シンシア=セイラス。人類の最初の裏切り者にして、正十字の背信者。未だ明らかになっていない魔王側の組織構成の中でもはっきりと"序列二位"と位置づけられている存在。人類側に伝わっている情報なんてそんなところだ。聞けばハイレグアーマーで騎士団を蹴散らしたとか、立ち塞がる軍勢をモーニングスターで端から吹き飛ばしたとかおとぎ話の様な逸話が出回っているが、アキとリアラ二人が相対した感想はどこからどう見てもなんだかクッソエロいお姉さん、という第一印象である。
「あ、アキちゃんアキちゃん……」
「待ちなさいリアラ、言いたいことは分かるけど出来れば言語化したくないわ」
じっとりとした視線を二人はシンシアに送らざるを得ない。一体どうしたことだろうと二人は思うのだが、何故か目が離せないのだ。彼女の腰から、胸から、顔、髪、指、そして服に至るまで包まれている圧倒的な女の美に目が離せない。いやこれは正確には美そのものではない、しかし美の一側面ではある。
「くっ、なんで同性なのにこんなにエロいの……ッ、この人」
「ふええ、私スタイルにはアキちゃんほどコンプレックスないのに急になんだか後ろめたくなるようぅ」
「……リアラ、アンタねぇ。最近ナチュラルに私をディスる癖やめてくんない、ちょっと怒るわよ」
「だって、だってぇ、アキちゃんもわかるでしょ、わかるでしょう?」
女三人集まれば姦しい、華やかで、美しく、可愛らしい、女。だが姦という文字には序列がある。二つの女の上に女が君臨している。二人の女が一人の女を支えている。なるほど歴々の字家はよくぞこの文字を作り上げたと言わざるを得ない。この文字は訴えている。女が三人集まればうるさく喧しいという意味と、三人集まれば自然と女の間で序列ができてしまうという傾向を本当によく表している。
そうなのだ。シンシア、アキ、リアラの三人の中で、今はっきりと存在順位ができあがってしまった。シンシアが強烈に発する強烈な"エロさ"の概念が、アキとリアラの女としての価値を相対的に追いやってしまったのである。
「くっ……分かるわよ、しかも綺麗だけじゃなく、なんとなくだけでこんなにエロいなんて、これじゃリアラの変態性癖でも歯が立たない……」
「あ、アキちゃんまた私のこと変態っていったぁ……、アキちゃんだってエッチ好き好きの好きの助の癖に~~~~っ!!」
「あら、それはどうも。でもリアラほどじゃないから、ウェルザーの鱗でこすったら気持ちよさそうとか考えてないもん」
「ふ、ふえええええ。なんでアキちゃんそれを……、うろにーは私だけの秘密のはずなのに、……いったい誰が~~?」
まさに姦しい、実際リアラとアキの二人しかしゃべり初めてはいないのであるが。ちなみにリアラの残念な性癖をバラしたのは簡易的なテレパシーでアキに愚痴ったウェルザー本人であり、こっそり二人の後ろで目を反らしている。
「あの~~?」
二人の間で話題の当人、シンシアの透き通るような声に二人の挙動がぴたりと止まった。
「貴女達、トール様のお客様?」
動揺中である二人への追加アプローチ。その問いかけはアキとリアラに思わぬ動揺を生み出させる結果になる。
(うっわー、何この声、声がエロいっていうか全体的にエロい、っていうか何してもエロいってなんなの、どうなの、そもそも人間なのこの人)
とアキがどぎまぎすれば、
(うえええ、ねっとり耳がきもちい……女の人なのに、女の人なのにぃ、うー……あの声で耳舐められながらくちゅくちゅされたいよぅ……)
リアラは言わずもがなという形である。 先ほどとはうって変わって太腿をすり合わせてもじもじとする二人。魅惑の概念でも洗脳の魔法でもなく催眠の呪法でもない、ただの色気で二人の頭が桃色に染まってまう。蕩ける頭蓋の中で女三人でのラブラブ貝合せ的な妄想が捗りかけてしまう。
その時、ぎゃおん。とリアラが召喚した水龍が鳴いた。瞬間二人の頭から水が被せられる。文字通り頭を冷やされた二人は正気に戻り、すぐに臨戦態勢をとりもどした二人は後方へと飛び去った。
「あら、もう少しだったのに」
