マスター☆ロッド げいんざあげいん

第七話 魔王トールと生徒達 リアラ=セイグンの場合①


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 ――時は遡る。

 それは、三日前アキ=カーマインがトール教授の部屋を訪れる少し前の話である。彼女の親友であり幼馴染みであるリアラ=セイグンは、既にトールの研究室に足を運んでいた。そして、彼女はアキ=カーマインとトールがした契約の状況を一部始終を見ていたのだ。

 アキが彼女の身を引き替えにして分相応な力を手に入れる道を選んだ事も、引き替えの条件に彼女がトールに対して嘘がつけないという誓約を得体の知れない何かに誓ったことも、リューイが乗り込んできたことも。そして、その傍らでアキが複数のコピートール達の慰み者になっているところも、さらにリューイが帰った後、アキが何食わぬ顔で戻ってきて、上気した顔で乳首を転がされながら、今もはしたなく股間から愛液を拭きだしているところも。

 彼女はその全てを余さず見ていた。リアラは今まで彼女達が維持していたほほえましい三角関係が、一瞬にしてふしだらで、おぞましい何かに変えられてしまった一部始終を見せつけられてしまった。

 ずぼらなリューイに対して姉のように面倒を見ていたアキはもういない。概念魔法という呼び水に誘われ、快楽の泉にたっぷりと浸かり、雌の一歩を踏み出してしまった。故郷を救うために。今までの関係や恥じらいや貞操をかなぐり捨てて、前に進むことを決めて歩き出してしまった。

 きっとアキは自分にとってもお節介焼きでいて、それでいてしっかりと甘えさせてくれる頼れる幼馴染みでは無くなってしまうだろう。同じように自分も概念魔法を手に入れても、トールを中心とした同位の関係に再構築され、そこに果たして以前のような関係に戻れる余地が残るのであろうかと。きっと自分の願いは叶うのだろうと彼女は思った。だがそれ同時に彼女は不安になった。

 ――そう、とてつもなく、不安になったのだ。

「トール教授、お聞きしてもいいですか?」

 目の前でアキの乳首が両サイドからコピートールに指で弾かれて、それでいてアキ自身がとても幸せそうな、気持ちよさそうな顔をしている光景を見ながら、リアラは口を開いた。

「アキちゃんは……、私達を……私とリュー君を切り捨てたんですか?」

 リアラの両手は硬く握られ、震えている。コピートールの肉棒から出される白濁に舌を伸ばしつつあるアキ。彼女の舌はそんな事を知らないはずだ。あの凶悪な陰茎を舌先でちろちろする事なんて知識も無いはず。ほおばるようにしゃぶって、亀頭を捏ねて吸い上げるなんて、そんな動きの存在だって知らないはずなのだ。そんな側面は決してアキは自分たちに見せていない。それを他人の前に出すと言うことは、いずれリアラにだって露見する。つまり、アキはもうリアラやリューイのことをその程度と認識したということだと。

 まるで別人。
 まるで遠い人。
 あの性に対して潔癖な彼女にそんな卑猥な側面があったのと、リアラの心中がかき混ぜられる。

「本気でそう思ってるなら、リアラちゃん。僕は君を見誤ったことになるけど――」

 トールは少しため息がちにリアラを見やる。

「リアラちゃんも、わかってるでしょ?」

 ぶーん、とリアラの前に遠視投影(ディスプレイ)の魔法が現れる。それは「おすそわけ」をもらってしまったあの夜の部屋。リアラとアキは、同室であるにも関わらず、それぞれのベッドで、それは激しく自分を慰めた。

 ぷちゅ、くちゃ、ぷしゅ、
 ちゅこちゅこ、くちゃくちゃ、ぬちぬち

 押さえられた声よりも、部屋中に響く卑猥な音が、二人の股間から流れ出ていたあの夜。
 粘つく生臭いお裾分けを口の中に出来るだけ溜めて、指でかき回しながら、何度も股間のお口をかき混ぜたあの夜だ。お互い朝に顔を合わせたとき、気まずそうな、それでいてしようが無いような微妙な笑顔を交換したあの朝。

「そうでした……、私とアキちゃんは、すごく気持ちが良くて、我慢が出来なくて、それで、それを捨てきれなかったから、ここに来たんです」

「大体あってるけどちょっと違う、リアラちゃん、ふだんぽややんとしてる割には結構性格重いねぇ、でもそんなところ俺、嫌いじゃないよ?」

 トールが立ち上がり、つかつかとリアラの側に寄る。そしてその場でしゃがみ込み、彼女の張りのあるふとももの内側をさわさわと優しく撫で始めて

「……やっ、教授、何を――」

 ゆっくり、ゆーっくりと、その指先をわしゃわしゃと動かしながら上へと動かしていく。リアラの股間へと。

「……教授、やめてください。やめて……ください」

 リアラの内ももを本当にいやらしく、そして優しく這うトールの五本の指。当のリアラ本人はちょっと後ろに下がれば、彼の指は届かなくなるというのに一歩も動かなかった。目の前でアキも性的な行為を受けているから?教授に何かされて動けないから?

