後悔はないさ(キリッ)とか言っちゃった俺はあの日の俺をぶん殴ってやりたい。このままでは俺の体が持たない。正直辛い。だれかだれか、本当に誰でもいいんだ、この現状を打開する術を俺に授けて欲しい。
今日でレーゼ達との生活は七日目を迎えようとしている。我が祖国の侵攻は幸いにしてまだない。まあ当然だな、今まで通りの方法で攻めこんでも跳ね返されるのは目に見えている。前回の結果を鑑みれば、どんな素人でも分かる理屈だ。まあ俺の裏切りについては追々対処していこう、向こうには情報らしい情報は伝わっていないはずだ。裏切りの可能性は順当に挙げられるだろうが、決定的な根拠はどこにもないんだ。だから向こうに残した嫁に災難が降りかかる可能性は少ないだろう。いっそこっちの不思議技術で俺の処刑映像とか作れないかなとか思う。
それにしても平時は静かなもんだ。兵器のメンテナンスも全自動でやることがなく、ここの住民達がスローライフ的になる理由もなんとなしに理解してきてしまった。
仕組みは単純なんだ。要はここの住人達は人生をかけた本気の自家発電なり変態行為で、この子達を戦場に送り出すという後ろめたさから精製したM(魔導)エネルギーを定期的にアルケイオスに吸い取られるわけで、常時賢者モードなわけだ。そりゃあ欲も何も無くなるよね。うん、すっごくわかる。だから生きていればいいやってなって社会的な競争もそこからくる諍いもほぼ起きないんだよ。平和って変態行為に支えられてもできるんだな、俺ちゃん初めて知ったわ。軍じゃこんなこと絶対教えてくれない。
ただエロ方面にはかなり発達していて、住人から俺にわんさかそういったグッズやらなにやらが届けられる。何コレ、これであの子達を犯っちゃえって? お前らほんとなんなんだよ。それを目にした俺の思考を盗み取って腰を曲げながら返ったり、おぞましい、とか呟きながら顔を赤らめるのはやめて欲しい。なんだよ、筆バイブっていったらオイルで濡らして数時間ほどくちゅくちゅもったい付けるプレイぐらいはデフォルトだぞ、まったく。
「そこは」
「ローションじゃないの?」
「いや、ローションだとすぐ乾いて、結局量が必要になって行為に集中できなくなるーってナチュラルに頭の中を読むのやめてくれないかリノリナ」
振り返ると起きたのか、リノとリナが後ろに立っている。
はい、これ俺の心労その一。
裸 ワ イ シ ャ ツ × 2
「おおぉ……」
「いや、毎日凄いな、おまえ」
この一瞬で俺の脳内映像を受信した双子ちゃんが、珍しく顔を赤らめる。なんだよ、なんなんだよ。お前らも分かっててやってるだろ。しかもそのワイシャツ俺のじゃん、どこから盗んだ。なんか妙にだぼっとしていると思ってたよ。
「いや、まあわざとなんだけど朝起きて、挨拶もしないうちにワイシャツ越しに両乳首を親指でグリグリさせて」
「からの、ボク達二人とも壁に手をつかせてからの激しい手マンはちょっと引くんだけど」
そんなこと言われましてもね、言われましてもねぇ。君たち日頃小生意気なくせに、一瞬見せる笑顔とがめっちゃ可愛いんですよ。こちらとしましてはね、君たちの年代は男だらけの軍学校で激しく扱かれていたからね、フラッシュバック程度の妄想は発作扱いで勘弁して欲しい。あとできれば無駄にエロフラッシュバックさせないで欲しい。体と心がマジ持たない。本当に襲うぞマジで。
「別にいいぞ」
「ほれほれ」
リノリナが二人でワイシャツを摘まみ上げパタパタと扇ぐ、健康的な太ももがマジで股間に来てしまう。だが我慢だ。考えても見ろ、ここで二人をテーブルに突っ伏させてパンパン後ろから朝ご飯セックスなんてところ、他の子達に見つかってみろ。何がどーなるかマジでわからん。
「パンだけにー?」
「トッピングはアーヒム汁かな?」