ぺろりと舌で唇を舐めたその彼女の無邪気さはある意味恐怖だ。今日のごはんはみんなの好物よ、それじゃおまたにバイブ入れましょうね、なんて矛盾を強引に成立させてくる強烈な改変力。再びエロスへ持って行かれそうになる精神をリアラとアキはすんでの所で踏みこたえた。
「た、ただ喋るだけで魅了されかかるとか、あ、あぶなすぎる。んでヤバすぎる。リアラ、撤退するわよ」
「う、うん、このままだと私達、ガチレズ本気セックス手マン本イキダブルピースとかされちゃいそうだよぉ~」
「表現。アンタ最近頭と言動が緩いわ、とにかく逃げる、ほら、はやく!!」
「うー、わ、わかったよ!! ウェルザー!!」
そうされても構わないとか思わされてしまうところが、最も恐ろしい。これがトールに一番長く犯され続けた結果、存在がエロいとかわけのわからないものに昇格してしまったシンシアの真の力である。
「うふふ、だーめ。せっかくだからトール様と一緒にお姉さんと気持ちがいいことしましょう~?」
とことこうふふと、小首を傾げながらリアラとアキに無防備に近づいてくるシンシア。だが二人は一目散に水龍に飛び乗る。そして、水龍が体をたわませて、飛び上がったその時だ。
「え~い」
シンシアの手にいつの間にやら握られた、巨大な黄金のモーニングスターの一降りが振るわれると同時に、ごっそりと水龍の体を削り取っていった。その衝撃に砦の堀の半分ほどの水量を圧縮したウェルザーの圧水障壁がシャボン玉のようにぱぁんと弾けて消える。
「うっそ!!」
「えええええ!!」
ウェルザーが纏う水は城門や鉱物生物でさえも圧倒できる水量であったはずだ。だがそれがいとも簡単に敗北した。物理無視、慣性無視、重力無視、防御無視。考えられることは幾つもある。だが、アキとリアラは直感的に察する。まるで近所の散歩をするように何気に重力を無視した、彼女のぴょーんとした跳躍を見て、二人は揃って嫌な感じの汗を背中から拭きだしてしまう。このつかみ所の無い理不尽感を自分たちは知っている。どうやっても、どうあがいても叶わない万能の使い手を、自分たちはどこかで知っていると。
「やばい」
「この人わりとなんでもありの人だぁ~」
だが、最後の最後で諦めなかったアキの一手が決まる。空中に投げ出された二人を包み込むように彼女のゲートが開いて閉じて――。
ぺいっと押し出されるように、ウェルザーと、彼女達が城外の空間へとはきだされた。
「た、助かった?」
視界に外の景色が入ってきたことで安堵するアキ。だが、リアラの目には、何もない空間の歪みから突如現れた、白い手が今まさに彼女達の首根っこが掴まえようとしていて――
「知らないの? 大魔王様からは逃げられないの、ふふふ」
最後にアキのゲートから飛び出たウェルザーが着地をして振り返ると、彼女達の安否を確かめようと振かえるが、そこには僅かな空間の歪み跡が残るだけだった。
パリパリと閉じようとしている空間の歪み。
だが、リアラとアキの忠実な僕であるウェルザーには何も出来なかった。
「――貴女も来なさい」
という呼びかけの後、彼も首根っこ掴まれて空間の裂け目に引き釣りこまれたのだから。
「あっ、あっ、だめ、だめぇ、ふあぁぁぁん、またいく、いっぐぅ!! いやああああ!!」
結界内に響く乙女達の矯正。それはさながらサバトのように、淫欲への感謝、肉欲への感謝、快楽への感謝が捧げられていた。日頃の絶頂よありがとうと言わんばかりの、性と肉の感謝祭。
「はぁはぁ、ラコさぁん、んっラコさんの唇おいしい、あっ」
乳首舐りスライムのプールで、ラコとアーシアが幸せなキスをしている、いや幸せなのは正気を失ってしまったアーシアだけだろう。ぎゅっぽんぎゅっぽんと激しくおっぱいを搾乳されて、ボッキした乳首をスライムに吸い付かれて、神様の触手でケツ穴をほじられるたびに、股間からだらしなくスライムの餌となるお潮を噴かしている。
「ふぅぅ、あー、きもちぃ」
トロンとした目で、緩んだ顔で、その両手はラコの顔をしっかりとホールドして、チロチロと優しく舌と唇で吸い付いていく。
「う、うぁぁ、だめだぁ、やめ、やめてぇ」
