変化は唐突に現れた。ある日を境に徹のダンジョンへ一般の冒険者が全く来なくなったのである。その理由は簡単なことだ。徹のダンジョンが位置する国、ヴィンランドル王国が、かのダンジョンへの入場を禁止したからである。実入りの良い一階層~四階層までの稼ぎを当てにしていた冒険者達は随分と急なその国の対応に反発するが、所詮それは個人レベルの話である。正規軍による隙間ないダンジョン入り口の封鎖を見れば、すごすごと帰っていくしか無いのだ。
そんな中、ダンジョン内に一人の人影が動いていた。彼は小さなスコップで延々とダンジョンの地層を掘り返していく。
「「ひーめさまーのたーめならー」」
と、右の兵士達が音頭を取れば、
「「えーんやこーら」」
と、左の兵士達が合いの手を入れる。
そんなむさ苦しい男空間の中、カイルは一心不乱に地表を掘り返していた。
(あれー、なんで自分、マスターのダンジョン掘り返してるんスかねー。これ、けっこーヤバイことしてないっスかねー?)
そんな思考がカイルの頭を過るが、何故か体が自分のいうことを聞かないのだ。そもそもいつから自分はこの作業をしているのだろうかと、カイルは思う。王宮に連れて行かれてから今までの記憶が曖昧でどうにもこうにも自分の記憶が思い出せないことに関係があるものなのかと。
――ぱきん
と、いうガラスを割ったような音。それはカイルが二メートル四方の掘り返しを終え、徹からカイルへと、概念空間の権利の書き換えリライトが終わった証である。二メートル四方とは言えど、既に徹が切り開いた空間なので、底の部分さえ堀返せばあとはまた何かにぶつかるまで上方向に関しては一瞬にして権利の書き換えが行われるイージーモードである。そんな行為をどれくらい続けていたのであろうか、第一階層から第三階層までは既に、二メートル幅の概念通路が徹のダンジョンに出来上がっていた。そしてカイルは半自動的に更に作業を続けようとするが、
「――勇者様!!」
薄暗いダンジョンに似つかわしくない、透き通った声によってその行為は中断を余儀なくされる。カイルが振り向くと、そこには純白のワンピースドレスに見を包んだ少女がいた。軽くウェーブがかかったブロンドの髪に、透き通るような白い肌。十三歳という少女というには少し色気がでた、しかし女というにはまだあどけない、若干の丸みを帯びはじめた若い体。その体に不釣り合いな黄金の剣を持ち、少女はカイルに駆け寄っていく。
(あれ、ローラ姫じゃないっす、おおおおおおおおおおおお!?)
カイルの下半身に、ぞくんと興奮が走る。
「勇者様、お疲れ様です!!」
と、土まみれ、泥まみれのカイルに何の躊躇もなくローラは抱きつく。ここ数年で主張をし始めたであろうささやかな胸のカーブと、まだ男の手を知らない柔らかいお腹の感触が、無遠慮にカイルへと押し付けられた。そしてふとローラの頭越しに視線を落とせば、小生意気に突き出たお尻がくいっとつき出ており、さあ存分に触ってくれと言わんばかりにふりふりと揺れている。柔らかな生地の洋服が丸みを帯びたお尻の形をくっきりと浮かび上がらせる。
ごくん、とカイルは唾をのんだ。眼の前にある女を出し始めた幼い純白の果実。男ならば誰だって汚したくなるものである。
(やわらかいっス、いいにおいっス、そして、すごくおいしそう(性的に)っス……)
「……勇者様?」
フリーズするカイルを上目遣いで見上げるローラ。その行為が、少しゆるめの白いワンピースドレスの浮いた布地から控えめなふくらみを覗かせる。ぎゅー、っと密着したローラとカイルの体が少しずれるだけでもその幼くも大人への一歩を歩み始めた体は実にやわらかな感触をカイルに伝えるのであった。
「……ぁ、勇者様、動いちゃだめですわ」
はぁん、とローラの吐息が至近距離でカイルへとかかる。
(頂点が……、あともう少し首をずらせばぽっちりが……!!!! 柔らかそうな、指とか舌とかでぷにぷにすれば、ぷるんぷるん出来そうなぽっちりがぁああ、ぐぎぎぎ、なんで、なんで自分の首はこれ以上動かないッスかぁあああああ!!)
