マスター☆ロッド げいんざあげいん

第一話 魔王トールとハルマ君(1)


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 魔都ヴィンランドルを取り囲むようにそびえ立つ禍々しい城壁と付随する難攻不落のダンジョン。ハルマ達一行はその南端、通称南獄門と呼ばれている扉の前に来ていた。本来堅く閉ざされているはずのその門は、まるで挑戦者を誘うようにその扉を開放し、その奥から暗鬱な空気を吐き出している。

「うわー、雰囲気でてるわねー」

 少し陰鬱な気分で呆れた声を上げたのはシーリスである。いつもは進んで先行する彼女であったが、ダンジョンの雰囲気と規模に呑まれ、少し及び腰である。

「ハルマさん、本当に私達だけで行くんですか? 隣のアルバ王国の軍に協力を求めるとか……」

 クレスタが不安げな声でハルマを見上げる。
 そんな彼女に、大丈夫だよ、とハルマが微笑むと、

「……大丈夫クレスタ。……どうせハルマのことだから、……かなり身も蓋も無い考えで色々台無しにするはず……。あとクレスタ近い。……私もハルマとくっつきたい」

 ステラがぼそぼそと、つぶやきながらクレスタと反対側からハルマへと密着する。

「――ステラ。君を助けた時はある意味例外だよ、僕はいつもあんな方法をとっているわけじゃない、なあ? シーリス」
「……はぁ……はぁ。ハルマいいにおい……。魔術決闘ってことで約束して、相手が用意した決闘場ごと外から破壊とか……、普通考えない……。でも……そこが好き……はふぅ」
「こらステラ。くっつくのはその、まあ慣れたからいいけど、僕の手を服の中に引きこむのはやめなさいって言ってるでしょ」
「はぁ……はぁ……、いい加減ハルマは私達の思いに気づくべき、シーリスと付き合って、クレスタと結婚して、私を愛人にするのが一番バランスがいいと気づくべきなの……」
「――まったくもう。――いいから離れなさい。ほら、クレスタもシーリスもなんとか言ってくれ」

 そういってハルマは二人を向き直る。

「――えっ、その――、ど、どうしてもッて言うならつき合ってあげるけど?」

 とシーリスが顔を真赤にしてポニーテールの先をくりくりと指で弄っており、

「うふふ……。ハルマさん、私子供は2人がいいです~」

 クレスタはスリスリと気持良さそうに頭をハルマの腕に擦りつけていた。

「いや、君たちね。僕らは今魔王って呼ばれているやつの目の前にいるわけなんだけどさ」

 ちょっと引き気味のハルマにステラは真剣な顔で首を振った。

「……だからこそなの。ハルマはもうお金持ちだし、シーリスの実家の人脈もある。貴族だけじゃなくて教会にもつてがある……。……そろそろ身を固めるべき、……最近はシーリスもクレスタも夜な夜な宿でオナ――」
「きゃーきゃー!! ステラあんた何いってんのよ!!」
「……そ、そうです。ハルマさんになんてことを!!」
「……いまさら何を、……私の貴重なハルマコレクションを勝手に――」
「わああああああ!! ステラ!! やめて!!――お願いだから!!」
「そうです!! わ、私だってお風呂でハルマさんの残り湯でえ、えええっちなことなんてしてないですからー!!」

 そんな3人の様子を見ながらハルマは口を開く。

「……君たちね、いやまあ嫌じゃないけどさ、もう少し節度をもちなさいよ、……でもありがとう、そんな君たちが僕は嫌いじゃない。そうだね、この件が終わったら――、一緒に暮らそうか。――3人が良ければさ」

 そう、ハルマがいった瞬間。
 シーリスの鼓動がどくん、と跳ね上がり。
 クレスタの目に涙が浮かび、
 ステラの寡黙な表情にすっと微笑みがさし、

 ――その様子を遠視投影で覗いていた徹の我慢の臨界点がついに決壊する。

『――その幻想を、ぶち壊してやるぅううううううう!!』

 突如乱入した叫び声とともに、開きっぱなしであったダンジョンの扉から、複数のミノタウロスが踊り出て、徹たちへと襲いかかる――。

「――ダブルスプレッド」

 こわばる3人を庇いつつ、ハルマの冷静な声が支配の護符マスターカードへと宿る。
 一瞬にして2枚のカードがそれぞれミノタウロスを挟みこむように配置され、

「――支配者要求(ルーラーリクエスト)、――貫け、正義の剣」

 発動するのは、剣のカード。カードとカードを結ぶ直線上に数えきれないほどの剣が召喚され、ミノタウロスの体に突き刺さり、貫いていく。剣の形をとっているもののそれはもはや防御力無視の力の塊。概念武器のようなものである。たかが怪物如きでは防ぎ用のない威力であった。