正気を保ち続けているラコは不幸だろう。かわいい後輩が心を気持ちよくさせられているさまをみせられた挙げ句、その後輩に襲われているのだ。そんな彼女のお尻にも触手はやってくるし、スライムは律儀に乳首に吸い付いてくる。もはや彼女のお尻は乙女にあるまじき緩さでにゅっぽんにゅっぽんと触手の出入りを歓迎している。気が強くて、兵士と力比べをしちゃうよいうな女の子が、目尻を細めて、人外の化け物達に乳首を捻られて、触手のピストンを受け入れている。
「どーですかみなさん、これはちんこ勃つでしょう」
そこには床から生えて、マイクらしきものを持つトール。いったい誰に問いかけをとラコは虚ろな思考力で考えたあと、思い出す。
そう、全世界同時放送。
世界中の誰かに、余すことなく、こんなありさまを見せられている。
「いや、やだぁ」
ラコは、幼児のように嫌々をする。
だって、床から生えてくるとかわけのわからない存在が、その下半身を近づけて、見たことも無い太さの男性器を自分の股間に当てがっているのだから。
「むほほ、勝ち気おにゃの娘、処女おまんこ、いただきまーす」
「やだぁ、あ、う、うああああああっ」
「ラコさん、かわいい、かわいい」
アーシアの柔らかい舌の感触を味わいながら、ラコは股間に侵入してくる、熱くてかたい何かを、対に拒むことができなかった。
「あん、やん」
快楽はすぐにきた。
そして、諦めも。
「う、うあ、だめ、これだめ、ふぁっ、うんっ、いやぁ、あっあっあっ」
足が開き、男の腰に巻き付く、
腕は首に回され、拒絶の欠片もない。
そして目尻がさがり、その口元に快楽への肯定を表す笑みが浮き出て、
彼女は牝と成り下がったのだ。
「い、いいっ、これいいっ。お、尻もすき、あそこも好きぃっ」
快楽への感謝で神は答えてくれる。ここはそんなお祭り空間である。現状を肯定しきったラコとアーシアへ、無数の触手が絡みついていく。
「ひぃいうううう、き、きもちぃいいいいいい!!」
二人から、びゅーっと、えっちなお汁が噴水のように吹き上がった。もう二人の心は乙女には戻れないだろう。その心はもはや次なる快楽を求めているのだから。遠視投影のなかで絶頂に振るえた二人の修道女が、その可愛らしいお口をあけて、自ら魔王のイチモツをしゃぶりにいく姿がその証明だ。
画面が切り替わる、ラコとアーシアの様子を背景にしてマリーとサリエラ、そしてシャーロットとクラネスが映し出された。彼女達は横一列にならんで、家畜のように捕らわれていた。但し、彼女達に首輪はついていない。ついているのは、いや、繋がっているのは、繋げられているのは、乙女にとっては不浄の穴、そう肛門である。
「ほーら、はやくしないとエロエア君の触手が、どんどん君たちの中にはいってきちゃうよー、がんばがんば」
「でゅふふ、はやく腰を振るでござるよぉ、十回振るごとに一回抜いてあげるでござるよぉ、あ、そーれ、そーれ」
四人が四人、お尻から触手を生やしながら、一心不乱に腰を振っていた。
「あっ、あっ、いくっ、いくいくっ」
マリーは騎乗位、ねっころがるコピートールに馬乗りになって、快楽を貪っている。
「あううう、ぬ、抜かないで、抜くと、あっいっちゃ、ああん!!」
サリエラは座っているコピートールに抱きつきながら、にゅくにゅく腰をくねらせている。お尻から急に抜かれるのが慣れないのか、必死で片方の手で触手を押さえていた。
「うう、ふぁぁぁ、ああ、天国は、神は、ここにあったのですね、あっあっあん」
犬の様にカクカク四つん這いで腰を振っているのはシャーロットだ。ご褒美にお尻を叩いて下さいとか言う当たり業の深い娘である。お上品な顔のままで下品な行為を見られるのが堪らなくなってしまったのであろう、触手の出入り回数が一番多いのが彼女だ。
「……あっ……んっ、んぐぅ、……んんんん、ぷはあっ、もっとください、あっいっくぅ、」
前髪がかかって表情がよく見えないクラネス。だがその行為が雄弁に語っている。蕩けた口元、だらしなく垂れた涎。お尻と股間に数本の触手を受け入れながら、コピートールとエロエア君の触手をお口に交互に含んで満足している。
