マスター☆ロッド げいんざあげいん

第一話:アルフレッド君とカレンちゃん(1)


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 それは彼らの運命が捻じ曲げられた日である。


 ギルドの待合所で、カイルはターゲットであるカレンとアルフレッド両名と話をしていた。

「噂には聴いてたけど、アンタがあのダンジョンで一発当てたのってホントだったのねー……」
「ヘタれカイルのことだからてっきりデマだと思ったんだけどね、ボク達もついていけばよかったかなぁ、声かけてくれても良かったのに」

 二人の視線はカイルの一変した彼の装備に注がれている。それもそのはず、現在のカイルの装備はダンジョン出立前と比べて、2階級特進どころではないぶっ飛び様であったからである。

「えー、だってお前ら力押しパーティーじゃん。身体強化フィジカルブーストで拳で岩とか割っちゃうちびっ子に、火炎・爆裂魔法しか使えない破壊魔なんか連れていけるかっての。それにあのダンジョンは運と謎解きメインだから。俺としー姉の叡智の結晶がだな、このサクセスを引き寄せたんだぜ?」

 そのカイルのドヤ顔に、うっざ、と顔をゆがめるカレンと、静かに溜息をつくアルフレッド。実際の事実はカイルこそ役立たずであったのだが、それは彼らが知るところでは無いのが救いである。

「なーによー、アンタなんか壁するしか脳がない前衛の癖に、いつもわたしらが殲滅担当してるから、人並みに稼げてたんじゃないのよー!!」
「そうだね、ボク達が役立たずなんて心外だよ。なんなら、その自慢の新装備を今ここでぶちわってあげてもいいんだけど?」

 そんな二人の表情に慌てるカイル。

「ちょ、まって、ごめん、俺が悪かったてば」

 ずさっ、と身を引き、まてまて、とカイルは二人をなだめる。

「それと、カイルもシンシアがいる所で猫被るのやめたら? そっちが地なんでしょ」
「そーそー、シンシアも気づいてるよきっと、そんでネタバレついでにフラレちゃえ!!」

 お返しとばかりにまくし立てるアルフレッドとカレン。
 まあなんてことはない、彼ら三人の世間話風景であった。
 そんななか、アルフレッドが口を開く。

「で、ボク達に話ってなに? ――なんとなく予想はつくけど」
「つまらない稼ぎ話だったらもやしちゃうぞー?」

 そんな物騒なカレンの言葉に多少気後れしながら、カイルは

「実はさ、あそこでヴァンデル鉱の塊を見つけたんだけどさ――」

 と、周到に徹が用意した餌を二人の前にばら撒くのであった。





「――てとこだな、何か質問ある?」

 カイルは神妙な表情をして考えこむアルフレッドとカレンを見て、半ば釣り上げが成功したことを確信した。普段おちゃらけている彼と彼女であるが、ことさら仕事の時は真面目である。特にアルフレッドはガッチガチの現実主義。成功率の高い仕事でないと見向きもしない。まあ、カレンの強引な行動に引っ張られてしばしば危ない目にあったりもするのだが。

 (――間違いなく、アルはカレンに惚れてるっスね、ご愁傷様ッス。なむなむ)

 これから襲い来る徹の試練にて、無様な姿を晒すであろうアルフレッドに向けて、カイルは心のなかで合掌するのであった。

 (――まあ、自分も痛い目あったし、仲間もいないと!!)



「――なんて考えてそうだなー、あのバカイル」
「……育て方、間違えたかしら?」

 その様子を遠視投映ディスプレイで覗いている徹とシンシアは不安げな表情で様子を見守るのであった。




 カイルがアルフレッドとカレンに提示したのは以下の内容であった。

 ・地下五階にはレア鉱石が居並ぶ区画がある。
 ・地下五階には侵入できる条件が決まっている。
 ・条件は不明だがその条件を満たさないものには階段すら現れない。
 ・自分カイルはその条件を満たしたらしい。
 ・ヴァンデル鉱のクエストはモンスター二匹との追っかけっこである。
 ・時間まで区画内でモンスターから逃げまわるか、KOすればクエスト報酬が手に入る
 ・ギブアップの場合はペナルティがあるが、命は奪われない
 ・人数制限二名

「確かに、カイルとシンシアじゃ向かないクエストだね、火力と機動力が無いキミたちだと時間まで耐えるしか手立てがない」
「――そういうこと、お前らならおあつらえ向きだと思ってさ」

 アルフレッドが仕事内容について食いついてきた時はもうかなり乗り気な証拠である。カイルは心の中でニンマリと笑うと、そう意気揚々と煽るのであった。

「んー、でも変じゃない? なんでカイル、そんなに詳しいクエスト条件事前に知ってるのよ、普通ダンジョンの小道に迷い込んだ時に発動する罠とかなんじゃないの?」

 いつもはおちゃらけているくせに妙に勘が良いのが彼女の長所である。冷静沈着で俯瞰して状況を把握するアルフレッド、猪突猛進だが変な所で鼻が利くカレン。この二人のパーティーの特色は破壊に偏っているが、本人達の人間性能にてかなりバランスが取れていたのである。

「ああ、聞かれると思った、実はさ、報酬ゲットの時さ、ダンジョンマスターが出てきて会ったんだよ、で、その時聞いた」

 そうカイルが言い終わったとたん、

「ちょ、カイル、それホント? キミ、マスターにホントにあったの?」

 カイルの胸ぐらをアルフレッドが掴みぶんぶんと、ゆらす。

「――ちょ、――やめろ、アル――」

 ぶんぶんと、アルフレッドに頭をシェイクされるカイルを横見に、カレンも少し驚いた表情で彼に問いかけた。

「どしたの? アル、あんたがそんなに取り乱すなんて珍しいじゃない」

「――だって、ダンジョンのマスターだよ!! あらゆる物を変遷させ、あらゆる可能性に進化させる空間と生命の支配者!! 彼らは僕らじゃ及びも付かないような魔導技術を持っているんだ!! 彼らの力のほんの一握りさえあれば!! ――きっと、きっとボクの夢だって!!」

 ぶんぶんぶんぶん、とカイルの首から上が残像とともに分身する。

「――夢?」

 初耳だと、カレンは首をかしげる。その様子にアルフレッドは顔を赤くしてカレンから視線を背けた。

「――ごめん、ちょっと取り乱した」

 そんなアルフレッドの様子に、カレンはにやにやと、いたずらな笑みを浮かべ、

「こらぁー、吐きなさい!! 夢って何よ!! アンタのことで知らないことなんてアタシにあっちゃいけないのよ!!」

 と、アルフレッドの小さい体をその大きな胸に包み込みながらウリウリ、といちゃつくのであった。

 (り、……リア充爆発するっス……、でも徹様、多分釣れたっすよー……、がくり)

 身体強化フィジカルブーストで程よく脳内をシェイクされたカイルは心のなかでそうつぶやいて、果てる。




 一週間後、アルフレッドは報酬と言うよりも、報酬クリア時のマスターとの遭遇を目的に。そしてカレンは、彼女に珍しく彼に着いて行く形にでダンジョンの前に立つ。

 しかし、彼らの夢と希望と未来の人生設計に立ち向かうのものが、徹の欲望と性欲と、変態設計のダンジョンという身も蓋もないものであることに、アルフレッドとカレンの二人は未だ気づくことはない。

 だって、彼らはただの餌なのだから。

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ぬける  
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