このエロ親父双子娘共め。
「いいから、ご飯食べなさい。俺ちゃん渾身のスクランブルベーコンエッグにオリジナルトマトソースだ。ビーンズを粉にして混ぜてるからソースも全部食えよ」
「おおー、すげー、とろみソースだ」
「アーヒムが来てからご飯が美味いぞ、いいぞ、いいぞー」
まだ生まれたばっかの筈だが俺の娘も成長したらこんな風に明け透けになっちまうんだろうか。と俺が感慨深げに思慮に浸ると、
「お?」
「お?」
食卓のリノリナが俺ちゃんに目を向ける。
「裸ワイシャツより、ワイシャツミニスカートの方が」
「アーヒム少佐の好みでありましたか!!」
こいつらまーた読み取りやがった。いや、確かにひらひらスカートがまくれたり、ぎりぎりを責めるの好きだよ? 好きだけどさ、どっちも好きなんだよこのやろう。
と、その時ばたん、と同時にリビングのドアが閉まる。
みればラーナがミニスカートの裾を抑えながらぷるぷる震えていた。
「……タイミング悪くね?」
「あの、いいんです、男の方ですから、しょうがないです。はう、はぅうう、でも、でもでも、た、たったたたたたままごごごごご五回とか、まだ私にはむりです、無理ですぅうううう……」
「いやちょっとまった、その言い方だと、俺が五回も無理に君を犯しているように聞こえるじゃん、真実はスカートに顔を突っ込んでのクンニからの指十本を用いての下半身マッサージのはずで」
「ふえええええ!!」
と、ラーナがドアの向こうへ消える。ドアの隙間から光が漏れるのが分かった。きっとアルケイオスへと補充されているのだろう。
「すげー、アーヒム言葉だけでラーナのことイかせやがったぞ」
「日々レベルアップしていくな、そのうち言葉だけで妊娠させられそう」
「いや流石に無理でしょ、っていうかイっちゃうと光っちゃうって君らも相当業深い体質してるな」
俺のその発言に双子が揃ってきょとんとしている。
「だってさ、本気でイったかイかないか分かっちゃうんだぜ? 強がりとか全部意味なくて、屈辱的にイかされちゃったりしたら、意地張っていても気持ちよくなったことわかっちゃうじゃん」
「……ッ」
「……!?」
すると突然、二人とも立ち上がってリビングの外に急いで出て行く。
そしてしばらくして、レーゼとメアリーが出てきて、食卓につき、もくもくと朝食を食べ始める。
「えーと、あれ、……リノリナちゃん達は?」
俺の疑問にレーゼはやれやれと、ため息をついた。
「気づいてないのがお前のいいところであり短所だな。これは一回話し合いをすべきか……んーむ」
「なにそれ意味わがんにゃい」
「うふふ、決まってるじゃないですか、あの二人は強がっていても、割と脆いところありますから。自分から誘っているのに、主導権を取られてがんがんアーヒムさんにイかされちゃう妄想を、かなり具体的に読み取っちゃったみたいですよ?」
「……今頃多分部屋で、ぴかぴかだろう」
つまり二人とも何がナニでおなにー中ってことでよろしいのかな。とか思っていると、リビングのドア越しにリノリナとラーナが首だけ出してこっちをみてる。
「アーヒムのエロ魔神!!」
「アーヒムの弄り親父!!」
「……え、えっと、え、えっち大明神っ」
誘いと自爆の冤罪だと言うのに、ひどい言われようである。ん? そう考えるとあれだな、レーゼやメアリーは平然としているけど割とコントロールが効くのかな、俺の妄想はわりとこの家全部に届くらしいし――。
「あ、もしや二人は既に賢者モード――」
と俺ちゃんが呟くと二人が揃ってドリンクを吹き出す。
「アーヒム……、お前なー」
「ちょっと流石に空気読んで欲しいです……」
つまりちょっと顔が火照っているのはいっぱい朝から自家発電したからで、髪がしっとり濡れているのは汗の臭いを消すためにお風呂に入っていたからでー?
