裏切将校アーヒム=レデルラードの受難

第四話:裏切将校アーヒム=レデルラード


←前の話 TOPに戻る 目次 次の話→


「これで一段落だなー……」

 硝煙臭い河辺で俺は脱力する。どうにも良くない。命乞いをしなければ生き残れないという状況であったものの、ノリと勢いでえらいことをしてしまった。そう、もはや俺に帰るべき祖国は無い。やはり今まで心の中にあったものが無くなるってのはかなりしんどい。だがしかし、もうあっち帰れない、時間が経つにつれて、俺という人間は、生まれ育った環境全てから恨まれ、疎ましがられるだろう。この戦いに勝利するということは、そういう意味だ。

 それもしようがない。もはや選択は済んでしまったのだ。とりあえずこの功績を持って俺を生かしてもらえるか、この国の大人達に交渉をするしかあるまい。

「そんなんもう考えなくていいぞ?」

 そんな事を考えていたらパツキンちゃんがアーマーを脱いで近寄ってきてベシベシと俺のケツを叩く。
 アレ、また俺声に出してた?

「外からの方の処遇は私達が一任されてますし」

 と眼鏡ちゃん。

「むしろお前」
「私達の所有物な!!」

 双子ちゃんは相変わらず当たりがキツい

「…………」

 ポニーちゃんだけはなんか俺と目を合わせると顔を赤くして反らす、なんでだ?
 で、そんなこんなでこいつらの基地? らしき所に戻ってアルケイオスをピットに戻す。自動修復で、自動整備とかどんな謎技術だ。

「んー、時間を局所的に巻き戻して修復した後に、マイナス熱量を別次元に切り離しているらしいぞ」

 なにそれ魔導凄い。というかパツキンちゃんの言ってる意味が俺わがんにゃい。

「私達もよく分かっていないんです。アルケイオスはもう何百年も前に造られた物らしくて……」

 物持ちがいいってレベル超えてませんかね。どーりでこんな歪んだ社会構造になるわけだよ。ほんと今俺は文化の差に恐怖している。外見は同じなのに中身は別物なんだもの。こわいわ。いやこいつらの外見はかわいいんだけどね。もしかして後ろにチャックついていてドワーフみたいなおっさんでてこないよな、でてこないよね。


で、だ。


 アルケイオスの森をぬけて、俺は俺の予想がぴったりと当たってしまったことにうなだれる。目の前に広がる田園風景、牧歌的な平和な空気、間違いない、ここは戦争など全く知らないただの村だ。

「おーい。じじいー!! 今回の森番おわったぞー!!」

 パツキンちゃんを先頭に、なにやら大層な衣装を着た老人に、わらわらと小娘共が群がっていく。お、もしかして保護者か、あなた保護者だよね? 責任者だよね? よーし、そこに直れ。女子供をあの糞みたいな最前線に送った畜生保護者に俺ちゃんが説教かましてやる。





 と、思ったらさー、簀巻きですよ簀巻き。どういうことなんですかねー。僕はいたいけなパツキンちゃん達を救ってしかもあんたらの村を機械帝国の乱暴狼藉から守った英雄ちゃんですよ? それとも何? 恩人は簀巻きにして、吊すのがこちらの慣習なの? そういう文化なの? おい巫山戯んな文化の違いじゃすまさんぞおらぁん?