「いやぁ、この娘エロいでござるねぇ」
「お、エロエア君気に入った? 巫女にしとく? アナル触手神社、つくってあげよっか」
「プフォォ、それいい、いいでござるよトール氏ぃ」
魔王と神の悪魔の雑談。
とろけるアーシア。
プライドを捨ててきもちいと鳴くラコ。
快楽に全てを預けることにしてしまったマリー達。
「で、キミはいつまで耐えるのん?」
一人分の防御結界で触手の浸食から辛うじて堪え忍んでいるリヴェリタ。だが完全ではなく、既に一本、くちゃくちゃとお尻に侵入を許しているのか卑猥な音を股間からだしていた。
「いつまででも耐えてみせるわ、でもっ、でもでも――。おかしい、なぜ、なぜ力がでないの!?」
そのリヴェリタの言葉に、トールとエロエア君は顔を合わせて、ぶはは、と噴きだした。
「リヴェリタちゃん」
「リヴェリタ氏」
そして、口を揃えて、言ったのだ。
まだ、気づいてないの、と。
「や、やばいです。なんですかあれ、魔王が神域にも手を出しているなんて反則ですっ」
すんでのところで、結界領域から脱出をしたリリアンは、ただ走っていた。神層第二十三界・顕現結界。神々が住まう世界深くの神層域、その理を現世界に侵食させる教会でもおとぎ話レベルの本当にあるのかもわからない反則技。そんな恐ろしいものが、そんな神話みたいな力が、この城にあるのだ。
「ヤバいです、ヤバいです」
彼女は思う、あの場所に残ったリヴェリタを含めた数人はもう助からないだろうと。たぶんあのアナル触手の最高神とかいうふざけた存在と、手籠めに自信と実績有りの大魔王により、目出度く肉便器に開発完了してしまうだろうと。
「うふふ、うふふふふふです!!」
――いいんだよ、概念魔法なんてものは、その人が望み望んで、さらに渇望して、その上で都合の良い方法で手に入れでもしなきゃそもそも動かないものなのさ――
それは、いつかトールがアキに魔法を授けるときに話した言葉。
「このちから、ぜーんぶリリアンが奪い取るですよ!!」
無垢な少女に生じた昏い願望。例え至らなくても至るものを見た瞬間に芽吹くものがある。この瞬間、リヴェリタの概念管理権限が剥奪され、彼女に強制的に移動される。より強い欲望を持つものへ、より我が侭で独善的な意思を持つものへ。
「り、リリアン? あなたも逃げれられたのね。貴女で多分最後、よく無事で――」
合流通路で彼女の視界に入ったのは副隊長のセシリア以下数名、そして、最後といった彼女の言葉を、リリアンは聞き逃さなかった。
「刃偽変成(フェイカ・ブレイズ)」
愛らしい外見から想像もつかない、冷たく底冷えする力の言葉。支配者の剣の眷属たる彼女達は上位の支配権限には逆らえない。乙女達は黄金の刃となり、彼女のものとなってしまう。そう今宵、乙女達は結局誰も助からなかったのだ。
「手始めにみんなリリアンの力となるです!! あとで手マンしてあげるです!!」
力を得る喜び。それは概念魔法成長の第一歩でもある。
「キミ、えっぐいことするねー」
言葉の方向は天井だ。リリアンはゆっくりと声の主を見上げる。
「盗み見ですか、魔王の眷属はやっぱお行儀が悪いです」
「というか人の家で勝手に暴れてそんなこと言われても……、ってまだキミ幼女じゃん、キミみたいな子がトール様に挿れられちゃったら壊れちゃうなぁ、うーん逃がしてあげようかなぁ……」
と、その瞬間に黄金の魔法力がリリアンを包み込む。
「は? お前もリリアンとおんなじ背格好のくせに生意気です!! ははーん、さてはお前年齢不詳のロリババアの類いですね、リリアンのぴっちぴちの肌と心にに恐れを成しましたかぁ?」
「うーん、否定出来ないところが、痛いなぁ。ババアって程でもないけど、年だけはキミより上だからなぁ。はぁ、カレンみたいなおっぱい大きい子の相手したかったなぁ、今日はついてない」
そして、魔王の眷属――アルテはすっと拳を上げて構える。
同時にリリアンの手に黄金の剣が顕現し――
「むっきー!! 小生意気な青髪ボーイッシュ娘は手マンして垂直に潮を噴かせてやるのです!!」
そしてまた、魔王側と侵入者の戦いが始まったのだ。