「うぐ、ちょっとこれは本気で恥ずかしいな」
「なんで頭の中見られてる方が恥ずかしがらないで、覗いている方がこうなってしまうんでしょう」
口元をふきふきしている二人がジト目で呟く。いや俺ちゃん特大の羞恥プレイ一番最初にさせられたからね、しかも村人全員に先入観与えるほど染み渡るヤツ。というか勝手にこっちの脳内探っているのに勝手なもんだなー。
「だってお前私達に手を出さないじゃん――」
レーゼは不満そうだ。うん、まあそう来るよね。実際俺は命の安全を保証される代わりに、村人やこの子達にエロいことしてM(魔導)エネルギーを溜めることを求められている。わかってるじゃ無いかとレーゼが立て肘ついて視線をよこす。あらお行儀悪い。そういう子にはお口でご奉仕でも仕込んで、素直にさせちゃうぞ?
「それだよ、それそれ、その、なんだ。実際ご奉仕仕込まれても私達は別に泣いたりしないぞ? むしろちょっとワクワクしているんだが」
「私も不思議です。実際自慰行為もされてないようですけど、ご負担ならばせめて我達の目の前で公開ぶっ掛けオナニーされちゃうくらいに理解はありますよ」
すげぇ倫理感だな、おい。いやお気遣いはありがたいんだが、そうかぶっかけまではセーフかー、って違う違う。
「君たちねぇ、んー、なんていうかなー、そのなー、ってアレ? 君らひょっとして分かってない? 俺が我慢している理由も、我慢できている理由も、もしかして読み取れていない?」
俺の発言にレーゼとメアリーは小首を傾げる。どうやら本気で伝わっていないようだ。
「もしかして、そうか、あーそういうことなんだなー多分」
「……おいアーヒム、ちょっとそれ大事な事だぞ、一人で納得していないで教えろ」
レーゼの視線が鋭い。まあそうだろう、コレは大事なことだ。隠すことも無いけどな。お、レーゼの表情が柔らかくなった。ツンツン大人ぶっているけどほんま素直でいい子だなー、あ、ちょっとだけ赤くなってるの可愛い。
「いいから続けろアーヒム」
うんむ、ごもっとも。この魔法村の皆さんがもっている情報共有。万能のようで割とアバウトなんだよね。多分川を挟んだ機械帝国出身の俺じゃないと絶対この違いは気づけない。
「あの、どういうことなんでしょうか」
メアリーちゃんがこちらを訝しげに見やる。ちょっと不安にさせてしまっているな、そうかそうか、頭の中全解放なのは俺ちゃんが変なことを考えられない、考えてもすぐ分かる的な安全装置ともいえる。それが嘘でしたへっへーなんて事になったら信用が揺らぐわ。んー、どうしようかな、って、いつの間にかリノリナとラーナが席についていた。珍しくマジメな表情をしているし、ここは茶化しちゃだめだな。
「たぶんさ、君ら俺が考えていることで、わかるのは、"君たちが理解出来ることだけ"なんだよ多分」
みんないまいちご納得不全。しようがない。分からない物を理解しろなんて割と酷だ。
「大丈夫、順々に説明しよう。君たちさ、まず俺ちゃんの妄想で気持ちよくなっているけどさ、それは君たちの感覚で、本当の感覚じゃないんだよね。多分俺ちゃんが本能的に手を出しちゃまずいかなーって理由の一番目はそれだ、ギャップが怖い」
レーゼを筆頭にみな小首を捻る。
「それって、どういうことだー? なんか違うの?」
リノが一番に口を開いた。好奇心旺盛だな、この子。