 びっちびっちと抗議の前後運動をするが、気にしちゃいねぇ。調理前の鮮魚の如くだこのやろう。娘どもときたら俺が吊されている横でなんか祭壇みたいなところに祭られて、なんか色々感謝されてる。供物とか受け取ってるし、なんなのこれ、てか俺の下で燃えてるこの青い火あっつうい。今俺炙られてない? あっつ、あっつうい。
 
 なんか双子ちゃんが俺を指さしてゲラゲラ笑っているしホントなんなの? てか村とか思ってたけど人数割といるな、数百人じゃ効かんぞこれ。若いヤツも沢山いる。別に戦いに人手が足りていないって状況じゃないみたいだけど、なんか異常だぞこれ。

 と、なんやかんや観察を続けていたら、神官装束らしきものを着た爺共が俺を取り囲んでいた。

「ほう、此奴が川向こうの人間で魔導精神波が効かないと」
「そーそー、ぎゅいんぎゅいんしても全然平気なんだ」
「ふーむ、それで何で持って帰ってきた? アルケイオスで殺してしまえば良かろう」
「んー、だめ。こいつ多分古文書のアレだから。それともう私達のもんだから」
「なんじゃと? アレってもしかしてアレのアレか? もしかしてさっきからビシビシきているのって此奴か?」
「そうそう、マジマジ、絶対アレのアレ。最初は殺しちゃおうと思ったんだけどさ、戦ってる最中に私達がきゅーんと受診したんだよね。特にラーナがヤバかった。映像レベルだって、マジ間違いない」
「あの、あのあの。後でお話しますけど、今回は大変だったんです。」

 眼鏡ちゃんが祭壇から身を乗り出して、パツキンちゃんと爺達の間に入ろうと話かけてる。なんかテンションたけぇ。あと、会話の意味分からねぇ。何がビシビシきて何がきゅんきゅん受診したって? しかし会話の節々に殺伐な雰囲気はでているが、命の心配はしなくてもいいみたいだ。あとラーナって誰だろう? あの顔を真っ赤にしてたポニテちゃんかな? 眼鏡ちゃんの擁護が凄く染みるなぁ。あと上手く説明できておろおろしているのなんか可愛い。でも戦術を補完して同戦力で数倍の敵に対応する必要が有り、これからは単一戦力の逐次投入ではなく、戦術、戦略に従った防衛が必要ですだなんて幼女には言えないよね。当たり前だこんちくしょう。

「おーいそこの糞共」

 だから俺ちゃんブチキレちゃう。俺が祖国を捨ててここまで来た意味と意義を果たさなくてはならんのだ。なーにニコニコしてよくやったぞとか和んでるの。他人事もいい加減にしとけよ糞村人共。

 と、どこまで声が届いてるのか知らんが、なんかざざっと俺の視界に入る数百人だかの視線が全員俺に集まる。なんかマジかとか本物か、とか神官様とかが呟いているけど知ったこっちゃねぇ。こちとら祖国を裏切ったんだからもうとことんなんだよ。この最前線少女達の待遇改善は叫ばないと、それだけは問題提起しないと俺がここまで来た意味が無い。どうやら一番偉い神官様とやらもいるみたいだし好都合だ。思い知れ生き汚い大人共。俺は息を大きく吸い込み、そして俺は怒りやら憤りやら恨みやらが入った今の気持ちをぶちまけた。