 だが徹の襲撃はまだ終わらない。
 ミノタウロスがやられている隙に、ゴブリンやオークの集団がハルマ立ちを囲んでいた。

 ――いくら強力であろうと所詮少数。数の力には及ばない。

「――とでも思ったかな?」

 ハルマは不敵に笑う。

「――トリプルスプレッド」

 直線上だった剣の召喚が、三角形の平面へと変化し――、こんどは範囲攻撃となりオークたちを蹂躙していった。

 ――そして。

「――クロス――スプレッド」

 4つのカードの交点が、ハルマの両手の中で十字を形作り、そして変化する。
 使用されたカードは弓・矢・炎、そして風。
「――支配者要求(ルーラーリクエスト)」

 光の十字は、弓の形になり、そしてハルマは両の手でそれを掴み、限界まで引き絞り――。

「――放て、――炎閃光爆矢アトミックイレイズ」

 二乗三乗四乗。カードを重複使用する度に威力が跳ね上がった炎の矢フレアアロー。だがしかし、その効果はもはや戦術兵器である。昏く口から溢れ出る怪物の扉目掛けて打ち込まれた、炎の一閃は、膨大な光と熱を持ってその空間を蹂躙する。

 ――大爆発。

 今まで誰にも攻略できなかった魔都のダンジョンが、理不尽な破壊というこれまた誰にも不可能と思われる方法で瓦解した。

「さあ、待っていろ、魔王トール。――この僕が直ぐに君を倒しに行くからな?」

 そして、決め台詞と共に不敵に笑うハルマが、さあ、いこうかと後ろを振り返る。

「――なっ!?」

 そして全くの予想外の光景にハルマは絶句した。
 シーリス、クレスタ、ステラの姿が忽然と消えていたのである。

「甘いなあ ――ハルマくん!!」

 遠視投影がハルマの目の前に表示され、その中に映るのは、玉座に座る徹とその足元で気を失っているシーリス達3人が視界にはいる。

「く、いつのまに!!」
「おほー、ふとももすべすべー、おいしそうだにゃー」

 憤るハルマを他所に、遠視投影の中では徹が気を失っているシーリスのスカートを捲り、太ももをさわさわと撫で始める。

「もうここは僕の陣の中だよハルマ君? マスターロッドは陣の中ではなんでも有り。カードは教えてくれなかったのかい?」

「――黙れ。……この魔都ごと破壊してやってもいいんだぞ?」

 先ほどとは打って変わって冷たい声がハルマから吐き出される。

「――わーお、そっちが君の素かな? ……怖いなぁ、ハルマ君。名前からすると君日本人かな? こっちの世界では随分よろしくやってみたいなね?」
「――貴様……ッ」

 徹の何気ない一言に、ハルマの心が揺さぶられ、脳裏に「昔の現実」がフラッシュバックする。ただ平凡に支配される、あの日々を。

 だが、そんな動揺が徹の一言で一瞬にして冷めてしまう。

「いやあ、お仲間がいるってのはなかなか嬉しいね。誤解しないで欲しいんだけどさ、俺は君のことは別に嫌いじゃないんだ、きゃわゆい女の子も連れてきてくれたし、邪魔しなければ命は取らないから帰っていいよーん」

 ハルマは思う、こいつは今、誰に、何を言っているのかと。

「――馬鹿言うな、彼女達を返せ」
「んー、取り返しにくるなら止めないけど碌なことにならないと思うよ? 俺の陣の中で自由にそのカードが使えると思わないほうがいい」

 だが徹のそんな警告にハルマはにべもなく答える。

「――お前の言葉は信用しない。いいか、もし彼女たちに何かあったら、全てをぶち壊してやる」
「えー、ずいぶん自分勝手だなぁ。――しょうがないなあもう。それじゃ一日だけ待ってあげるよ。それでダメだったら諦めてよねー? ってあれ気が早い。もうダンジョンに入っちゃたのか」

 見れば遠視投影の画面の中で恐ろしい顔で睨みを聞かせていたハルマは既に居なくなっていた。探知をしてみれば既に迷宮の中のようである。

「……さて、と」

 そして徹はふむ、と頷き。無人に見える遠視投影の中へと飛び込んだ。空間が接続され、ハルマが先ほどいた場所に徹が降り立つ。

「おきてー、シーリスちゃーん、クレスタちゃーん、ステラちゃーん?」

 何もない空間に向かってしゃがみこみ、徹は呼びかけた。

 ――景色が歪む

 そこには、気を失い、横たわった本物の3人がそこにいた。
 そう、ハルマは徹のフェイクに見事に引っかかってしまったのだ。
 徹は実際の映像を歪めて見せていただけである。

(甘い、甘いぜハルマくん。ただ攫って犯すなんてシチュエーションを考えているようじゃ、エロ道は極められないぞ-?)

「ん、んん……、」

 そして徹は一人づつ彼女たちを覚醒させ、情報を吹き込む。
 支配の剣マスターソードで3人から疑念という感情を奪い去り、そして信頼という偽りを植え付けて――

「さあ、早く追いつこう!! ハルマが危険だ、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 大丈夫、俺達は今までこんな事慣れっこだっただろ?」

「――わかってるわ!! 当てにしてるわよ、トール!!」
「はいトールさん!! ハルマさんが心配です。急ぎましょう!!」
「……トールがいるからいつもハルマは暴走できるの……わるく思わないでほしい……」

 (……ちょろいなぁ)

 目の前で踊るぷりぷりした3人のお尻を視線で愛でつつ。
 徹はこれからの展開を予測し、口元を歪めるのであった。

「わはは、全てこの俺にまっかせなさーい!!」

 陵辱の宴はこうして始まったのだ。

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ぬける  
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