「おう、簡単にいうぞ」
少女達の視線が俺ちゃんに集まる。
「――多分、実際の行為はお前らが想像するより何倍も気持ちがいいぞ」
ゴクン、と全員の喉が鳴った。
「察するに君たちの耳年増っぷりかして、みんな処女でしょ。ぶっちゃけ本気で俺ちゃんの煩悩爆発させちゃうと、ちょっと君たち壊しちゃうかも知れないとか思っちゃうわけよ、俺ちゃんの妄想変換だけでイっちゃってたりしてる今を考えるとね?」
少女達の視線は動かない。あ、処女は否定しないのね、ふーん、ほーん、あ、ほーん。ちょっと下半身むくむくしてきた。おっと話をそらしてはいかんいかん。
「あと、これが一番大事なんだけど、俺ちゃん川の向こうに一応嫁さんと生まれてないけど子供を残している。ああ、ぶっちゃけね、後ろめたさとかは少ないんだけど、ほら、立場上俺ちゃん捕虜なわけじゃん。敵国人のくせに人並みの生活をさせてもらっちゃっているじゃん? だから君たちの命令には従うし、君たちの国の利益にならないことはしないつもりなんだけど――」
「あ」
その声は一体誰があげたか、全員が口を開いていたからみんなかも知れない。俺の考えがようやく伝わったようだ。
「そうそう。この際、この問題を語るに年齢のことは置いておこう。うん、まあ、そう。おセックスといえば子作りなわけで――、そうなんだ。君らの文化、重婚OKなの?」
ドM民族だからといって、そういうのはきっちりしとかないと割と問題になるだろう。もっとも国防の問題なんで、ある程度は大丈夫だとは思うが、そもそもこの娘達の親御さんは、どこともしれない馬の骨に弄ばれちゃうようなことを許容できるのか? いや、この民族ならあり得そう。あ、マジであり得そう。うーん、どうだろう、一応伝わったかな、俺ちゃんの言いたいこと。まあこんな感情が伴った問題、しっかり説明しなきゃ不思議電波だけじゃわかんないよな、だってそんな感情、ミドルスクール入学するかしないかのこの子達絶対未経験だもん。
「……ちょっと待ってもらっていいか?」
レーゼを中心に、みんな集まってドM電波を使って脳内会議を始めている。これで何か打開策がでればいいなぁ、エネルギー供給を別の方法で行うとか、どこどこまではOKよ見たいなラインができるならこちらとしても都合がいい。いや欲望に任せて色々やりたい気はあるんだけどね。ぶっちゃけ男の夢だし。
と、割と長い時間続いた少女達の脳内会議を終わったようだ。それぞれにお茶を入れて配って置いたのだが、今気づいたようで、ずずっとすすっている。
「その、話はよく分かった」
レーゼちゃんがいつもの大人びた表情できっとこちらを見る。良かった、これで建設的な意見が出ればお互い多少は快適な生活が実現する事であろう。
「え、えーとだな」
あれ、なんか様子がおかしい、というか皆なんかモジモジしてない? 君たち。
「つ、つまりはわ、私達は今お前に、ぷぷ、ぷろ、プロポーズをされたわけだが、がががっ」
こんどは俺がお茶を噴きだした。
「ボク達を本気で気持ちよくさせてやるぞって、そういうことでしょ」
「壊れるぐらいボク達を弄んじゃうけどいいかって、そういうことだよね」
リノリナぁッ!!
「え、だって親に挨拶って、責任とって下さるってことですよね、要約すると」
ちょ、常識枠のメアリーさん?