「お前らこの国の大人共は、全員糞だ。わかるーぅ? うんこちゃん。糞。クソクソクソ&クソのK U S O i s U N K。、つまりはお前らが日々排泄している汚い汚物、それよりも存在価値が無いか、良くてどっこいどっこいだ。いーか良く聞け。俺はお前らの敵だ。そして今回俺達はお前ら自慢のアルケイオスとやらの防衛力を局地的に上まり、川手前に陣地を構築することに成功する直前だった。この意味がわかるか? わっかんねーよなー、当事者じゃねーもんなー? ひとごとだもんなー? いいかー? 端的に言えば今回何かがまかり間違っていなければ――、具体的にはこの俺ちゃんの裏切りが無ければ、遠からずこの村含めていお前らは全部火の海だった。この村の人数の数倍の碌でなし共がやってきて、家も家畜も人間も鉛玉で穴だらけにするところだったんだぞおい。
 それをおめーら、こんな子達に最前線任せてなにやってんの、こんな祭りや宴の前にもっとやることあるだろうが。なんでのんきに牛豚育てて、作物育ててスローライフやってんだよ。戦えよ。工業化しろよ、産業革命起こせよ、魔導なんて超技術持っているんだから量産化して汎用化して戦えよ。こんな子供に死線を立たせるくらいならお前らが立てよ。おい屑、聞いてんのか屑共。
 いいか、男も女も老若男女、この子達より年取ったヤツらはみーんな、屑だ。自分の娘や妹と同じくらいの女の子を死地に追いやって成り立つ生活は楽しいか? ん? 今祭壇に祭り上げられている子達が、いつかあのアルケイオスから引き摺り出されて、屈強な男達に見るも無惨なむごい仕打ちを受ける可能性を考えないのか? 毎朝おいしいパンを食べているその裏で、何百の鉛玉の前に身を晒しているこの子達の事を考えるヤツはいないのか。いないんだろうな。呑気なもんだぜ。このうすら底辺民族が。だからこの子達を殺しに来た俺みたいなヤツがこんな所まで来ちまうんだ。来ちまうことになっちまったんだよ、この極上の最底辺寄生中野郎共!!」

 もう後半は我ながらよくわからんこと言ってたけど、なんだかすごいすっきりした。きっと言いたいことを言えたからだ。

 でも命の安全はもう無いだろうな。さっきのパツキンちゃんと神官の会話を聞き取れてしまったことから、俺達とこいつらの言語は全くの一緒。つまり俺の言いたいことはもれなく百パーセント相手に伝わっている。こっからこの魔法村の住民様達がはいわかりましたごもっともでございます。考えを改めて明日から清く正しく生きていきますってなるか?

 なるわけない。

 良くて俺は路地裏や牢の中で拘束されて拷問死、悪くてこのまま火あぶりかな、ほら食べ物や皿を握りしめている若い奴らの手がぷるぷる震えている。手の中にあるものが俺に向けて跳んでくるまであと少しだ。当たり所が悪ければそのまま死ぬだろう。
 ああ、でも満足だ。頭の中かき回されてぐじゃぐじゃされるよりも、祖国に戻って裏切りの罪で銃殺されるよりも、これはきっといい死に方だ。願わくばあのパツキンちゃん達、あーまだ名前も知らぬあの子達が、我が身を置かれた理不尽さに気づいて、あのアルケイオスごとどこか大陸の僻地へ逃げてくれればいいんだが――」

「あっはっはー、心配は無用だぞー? 機械帝国陸軍第八部隊作戦部、本部付き、アーヒム=レデルラード少佐君」

 そんな能天気な言葉が俺の末期の感傷に一点の歪みを生じさせた。その疑問はまだ形にできないが、何か、全てが台無しで、それも今の状況が究極的に瓦解しそうな、そんな予感がしそうな何か。

「おいじじい、コイツすげぇだろ。私達の正体知った瞬間からもうオチンポ奴隷とか、肉便器牧場とか考えちゃう逸材だぞ、これが川向こうの人間の妄想力だよなー」
「そーそーボク達なんて、セットで首輪繋がれてさ――。あ、あーあー。もしかしてじじい達、年甲斐も無く今の罵りでイってね? うわ、くっさ、というかみんな今のでイっちゃったかー、あははおっかしー、ひー、増幅炎の効果があったとはいえスゲー」

 双子ちゃんが笑う。
 そして俺は思う。

 なんで、この娘達、俺の脳内妄想をまるで見てきたように知っているの? あれ、あれあれあれ、なんでパツキンちゃんは教えてもいない俺ちゃんのフルネームとカンペでも見なきゃすらすら言えない敵国の階級を知っているのぉ? ねぇえ、なぁんでぇえ? あと俺ちゃんの足下でメラメラ燃えてる火のこと増幅炎っていうんだぁ、なぁに増幅しちゃうのお?

