕方ないと思うよ。うん」

彼女達には一変の動揺もない。
あまつさえ、ずっと隠してきた彼の意地汚い欲望に理解を見せる始末だ。

リューイは思った。
何かがおかしいと。
今、自分とその他達の間に決定的に噛み合ってない何かがあると。

うはは、わははは。

と、トールの声が鳴り響く。

「いやぁ、良かったね。リアラちゃん、アキちゃん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・
リューイ君の望みがそれくらいでさぁ

「まったくもう、特別だぞ。リューイ君。普段はおにゃの子との楽しみは、俺とおにゃの子のみで楽しむのが原則なんだが――」

褐色の男、トールがそう言いながら分裂していく。一人二人三人、いや、十人以上だ。それぞれが裸で、その股間は果てしなく勃起しており、様々な長さと太さの肉棒から我慢汁がどくどくとあふれ出ている。

そして、にかっと、張り付いたようなアルカイックスマイルで、

「――君の恩義の精算式だ。参加はさせられないけど、特等席で見せてやる。右手は自由にしてやるから心置きなく抜き抜きしたまえよ。おおっとクオリティは安心して欲しい。なんてたって君の欲望なんか目じゃないことを今から見せてやるからね?」

その時である。リューイのあたまの中でかっちりと噛み合った。

アキの表情もリアラの表情も、
なぜ自分がどん引きな妄想を垂れ流しても、あの程度で済んでしまったのか。

「ふぁぁ……、あ……、あぁぁ……♡」

リューイの視界に、仰向けに寝転がったトールにゆっくりと自ら腰を下ろしていくリアラが見えた。見たことも無い彼女のあそこが、潤いたっぷりにつやつやと光り輝き。

ずぷぷ、ずぷぷぷ。

と、実に卑猥な音を立ててトールの肉棒を飲み込んでいく。

じゅっぱ、じゅぽぽ。

と乱暴で下品な音の方向を振り返れば、あの清楚で潔癖なアキがあの暴力的に太いトールの肉棒を勢いよく頬張り、しかもその手は両手で他の肉棒を扱き上げて――、

「あんっ、あっ、あんっ♡」

突然の効いたことの無い艶やかなリアラの声にリューイが視線を戻すと、リアラがリズミカルな喘ぎ声を上げてよがっており、あろうことか彼女の成長途中である無垢な肢体に、三人のトールが腰を動かしているではないか。手と、前と――、ああ、あの太くて容赦ない一物が激しく出入りしている場所は間違いなく彼女の尻の穴である。あのリアラが、可愛らしいリアラが男のチンポを扱き上げながら、前と後ろを犯されている。――と、リューイは思うが。

――じゅぱんっ、じゅぱんっ、ぱじゅぱじゅじゅぱんっ

なんだと、なんなんだと、彼は思う。思わざるを得ない。なんだこの巫山戯た音は、ぱんぱんぱんぱんならまだしも、じゅぱじゅぱじゅぱじゅぱ? は無いだろうと。なんなんだよと。何でそこまで卑猥な音が彼女のケツの穴から出てきてしまうのかと。あそこの初めて? 破瓜の痛み? そんな物が遙か昔に済んでしまっているような、そんな思いに捕らわれて、ふと目をやればいつの間にか複数の肉棒をしゃぶっていたアキもトール達に抱え上げられて、前と後ろから突き上げられて、嬌声を上げているではないか。

「あつ、あっ、あっ、すごぃぃ、いいっ♡ ねぇ、きょうじゅ、いつものぐりぐり、ぐりぐりしてぇ……あっ……んっ……あ♡ ふぁぁ♡ きもちー♡」

アキが犯されているスタイルをサンドイッチファックである。彼女は痛がる様子をみじんも見せず、目の前のトールの舌を美味しそうにぺろぺろと舐めあげている。

「えへへー、ねぇきょーじゅ。わたしこのまえのれろれろしながらお漏らししちゃうのやりたーい。ふぇ? 玩具で三回お潮を噴いてから? もう、教授はえっちでしょうがないなぁ♡」

ぶいーんというまるで前世のアダルトビデオで聞いたような機械音の後、リアラのきゃあんという嬌声と共に、快楽の噴水が真上に吹き上がる。

「はは、はは……巫山戯んな、巫山戯んなよ、なんでおまえら…こんなこんなエロくなってんだよ……は、はははは……」

リューイがゆっくり味わおうと決めた彼女たちの肢体。
リューイが優しく破いてあげる筈だった二人の処女膜。
結婚してからならお尻もいいだろうと思っていた淡い期待。
何回も性交するうちにやがて彼女らの体は性に目覚めて――、目覚めていくはずだったのに――

「あ゛っ……あ゛んっ♡ い……く、リュー君イクぅ、リアラ、噴いちゃうぅ♡」

ぶっしゃー、と目の前のリアラのピンクの股間から生暖かい飛沫が彼の顔面に降りかかる。

「あぁぁぁ……いくの、またいくのぉ……。やだぁ……いってるときにずるずる引き抜くのだめぇ……あぅっ♡」

ずぽん、と引き抜かれたアキのお尻の穴からこぽこぽとまるで水道の蛇口から水がでるように白い白濁液が流れ落ちる。

リューイは否が応でもわからされてしまう。彼女達は、そう彼女達が、この、たった数日間で、リューイが数年間思い描いた以上の、いや思ってもいない変態行為を沢山されて、そう、きっと朝も夜も無いほどに犯されて、そしてそれを受け入れてしまっていることに。