「……私知ってる。アーヒムのお嫁さん。ぶっちゃけ私達と見た目がそれほど変わらない」
ラーナが俺の唯一の胸元に忍ばせていた私物である嫁の写真をひらりと出して机の上に置く。俺の口から二度目のお茶が噴き出た。おいそれどこから持ってきた。
「なんだよアーヒムぅ。ボク達に魅力感じていないわけじゃないんだなー」
「えへっへー、我慢できないなら優しくしてやるぞぉ、ロリヒムぅ」
「わぁ、それじゃぁ責任取って下さいね?」
「……あと、私達みんな親いない。だからむしろアーヒムが親でいい……」
「い、いやーこうして面と向かって告白されると、て、照れるもんだな」
あっれー、あれあれあっれー、おかしいないい話だなーってなるはずなんだけど、なんかお仕事的な辱めを定期的に行うって話で落ち着くはずだったんですけどー? なんか重いぞ、こいつらの色欲かなり罪深くないか? いやいいの? 本当にいいの? 犯っちゃうよ? 割と本能のままに弄んじゃうよ?
そっかー、問題ないのかー。
……ないのかー。
うん。
な い の か 。
「う」
何かを受信したのかレーゼちゃん達がぶるると震える。
「お、おい、なんか寒気がしないか」
「なんかボク達空けちゃいけない扉を開いた気がする」
「……あ、あ、あ、これヤヴァイやつです、絶対ヤバいです」
「でも精神波で受信できない。まさかアーヒムさん、具体的に考えないことで私達に対して情報遮断を!?」
「す、すげぇぜアーヒム。なんとなくだけで、ざっくばらんにすげぇおぞましいエロいことを考えているぞ……、あいつの頭の中で今ボク達どうなっているんだ……」
その時だ。
『警報!!《アラート》:レベル2』
突然、機械的に、レーゼちゃん以下の目の色が変わり、機械的な表情に変わる。なるほど、これが出撃か、なんかちょっとやっぱり可哀想だな。皆の体が光り出し、粒子となってアルケオス格納庫の森へと消えていった。
「ふむ、さて俺も行くかな」
残念ながらあんな変態技術は俺には作用しない、まあ全力ダッシュで十分ぐらいだろう。このアラートが前回と同じならまだまだ時間はあるはずだ。試したい事もあるしな。
「向かわれるのですかな?」
急ぎ家をでると森の入口で、神官爺と婆が待っていた。
「まーね、やっぱあの子達、救われなくちゃダメだわ」
視界から神官爺と婆が消える。いや、消えていない。彼等が土下座しただけだ。
「どうか、あの娘達をお願いしますじゃ、儂らじゃ、儂らじゃぁ……、ドM過ぎてできんのです」
その理由はどうかと思うけど、まあ大体は分かる。理解もする。本当に業が深い民族だなお前ら。ってこんな時も俺の罵倒に感じてびくんびくんしているんじゃねぇ。でもまあそういう文化なら仕方ない。本能的な情動を変えろともいわん。だから理解はするさ。あの子達の状況をなんとかしたいと、君らのドM体質は、矛盾するけど両立できると。したがってその思いも本物だと――。
「理解は、しているさ」
俺は走り出す。後ろで嗚咽っぽい音が聞こえるけど、快感とか伴ってないよな? いやもう別にいいけどさ。どうすればいいかなんて簡単なことなんだ。この戦いをなくせばいい。そうなればあの古代から続く変態兵器の束縛も解けるだろう。だが、この戦いをなくすために、まだあの力は必要だ。そしてあの子達を死なせないために、これからも必要なんだろう。
「まあ、まかせておけよ。今までの戦闘結果をまた覆してやるぜ」
走る俺の周りに五体のアルケイオスがどどん、と着地した。ラーナが乗る機体の右手には通信用の水晶が差し出され、俺はそれをノータイムで受け取った。
『アーヒム、今回一部隊だけだけど、どーする? また一気にやるのか』