「あの…あのあのっ。 ……ごめんなさい。レーゼちゃんもリノとリナも、その……悪気は無いんですよ? というか私達の精神波って実は情報共有のためっていうか、その頭の中を共有って分かりますか?」

 わかる。それの意味はわかる。なーるほど、それじゃ耐性がないヤツが発狂するのもわからないでもないなー。頭の中を直接使っての通信なんて死んじゃうって。ふーんあーそう。それじゃ俺は耐性あるからどーなるんだろ、どーなるんだろう? なんか予測つくけどどーなるんだろう?

「アーヒムさん、その私達を指揮していて、随分飲み込みが早いとか、その素直に従うとか思っていませんでしたか? その、あの大変言いにくいんですけど、その……私達、そういうことなんです」

 俺は、おそるおそる口に出す。

「もしかして、俺の考えていること、全部分かる?」

 こくんと頷く眼鏡ちゃん。

「でも……でもでも、アーヒムさんもいけないんですよ。ラーナの両手を縛り上げて、乳首をえっちに弄りながらおしゃぶり調教するまで一瞬で思いついて、しかも視覚化できるほど具体的な指の動きを妄想したせいで、あの子ちょっと恥ずかしくってアーヒムさんのことまともに見えないようで……、あ、それと私はメアリーって言います。私も割と激しくされるのは好きな部類なんですが――わ、何? ラーナ? わかった、これ以上は言わないでおく、はいそれじゃそういうことで」

 ポニーのラーナちゃんが、わたわたしながら、眼鏡のメアリーちゃん押さえ込む。そしてつり下げられている俺を祭壇の高いところから見下ろしながら、パツキンちゃん、レーゼちゃんがニヤニヤしながら言った。

「まー、私達同士はプライベートな事はシャットアウトできるんだけどなー、察するに川向こうの人間には無理みたいだなぁ、私達みたいな小生意気な女の子にもれなくおちんぽビンタするのが大好きなアーヒム君」

 もう俺ときたら言葉にならない。
 何、何なの、もしかして俺ちゃんかっこいいこと言いながら、屈強な軍人達にあの子達がも執拗に犯されちゃう妄想全部垂れ流しだったの? え、うっそ、やだ、信じらんない、なんなのこの文化。だってしょうが無いじゃん。こいつら五人揃ってすっげー可愛いんだもん。それにちょっとおませな年頃になって色気が宿る丁度いいお年頃なんだよ、特に太ももの膨らみとか腰つきとか、胸の膨らみはまだちょっとだけど、唇の肉付きとかさー、分かるだろ、分かってくれよ。軍務漬けの男所帯に何年もいたら、それはもう青春フレッシュな女の子がこの状況で出てきたらちょっと妄想しちゃうのは仕様がないだろうがああああああああああああああああああああああああああ、もぅちょー、はっずかしい、はずかっすぃぃいいいいいいいいいいいいい。

「わはは、凄い凄い。みんなー、今私制服着せられて一瞬でなんか運動着と水着に着せ替えられて教育施設の至る所で犯されちゃったぞ、しかも水泳の授業ではなんと尻の穴にゆびを――」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ、やめてエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! それらめえええええええええええええええええええええええ!!」

「だが、安心しろアーヒム少佐君。薄々察しているとは思うが、私達はアルケイオスの乗り手含めて、例外なく、割とハードなドM民族なんだ」
 
 その言葉にはっと俺は我に返る。もしかして、もしかして――、こいつら、俺の罵倒に怒りに震えているんじゃ無くて……

「おふぅううううう……、ストレートな罵倒がタマタマにひびくぅううう」
「裏切り者のくせに正論とかちょう効くぅううううう、子宮にきくぅううう」
「ふああああ、糞以下とか堕とされちゃったぁああ、生きててごめんなしゃぃいい、でもすんごいいいい」
「おっ、おっおっ、と、とまらん、とまらんぞぉお、いたいけな娘を最前線に送り出してごめんなしゃいでしゅぅ、っおっおっ、もっと罵ってくだされええええ、ふおおおお」
「か、川向こうのくせに罵倒しゅごいぃいいい、頭に直接くるのしゅんご~ぅいぃいいい」