 そんなことはない。

 リアラはまだトールとなんの契約もしていないし、
 トール自身もまったく、何もリアラに制約をかけていない。

 内ももの柔らかい肉を適度に押され、そして擦られながら、その指がももの付け根へと移動するのを、彼女は黙って我慢した。人間の内側の皮膚は敏感で、感覚が鋭い。ましてや自らのスカートの中で動く他人の指だ。その異物感は最たるものであろうし、トールのごつごつとした指は相当の刺激を彼女にもたらすであろう。

「だめです……教じゅ……んっ…んっ」

 リアラの下着と素肌の境界線を徹の人差し指と中指が執拗になぞっていく。右足の太ももの付け根の皺を一本一本味わうような、いやらしくもおぞましい動き。二本の指が右ももの表面を撫で上げてから汗ばむ股間をスルーして尻肉まで達しぷよぷよとはしたなく膨らんだ肉を指先で丹念に弄んだ後、再び折り返す。当然親指の付け根がリアラの股間に食い込んで、潤んだ股間から熱気が漏れる。

「……ふ……んっ……んっ!! やめ…て、やめてぇ……」

 トールの手はリアラの左太ももへ。こんどは手の甲で左側の太ももをすりすりと撫でる。きめの細かいすべすべのリアラの肌の内側を楽しむように、ゆっくりと、優しく。

「……はぁ……はぅ……ぅ」

 そしてずずっとトールの右手は手の甲をそのまま内もも添いに這わせて、さらに奥へと潜り込み、クルリと手の甲を上に向け、その手甲をリアラの股間の肉にじっとりと押しつけながら、ゆーっくりと引き抜く。

「ふぁ…ぅ……あぅ…ぅ…」

 リアラの柔肉が、トールの屈強な手首の味を知り、
 硬く、逞しい指の節々を堪能し、

「んあっ……、んやぁ……っ♡」

 まだ、幼い肉目が、男の手の硬さを知り、リアラの口から吐息としてはき出させた。それは昨夜の一人遊びでも出なかった体が出す本気の声。リアラは思う、今、もしこのトールの手が180度向き直り、その手の平と指で自分の股間をまさぐり始められたら……、きっと、おそらく自分はそれを受け入れてしまうだろう。

 きっとそうだ。とリアラは思う。
 現にこの通り数回股間の下を往復されただけで、

 ――自分は自ら足を開いているではないか、と。

 快感に耐えるためか、それとももっと弄ってもらう期待故か。当初指数本分の足幅が、今は大の男の腕を通すぐらいに股を開いているのだ。

「……おーい」

 リアラは思う。自分は今ここで犯されるのだと。返すその手で股間をめちゃくちゃに揉みしだかれ、目の前のアキの様にはしたない格好をさせながら、股間の穴も後ろの穴も卑猥な指で心も体も解きほぐされて、

「……おーい、リアラちゃーん?」
「ふえええぇ、お尻の穴ははやいですうぅ……ダメですぅううう」

 と、リアラはぷるぷると、頭をふり、

「あー、おほん」

 という、トールの咳払いで正気にもどった。

「ふえぇ、ふええええ!?」
「いやー、親友であるアキちゃんのえっちなところを見ちゃってショックなんだろうけどさー」
「あ、あ……、あぅ、……あうあうあうあうぅ……」

 リアラは顔を真っ赤にして、ずささささと、部屋の角まで後ずさる。
 トールはその様子を楽しそうに半目で見ながら――

「リアラちゃんってさぁ、結構ムッツリスケベだよねぇ……」
「ひやあぁぁぁぁああ!!」

 部屋の隅っこで両手で顔を隠しながらぶんぶんと、いやいやをするリアラ。ぼしゅうと煙がでてもおかしくないくらいの赤面様である。

「げへへ、リアラちゃーん? 清純そうな顔をしとるようで、その綺麗なお顔の下でどんなえっちな事を想像していたにゃーん? リアラちゃんの頭の中ではリアラちゃんのお口とお股とお尻には何本の指がささっていたにゃーん?」
「ふええええぇ、いやああああ、もうやめてくださぁい……」
「わはは、いや、若いっていい、すっごくいい!!」