「ぁ……もう、勇者様。……あん」
小声で吐息混じりにカイルへと囁くローラ。もじもじと所在無さげな動きが、カイルとローラの密着度を上げていく。
(うおおおおお!! 何に感じてるっスか? 何が擦れてるっスか? 何に擦れてるッスか? 乳首っすか? 乳首っすね? 清楚な顔して男に抱きついて、もう乳首はこりこりっすか? あー、もう姫様ナチュラルにエロスギィ!! ちょっとその先っちょ見せてみい!!)
しかし、カイルの体は動かない。
動かせるはずがない。
かの剣にて切られたカイルの挙動の全ては、既にマスターソードの支配下である。
しかし、その事自体をカイルは気付けない。
――マスターソードの使い手がそれを許していないから。
――マスターソードの使い手がそのような役割を与えているから。
概念武装・マスターソード。
その剣に切りつけられた全てのモノは使い手の支配に置かれる。
徹のマスターロッドが陣の支配力という方向に特化した概念武装であるのならば、マスターソードは局所に置いての支配力に特化した概念武装である。
(通常なら、マスターロッドの支配領域への侵攻なんて無茶ですけど、うふふ、私わたくしの武装はこうして使い手さえ切ってしまえば、案外どうとでもなるものなのですわ……)
今だ自分の胸を上から覗こうと必死に体を捻るカイルをちらりと見て、ローラはため息を付く。
(このお馬鹿がここの株分けだって言うのならば、親の方も大したことは無さそうですね……)
そしてローラ思い返す。自分が潜ってきた宮廷の修羅場はこんなものではなかったと。腐敗する貴族。精神を病む王と王妃。一歩間違えれば彼女は実権を握った豚貴族たちの慰み者にされていてもおかしくなかった。
いや、実際はその寸前だったのだ。
豚貴族に嵌められて、邸宅を逃げまわり、偶然宝物庫へ迷い込みこの剣を手にし、あの汚らわしい豚貴族を真っ二つにするまでは。
そこから彼女の行動は早かった。黄金の剣と共に急速に王宮内を粛清していく。貴族も、役人も、兵士も、親族も、そして自らの両親さえも。その間、僅か一年間。彼女の支配下にあるものは既に五千を超える。日に十人以上の人間に刃を入れつづけるという、十三歳の少女としては在るまじきその異常事態。その恐ろしいまでの実行の早さは、決して王族としての義務や使命感からでもない、それは妄執にも似た、支配欲。
――愚物は、私わたくしが管理してあげなきゃ。
――ああ、なんと美しいことなの。
「私わたくしに支配され、整ったこの王国は、なんて美しいのかしら――」
とん、とローラはカイルを優しく突き放す。鼻息を荒く、自分の体に興奮する愚物カイルにだって、目的のためなら可愛くも感じよう。ローラは感謝する。こんな自分の近くに、マスターロッド《概念武器》の使い手を出現させてくれてありがとうと。ローラは夢をみる。自分の国ならず、世界中の全てが自らに跪くその時を。
(――ああ、たまりませんわぁ)
そんな紅潮した、顔をローラはカイルへと向ける。きっと今、彼女の股間はじゅん、と潤っているのだろう。
「勇者様、頑張って!! 私わたくし勇者様が最下層まで辿り着いたらなんでもいうこと聞いちゃいますわ!!」
しかし、この厄介な姫君、幼いところは幼いのである。
「え、マジで? お、玩具とか、首輪とか、前とか後ろとか、なんでも? 露出に放置に、複数プレイに触手に媚薬に本当になんでもっすか?」
ローラの発現に対して返答したカイルの内容。彼女は痛いくらいにその意味を理解でき出なかったのである。
「おっけーですわ!!」
可愛らしくぴょん、と飛び跳ね、ぶいっとピースサインを出すローラ。
(首輪が欲しいのかしら、うん!! 愚物は愚物らしく自覚が芽生えるのはいいことですわ!!)
「イエーイ、オッケーいただきましたイエーイ」
管理層で、徹の声が楽しそうに反響した。