 イっていやがるのか……この場の老若男女全てっ。
 そして、快感に震える彼等の体が燦然と光り輝く。
 一つの大きな光となって神々しい光が森へと吸い込まれていく。
 そう、あの方向はアルケイオス格納庫の中である。

「ま、まさか……」

 とんでも無い俺の推論が、今形になろうとしている。

「劣等感、羞恥心、被虐感、抑圧欲、ここら一帯の住民達のありとあらゆるMな力を集めて動くのが、私達の古代兵器、アルケイオス五体だ。ちなみにローテーション式で全国民がこの役目は持ち回っているぞ。ふふふ、みんなが戦いに参加してないってイキちゃったアーヒム君は、ごめんなさいしないといけないねー? あは、あは、あはははっはははははははは、おっかしー、あはははははははははは」

「最もな理由だけどなんだろ、ちょっと俺ちゃん割り切れにゃい……」

 と、ぴくぴくしていた民衆をちらりとみれば。

「ふぅ。いや、私達まったく気にしてませんから」
「それより股間が気持ち悪いのでちょっと着替えてきてもいいですかな?」
「殺されるのは勘弁ですが、こういう正論で虐げられる系はいいものですなー、はっは」

 賢者モードになった変態民族がざっざっと引き波のように、引いていく。ホントなんだよこの民族。文化が違うってレベルじゃねーぞ。同じ祖先でどーしてこうなった。

「いや、どーもお前達の先祖様は私達のご先祖様にねっとり絡まれるのがたいそう嫌で、川向こうに避難したんだって、ほら、古文書に載っているゾ?」
「だから、私達の精神波でころっと逝っちゃうのかもねー」
「でもこうして力を蓄えて攻め滅ぼそうとしてくるなんて、やっぱボク達の業が深いんだろうなー、あはは、おもしろー」

 双子のリノリナちゃん二人がきゃっきゃと騒ぎ立てる。
 そしてレーゼが俺に向かってこういった。

「しかし、川向こうの人間の罵倒は凄いな。きっと数年分ぐらいの基地動力が一気に溜まったんじゃないかな。なに、同じ変態同士だ。これからよろしく頼むよ、アーヒム君?」
「ん、それじゃあもうお前ら戦わなくてもいいんか?」

 そんな俺の発言に馬鹿だなぁ、という表情をするレーゼと四人の少女達。

「そー言うところがお前のいいところだが、残念だな、補充されるのはメンテナンスや動力素で、乗り手がちゃんと実行命令出さないと動かないんだよ、アレ」
「ドMのご先祖様達の技術の結晶だぞ」
「当然乗り手が楽できるわけないよね」
「あの緊張感は嫌いじゃ無いですけど」
「……でもでも、負けたら私達みんな犯されちゃうんだよぉ」

 金髪のレーゼ。
 双子のリノ、リナ。
 眼鏡娘のメアリー。
 ポニテのラーナ。
 五人が祭壇から降りて来て、吊された俺の縄を解いていく。

「いや、アレは俺ちゃんの想像で……、いやそーでもないか。割と真に迫ってるかもなぁ」

 って考えている事全部伝わってしまうんだっけか。
 余計なプレッシャーを与えてしまったかも知れない。

「ばーか、アレくらいの妄想くらい気にしていたらこれからやっていけないぞ、なあメアリー?」
「そうですねぇ、むしろそれくらいのセクハラは私達の戦闘力上げちゃいますからね」