「いーや、そんなまどろっこしいことはしない。面白いもの見せてやるさ、リノリナ、敵位置」
『まだ河のど真ん中だよ、あといつもより舟がでっかい』
「んー、輸送でもしてんのか、好都合だぜ」
『作戦指示、お願いします』
「その前に質問だ、遠距離射撃が一番得意な子は?」
『ボク達だぞ』
『……でも威力は私……』
「おっけーおっけー、リノ、ラーナは俺と高台にいくぞ、開けて川岸線が見えるところがいい。おおお?」
一気にリノに担がれてびゅーんと空中に浮く。うっはーこえええ。って俺はボールか、空中でラーナがキャッチしてまたびゅーん。まったくこいつらホント行動が子供だなー。
『あんま無茶するなよ』
『私達はどうしますか?』
『楽しそーボクもアーヒムぶん投げたい』
「やめてさしあげくだしあ、って上手くしゃべれん、脳内で指示する、ええと」
そして俺の精神波を読み取った三人から返答がきた。
『了解』
『了解』
『えーなんでボクだけー?』
お一人様は不満そうだが、我慢してもらう。なぜならこれが一番安全な勝利方法だからだ。そして今回の作戦も間違い無く成功するだろう。同時に、――きっと俺の存在もバレる。なんぜ今回は連携なんてもんじゃ無い。本格的な組織的攻撃だ。行うのは高台からの観測射撃。否が応でも俺の協力を悟られるだろうさ。
「位置についたなリナ? よしリノ、一番手はお前だ。砲展開、とりあえず本気で狙って撃て」
がしょん、とアルケイオスが変形、左肩から砲がせり出し青白く力が収束する。
「しゃがんで膝をついてぶれないようにしろ、ラーナお前はできる限りチャージしておけ」
『……ふええ、了解です』
「タイミングは任せる、撃て」
『アイアイサー、おっひょーい』
どがん、と空気が震え、青白い魔導弾が肉眼では捕らえられない距離の機械帝国艦隊へと向かって――、かすりもせずに着弾し、川の水と反応して水柱を上げた。
「リナ」
ちゃぽん、と川の中に潜むリナが顔をだす。
『ういうい、着弾データそーしーん、あと私の魔導反応も出力あーっぷ』
「いいぞ、いいか絶対に軍船にちょっかいは出すなよ」
『あーい、わかったよん、それじゃまた潜るねん』
「うん、それじゃぽんぽん行こうか、あと何発いける?」
『アーヒムがボクのお尻を撫でてくれるならいくらでもいけるぞー?』
「ああそう、そんなならいくらでも撫でてやるわ、ほれほれ」
しゃがんでも俺の顔の横ぐらいにあるリノのアルケイオスの臀部の鉄板をなでなでと擦る。
『ひゃあ』
「え」
無骨なアルケイオスがビクリと震えた。なにそれこわい。あ、もしかして妄想とリンクして感じちゃったのか? どがん、とさっきの四倍くらいの大きさになった魔導弾が発射された。間を置いて着弾音と水柱が肉眼でも認識できた。艦艇が少し巻き込まれて動きを止めている。
『おいアーヒム何やってんだ』
『軽蔑します』
『リノばっかずるい、すーるーいー』
『……もしかして次は私ですかぁ? ふえええ、犯されちゃうぅう』
抗議の声が次々と上がってくるが不可抗力である。っていうか装甲だとひんやりして冷たいし。どうせなら柔らかい尻を揉み擦りたいぞちくしょう。
「……実際のプレイはすごいって意味、ボクちょっとわかっちゃったかも」
……おい、リノの生々しい感想に揃って喉を鳴らすなM娘共。
「いいから集中、よし、あの着弾半径なら十分だ。リノも十分仕事したぞ、ラーナ、リノリナ両方からデータを受け取れ」
『……わ、私のお、お尻は撫で回さなくても、い、いいい、いいんですか!?』
いや、撫でたいなら撫でるけどさ、俺の手に残るのは装甲の感触だけだけど。