「えへへ、リュー君。みてるみてる? 今日は自分でいっぱいぬきぬきしていいからね、あんっ♡ ほらぴーすぴーす。リュー君の世界ではこういうのがエッチなんでしょ、あ、あんっ♡」
「ん、ちゅ♡ まあ、かけるくらいならいいわよ? そこら辺から扱けば届くでしょ? あ、そうなの。まあそれはリューイの精進が足りないってことで。きゃ、もうっ教授ってばぁ、髪べとべとですよぉっ。まあ、嫌いじゃないですけど、その、……んっ。もうこういうときだけ優しいキスするだからぁ……、あっん……ん♡」





れろれろと、ちゅむちゅむと。
狂おしいほどに屋内に響き渡る肉体同士のコミュニケーション。
リューイは思う。
目の前の奴らはもう何度こんな夜を過ごしたのか。
一度や二度ではここまで息の合ったセックスは出来ないと。

きっと、そう。
何度も。
何度も。
なんどもなんどもなんども。

彼女らはリューイのあずかり知らぬところで犯され、教えられ、そして調えられてしまったのだ。

自ら腰を振る淫乱に。
がしがし突かれる事を受け入れる娼婦に。
じゅるじゅる咥えこむ事を是とする淫売に。

「……狂っていやがる」

そして、リューイは、いや、稲本竜一は。
この世界で初めて、心の本心から。
打算とか、関係無しに。

――右手で自分の股間を一身不乱に扱き始めた。

「……ああ、ちっくしょう。ちっくしょう」

初めは無言で。
次期に卑猥な言葉を叫びながら。

「くそ……くっそ……、もっと見せろとよっその淫乱な股を股を開いてよーくみせろよぉおおっ!!」

稲本竜一は歪んだ心と、リアラとアキ達への忌憚の無い思いをはき出しながら。
自らの陰茎を扱き上げる。

「……ちっくしょう……エロすぎんだよ、二人とも。ちくっしょおおおおおお!!」

涙を流しながら、涎を垂らしながら。いつの間にか魔法の拘束をも振り切って、もの凄い勢いでリューイは両手で自分の一物を扱き上げる。

リアラとアキは、そんな彼を見て、なんだかようやく心の仕えが取れたような、本当に本当の心の奥底でもやもやしていた何かが消えたような気がして――。

「あっあっあん!! きもちー!! きょーじゅイクイクイクッ♡」
「あ゛ー、そこそこ、すごいの来る、ものすごいのきちゃう、あ、あ、あぁぁん♡」

二人はお腹の中にびゅるびゅると温かい何かを感じながら、とても心地良い快楽の中、その意識を手放した。

それと同時に、白濁に己のその暗い欲望を全てのせて、リューイ=コトブキもまた意識を失う。

そして、この時以降、リューイとリアラ達が出会うことは無かったのであるが。
彼らの人生は、それぞれ続いていくのである。

リアラとアキは故郷を救済し、今後魔王討伐に関してトールの正体を知らないまま王国協力していくことになるだろう。そして、リューイ=コトブキ。稲本竜一は――。






三時間ほど後、リューイ=コトブキはリアラとアキの部屋の中で憔悴した状態で発見された。下半身丸出しで、その股間から白い何かをまき散らしながら。

だが、その手に支配者の槍は既にない。

稲本竜一は、かのハルマ=ウィングステンと同じく転生の輪から外れ、この世界の住人と成り下がってしまったのだ。もはや彼はこの世界に縛られるだけの愚物である。

きっと、彼はこの世界で何らかの人生を送り、そして終えるのであろう。
彼が元いた世界に帰ることもなくだ。




今回も一人。

稲本竜一という魂の滴を受け止めた杯は、それを自らの血肉として吸収する。この世界を構成する一つの要素として。稲本竜一ではなく、リューイ=コトブキとして。

支配者の杯は魂の変換を完了させた。

そして身を震わす。
ああ、他の世界の魂はやはり美味いと。

その杯にとって、それは半ば自動的な作業であったが、支配者の符の持ち主であるハルマ=ウィングステンの魂を変換したときに、何かが目覚めた。この世界の中での魂の循環では得られない何かを杯は知ってしまったのだ。それは淡い自我というにもほど遠い深層意識の流れが、再びこの流れを繰り返させる。

次の転生を。
杯にたゆたう魂のプールを満たすために。
より、美味なる味で満たすために。

今や杖と剣と符と槍を持つあいつに刈らせて、我が内を満たそうと。
そう心の中で呟いて、杯は次元の壁へとその触手を伸ばす。
まだまだ、美味しい魂はいるはずだと。
歪んで、暗い、一方通行の支配欲を持つ、美しくも醜く輝くおいしい魂。

また呼ぶまでには時間はかかるかも知れないけれど。

杯は思考する。

そう考えると、あのリューイという少年の魂を変換するのは早まったかも知れない。あの槍は、おそらく成長し、最後には戦車とも言うべき位階まで成長する可能性があった。そうなってからこの世界のものにしたほうが良かったかも知れない。

杯は思考する。

いや、どのみち最後はあいつを喰えばいいことであった。
今はあいつに刈らせよう。
他の世界に歪んだ欲望がある限り。
力を与えて、招き続けるのだ。


我が内なる世界を満たすのだ。


さあ、次だ。
――お前は、どんな力が欲しい?

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