 壁の隅っこでどんよりしているリアラの周りで壁から上半身だけ出してねぇどんな気持ち?と煽っていたトールであるが、散々弄り倒したあと、ちょんちょん、リアラの肩を叩く。

 三角座りで腕を組み、突っ伏しているリアラは少し冷静になり、そこまで弄られる筋合いは無いのではと、少なからぬ怒りがふつふつとわき上がっているらしく、どうも彼女のトールに対する視線がキツい。

「……なんですか」
「いや、ごめんね。リアラちゃん。ジト目も可愛いね。まあ、あれだ。変わりにすっきりさせてあげるから許してちょ。」
「……言ってみてください」
「――さっきの気持ちよかったでしょ?」
「……お、怒りますよ、ほんっとうに怒りますからね?」
「いやいやいや、ちょっとまってリアラちゃん、俺が言いたいのはね、体って奴は気持ちよければ動いちゃうの。だからそこにアキちゃんの責任はない。故にだ、アキちゃんのエロい一面は隠してたとか裏切られたとかそういうんじゃない」
「それじゃぁなんだっていうんです、……!!」

 そう言った後。むすっとした表情をしていたリアラがばっと顔を上げる。
 彼女の中で何かが繋がったような、何か思い当たったような、そんな表情。

 それを確認してトールはやれやれと呟いた。

「――そうだよ」

 と。
 そしてリアラが呟く。

「……アキちゃんが天秤にかけて切ったのは」

 アキの行為の意味を。

「……まさか、リュー……君!?」

 くっくっく、くっくっくっと。

 静寂の中トールの嗤い声が響く。よくできました。とリアラを褒め、そして彼女の中の疑念を正確に形作り誘導する。悪魔の導きが今始まる。その言葉は、彼女に警戒されない音量と声色で、正確に彼の口から紡がれた。

「リアラちゃんさぁ。よりにもよってその答えが一番に出てくるなんてさぁ、もしかして君にも心当たりがあるんじゃないのかい?」

 トールの言葉にリアラは押し黙る。だがそれは答えを言っているとも等しい。

「リューイ君の、胡散臭さにさぁ?」

 その言葉を聞いたリアラの記憶が、鮮明によみがえる。

 リューイが二人の故郷に現れたのはリアラとアキがまだ十三歳のころだ、旅装束で、黄金の槍を担いで来た彼は、村の周囲の治安を治め、生活のための水源を一時的に確保する手助けもしてくれた。その後一年近く一緒の村で暮らし、アルバへ水に関する魔法を学びに行くとリアラが相談すれば、護衛としてついてきてくれて、おまけに道中の冒険者としての活躍で、このアルバの学院では三人は特待生扱いである。

 リューイは力もある。性格もよい。困っているリアラとアキを決して見捨てず、故郷まで救ってくれる、端から見れば好ましい、聖人の様な完璧超人。

 ――なんの報酬も無しに。
 ――なんの見返りも無しに。

 リアラは思う。それは、この世界で果たして正常なことなのだろうか。多少であるならば分かる。そんな話は星の数ほどある。だが、これほどのことをして、何故無償で未だ自分とアキの人生に長く付き従い続けるのか。

 違和感はあった。
 いや、今トールの言葉によって明確化されたといってもいい。

 彼が時折見せる、この世界の住人でないような思想や考え方。
 万能概念という訳のわからない力のくせに、それで全てを解決できるという俗物じみた技。

 リューイと自分たちは同じ人間だが、もしかしたら内面は、決定的にどこか自分たちと違うのかもしれない。そう、彼はひょっとして、


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 付き従っているのではなく、付きまとっているのではないか。


「ねぇリアラちゃん。彼がもしさ、聖人なんかじゃなくてさ、損得を考える僕らと同じ人間だったら?」

 リアラは答えない。

「君たちを助け、守り、育んだ彼の行為が、今も続くギブアンドテイクの一部だとしたら?」

 リアラは答えない。

「その積み上がった代償に対して、リューイ君はいったい君たちに何を求めているのかな?」

 リアラは答えられない。

 なぜなら、それは仮定の未定で、空想の妄想に過ぎないから。
 そう信じないとリューイ=コトブキという存在が怖くて、恐ろしくて。

 ――気持ち、悪くて

 その嫌悪感を、リアラは思い出す。そう、思い出してしまった。あれは数年前、故郷の自宅でアキとリアラのお風呂に偶然リューイが飛び込んできたときに、自分の裸体を見られた時。