『いい、いいです、あ、後ででいいですぅ!!』
「いいからおちつけ。それで撃て」
『――ふ、ふあい!!』
そして、どどんとラーナの砲身から狙いを修正済みの魔導弾が……、なんか数十個でた。威力はラーナってそういうことかよ。あー、これで終わりだわ。あーあー、あーあーあー。的確に照準された魔導弾が、雨となって機械帝国艦隊に降り注ぐ、しかも一個の威力がやべぇ。至近弾でも中型艇がひっくり返ってら。
「おい、リナ。巻き込まれてないか、無事か?」
『だいじょーぶ、ボク達繋がってるから、考えている事分かるし大丈夫だよ、えっへへーでも心配してくれて嬉しいぞー?』
そんな減らず口が叩けるだけなら安心だろう。
「一人でよくやったな、帰ってこい」
『えへへ、でっへっへ』
そして一息つくとレーゼとメアリーの不機嫌な声が水晶から届く。
『……おいアーヒム』
『私達何もしてないですけど』
いや、突破されたときの沿岸待機も十分重要な役目なんだが、まー、軍学もしらん小娘ちゃんに求めるのは酷なもんだ。あとでゆっくりと説明してやるかな。
さて敵も撃退したし、アルケイオスも戻した。またしばらくは大丈夫かなー。なんせ今までにない渡河中の迎撃だ。おまけに機械帝国の技法を使っての観測射撃。いままで上陸妨害などなかったから、機械帝国《わが祖国》は今まで以上に慎重な出足にならざるを得ないだろう。こちらはその間にもっと戦力アップをせねばなるまい。なんせアルケイオス越しにお尻を撫でただけでアレだ。出力アップの伸びしろはかなり見込めそうだ。
ぐしぐしと、アルケイオスから降りたレーゼ達の頭を撫でてやる。どうやら彼女からも照れながら受け入れてくれる程度の信頼と理解は得られたらしい。
ならばだ。
「よし、それじゃあ一緒に風呂に入るか」
俺の一声に、五人全員が顔を赤くしてずざっと身構えた。
ふはは、もはや問題は無いのだ。逃がさんぞ小娘共。
男の夢その一、えっちなお風呂を、お国のために叶えるのだあ。
「え、えーとまた、今度じゃだめか?」
だめです。しかもレーゼちゃんは一緒に入るって自分で発言しているので尚だめです。
「ぼ、ボク達もやっぱいきなりは、そのぉ」
いきなり照れてもだめです。可愛いからダメです。特にリノのケツはもう揉みしだいて撫で擦るので覚悟をしておくように。
「ひぃ、助けてメアリー」
「うう、急に積極的になるんですね」
うんメアリーちゃん。問題は無くなったからね、嫌ならやらない。嫌なら。
「……はうう、はうううううう」
さあラーナも行こう、皆仲良く一緒にドMの時間だ。お国のために頑張ろう!!
「なあ、ひょっとして私達はとんでもない変態を呼び込んでしまったのでは……?」
レーゼはそう呟くが、俺は分かっている。もういい加減に理解した。この態度はこのドM民族固有のフリだと。だからこの子達は帰り道も俺の手を離さないし――、俺もけっして離さない。
そう、この後に待ち構える、一緒にお風呂もノーではないのだ。
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「渡河中の迎撃だと」
報告を受けたアドラー准将の表情は厳しい。
「至近弾から時間をおいての着弾、相手は観測射撃を行っていることは間違いありません、砲撃間隔と観測着弾数を考慮にいれますといよいよアーヒム少佐、もしくは我が軍の生き残りの関与を疑うべきかと」
「分かった。例の準備を進めろ」
「はっ」
衛兵が退出する。
まだ猶予はあるだろう。
だが、計算外のことが起きたのだ。
「アレを、アルケイオスを手に入れるのは私でなければならぬ……」