 と、五人の視線がこっちを向く。

「おい、今私達にえっちな事できて役得とか、思ってないよな?」
「え、だめなの?」

 そんな俺の返しにレーゼがため息をつき、リノリナがゴミを見るような視線を向け、ラーナは、一歩後ずさり、メアリーはきらりと眼鏡を輝かせた。

「こいつ……」
「これだから変態は」
「……性獣」
「なんだかんだで素質ありますね」

 そして、クルリと振り返り、少女達はきゃっきゃ、うふふと、談笑しながら和んでいく。

「よし、これで私達の代で負けることはなさそうだなー」

 と呟いたのは誰だったか。
 見た目は本当に俺好みの可愛らしい少女達。

「今日から私達の世話係な、アーヒム(奴隷)」
「きのこは食事に入れんなよ、奴隷(アーヒム)」
「こら、リノリナ!! あの、あのあの、本気にしないで下さいね、奴隷だなんて思ってないですから。あ、こらラーナ。貴方もいい加減現実に戻ってきなさいって」
「お、犯されちゃう……一つ屋根の下で犯されちゃう……、ふああああ」

 どうやら俺ちゃんの次の仕事は小娘のお守りらしい。
 そんな中、なんかしおらしい視線を感じて振り向けば、

「でもさ……本当は、本当は私達、怖かったんだ。今はふざけているけど、リノもリナもメアリーも、ラーナもみんなそうだよ。あのとき助けてって言ったのは、……本当に本当の私達の本心。冷たいアルケイオスの向こう側で、色んな人たちが私達を殺そうとして、憎んでいる世界で、本当にお前は、心の底から私達を思って怒ってくれた。私達はそれが一番嬉しかったんだ。だからね、ありがとう。実は今まで生きてきて一番嬉しいよ、アーヒム」

 レーゼの口元が動いているが、リノリナがまとわりついて騒ぐせいでよく聞こえない。メアリーがニコニコしているが、なんか裏がありそうなのでなるべく止めて欲しい。自分の発言が伝わっていないことを察したのか彼女が近寄ってくる。

「ごめんレーゼちゃん、よく聞こえてなかった、何?」
「ふん、お風呂ぐらいなら一緒に入ってもいいぞ? アーヒム」

 と、レーゼが訝しげな表情で俺ちゃんに駆け寄ってくる。

「……え、えええ、泡プレイで仕込まれちゃうよぅううう」

 奥手なのかムッツリなのかしらんが耳年増のラーナちゃんには、とりあえず俺の妄想を実況することをやめさせようと思った。

 こうして激動の一日が終わる。
 この日この俺、アーヒム=レデルラードは祖国を裏切り、五人の少女を救った。
 正しいか正しくないかは関係ない。どうしようも無い選択をしなければいけない時なんてこうして突然やってくるものなのだ。

 なに、後悔はないさ。


 ■■■


「で、敵性兵器に連れ去られるアーヒム=レデルラードを見た者がいる、と?」

 機械帝国、本国陸軍司令本部、二度の大規模侵攻を跳ね返されたアドラー准将の元に届く一通の報告。

「は、此度の侵攻時に、敵が突然組織的な防衛機動を見せたこと、こちらの物資を的確に焼却したことと、何か関連があるのではないでしょうか」

 頭の中を覗かれたか、明確な裏切りか、拷問の末情報を取り出されたかということをこの報告は示唆していた。もはや次の侵攻は容易にはできない。物資も人的資源も十分にあるが、三度目の無駄な侵攻は自分の立場を危うくしてしまうと、アドラーは考えた。

何はともあれ情報を手に入れなければならない。
 しかし、かの魔導帝国に限って言えばそれが最も困難なことだと自分たちは身に染みてしっているのだ。

「精神波耐性を持つ者をリストアップしろ、なるべく軍人に見えない者を優先だ」

 敬礼を行い、執務室から退出する衛兵。

「アーヒムめ……、死んでおらんかったか」

 アドラーの昏い呟きは誰にも知られることはなかった。


 よろしければご評価お願いします<(_ _)>
 
ぬける  
  いいね!!