 その時の彼の目が。

 父親とも、兄弟とも、友人とも異なるあの視線の不気味さは。
 決して、十数年足らずの少年が持ち得ないような、値踏みするような粘っこい目線。

 当時はわからなかったが今はわかる。

 あれは、酒に酔ったゲスな中年冒険者達が、リアラやアキの尻や胸をみて、卑猥な話に花を咲かせる時の目と一緒なのだ。

「間違いかもしれない。嘘かもしれない。勘違いかもしれない」

 トールが壁から全身を出し、つかつかと自分の椅子に戻る。

「でも、そうじゃなかったときに、リアラちゃんやアキちゃんはリューイという暴力に対抗できない」

 椅子に座り、足を組む。

「……までは、考えてないけど、保険程度には考えてるかもしれないね、アキちゃんは。」

 リアラは、アキの考えていることが少しだけ分かってしまった。彼女はきっと「おすそわけ」でこの能力が、故郷を救う能力以上のものと考えたときに、人生をかけてあらゆる思考を巡らしたに違いない。

 だから、故郷のを救う以上の力を完全に欲したのだ。なぜならそう、リアラは分かってしまった。黄金の槍の持ち主、リューイ=コトブキは、きっと――、

「ねぇ、リアラちゃん。将来さ、君たち二人で仲良ーくリューイ君のお嫁さんになって、交互にえっちしたり一緒にえっちしてさ、三人一緒に仲良く子作りして子育てする気あんの?」

「――それはないです」

 リアラ自身、その言葉は驚くほど速く、正確に、すっきりと声にでた。

「――ふふん、それじゃ、今俺と、恥ずかしいけど、えっちな事をいっぱい、たくさん、それこそ人生観が変わるくらいの気持ちが良いことをこの一週間して、彼の概念魔法なんかで押し切られない力を手に入れて、ついでに故郷も救えちゃうってのは?」

 そのトールの問答にリアラは少し吹き出してクスクスと笑う。

「教授……。それ、リュー君の願望と、どう違うんですか?」
「――失敬な」

 少し憤慨しながら、トールは答える。

「俺はほら、彼と違ってオープンだし。何より、リアラちゃんがこの申し出を断っても俺は無理強いはしないよ」
「でも、断ったら私たぶん高確率でリュー君に食べられちゃうんですよね?」
「うん、それは悔しい。何よりリアラちゃん可愛いから、そうなったらリューイ君ぶっころす。そんで君たちの故郷も水源どころか荒れ地をふさふさの緑色にしてあげるよ」

 と、事もなげにいうトールに、

「くすくす、……それじゃ、私やアキちゃんは何もしなくてもいいじゃないですか」

 と、彼女は今までの緊張はなんだったのかと、いつものリアラ=セイグンその人に戻って元の明るい雰囲気を纏いだす。

「いいね、やっぱリアラちゃんはシリアスな顔もかわいいけど、笑った方が百倍エロ可愛いね」
「あのぉ、そこは普通に可愛いって言われた方が女の子は喜ぶと思いますけどー?」

 よいしょ、とリアラは部屋の隅から立ち上がり、トールの前へと歩く。

「すっきりしましたトール教授。すごく、本当にもの凄く――すっきりです」

 そして、トールの右手に黄金の錫杖が現れ、とん、と地面を突いた。

「支配者要求――」

 トールの声が響く。

「――誓約空間」《僕は君を裏切れない》

 研究室を構成する物質がぼろぼろと溶け、そして交渉のテーブルと椅子が組みあがる。アキと同じようにリアラも世界を侵食する冒涜的な行為に感じ入ってしまうと同時に、彼女はトールという存在がリューイなど歯牙にもかけぬ強大なものだと言うことを再確認する。

(アキちゃんが覚悟を決めたのも多分、これが決め手なのかな……)

 それは圧倒的強者の庇護の獲得。彼女達に付きまとう不安を最悪一掃できるという力強い後ろ盾の存在。そんな彼女の心を見透かしてか、トールはアキの時と同じように彼女に要求する。

「じゃあ、条件を決めようか、リアラちゃん。――さあ、君の願いを言いたまえ」

 席についたリアラは、その持ち前の明るさでこう答えた。

「はい、トール教授。全部ください!!」

 リアラとトールの間に一拍の間。珍しくトールが首を傾げて困った顔をしている。

「えーと、リアラちゃん? 全部っていうと――」

 トールの疑問にリアラは迷い無く答えた。

「はい、全部です。概念魔法も、リューイ君から私とアキちゃんを守ってもらう事も、故郷をふさふさの緑で覆ってくれることも――全部です……私一人で、足りますか?」

 トールは傾げた首をぐいっと戻す。そして一言。

「――ちょっと驚いたな。こうして煽った俺が忠告するのもアレなんだけど。リアラちゃん、リューイ君が本当に良い奴だったって可能性もあるんだよ?」
「教授のお話だけだったら、迷っていたかもしれません。でも過去に少し思い当たる件があったのと、さっきの乱入劇を見ちゃいましたから」

 リアラの発言を受けて、しばらく考え込んでいたトールは一つ彼女を試す質問を投げかけた。

「ねぇリアラちゃん、君、魔法学院の生徒の前で俺にお尻を犯されながらおしっこ飛ばせる?」
「リュー君と一緒に子育てするよりかはましです」
「うわぁ……、彼も嫌われたもんだなぁ。その思い当たる何かが分からないけど、相当なもんだ」
「それに教授。そんなこと言ってほんとにしませんよね?」
「当たり、リアラちゃんがどうしてもやりたいってなら、やぶさかではないけど」

 そういってトールはぎっちり、と椅子に寄りかかりやれやれとため息を吐いた。

「いいよ、リアラちゃん。全部面倒見てあげる。そのかわり――」


 ――(               )


「はい、それくらいでしたら」

 その条件をリアラが快諾したことで、誓約空間が動き出す。二人の心と体に楔が打ち込まれ契約が完了した。

 周囲の風景が研究室へと戻る。
 リアラはぼふっと来客用のソファに着地し、いつも通りの机と椅子に座った状態だ。ここへ来た当初のシリアスな表情はどこへやらである。この日事は進まず、彼女は部屋へとある意味無事にたどり着き――




 そして――




 リアラはいつも通りの生活にもどり、元の学園生活へと戻ったのであるが……。
 授業が終わり、アキの様子を見てくると言ってトールの研究室へと向かったリューイを見送り、彼の姿が見えなくなるやいなや、リアラは自分の席で大きなため息を付いていた。

(と・お・る・きょ・う・じゅ?)
(はいはーい、なんだーいー?)

 念話で聞こえるお気楽な返事にリアラは青筋を立てる。

(教授、何か私に言うことありませんかぁ?)
(え、リアラちゃんもしかして怒ってる?気持ちよくなかった?)
(そ、そういう問題じゃないですっ、じゅ授業中にあ、あんな、あんなこと……)
(あー、ごめんねぇ、さすがに初日からおもちゃ責めはきつかったかにゃー、あ、もしかしてリアラちゃん)

 ――授業中にお漏らししちゃったの気にしてるの?

  と、トールの念話が届くやいなやリアラはがたんと勢いよく席を立ち、教室を出て行ってしまった。

  (教授の馬鹿ぁっ えっちぃっ 変態ぃぃいっ)

 と、念話で毒づきなからリアラはトイレへと駆け込み、個室へ入り鍵をかけて便座に座り、ふぅ、と一息つき、ぐっしょりと濡らした下着をゆっくりと下ろした。

「……ん、……んっ」

 そして、魔法で貼り付けてあった今も忌々しく弱く震える卵形の木型を魔力を弱めて取り外す。 ねっとりと粘ついた何かがたっぷりと付着しているそれをみて、リアラは自分があそこで漏したのは、尿だけではないことを自覚した。彼女はしばらくうっとりとその木型を見ていたが、

(はーん、リアラちゃんえっちな顔してるにゃーん)

 というトールの念話により、また彼女の表情から力がぬける。にゅっと個室の壁から二人以外には不可視のトールがにゅるりと、登場する。リアラはジト目でトールを見ながら、

「……はぁ、なんで私全部なんていっちゃったんだろう」

 と呟いた。

「だってリューイ君から守るためには四六時中ついてなきゃいけないし? あとエッチは契約だし? ばれないようにごまかしたから大丈夫だよ? 隣にいたリューイ君なんかリアラちゃんがびくびく可愛い声出してイってる時なんてぐーすか寝てたじゃん?」

「時と場所を選んでくださいっていってるんですけど?」

 ジト目のリアラ。

「えー、それじゃ何処ならいいのさー?」

 と、トールが半透明で気持ち悪く空中でくねるがすぐに止まる。なぜなら、彼の腕をリアラが掴んだからである。

「――ここなら、いいですから」

 潤んだ目で、上気した顔で――
 もう一方の手でくちゃくちゃと、股間をかき混ぜながら。

「ちゃんと、……んっ……あっ、責任とってくださいね?」

 こうしてトールの熱心な教育の結果、熱い吐息と共に彼女は歪んだ性に目覚めていくのであった。

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