リリアンを初めとした乙女数人が、トールとの対峙を諦めて城内に散った。その時点でトールが人数が多いリヴェリタ本隊の対応を優先したことで、状況が劇的に変化する。概念神器全てをエロエア君の召喚に使ってしまったトールは、今思うように細かく概念魔法を振るえないのではないかという疑念が彼女達の中で共通認識となったのだ。
いまもしや魔王は、外敵に対して自身が一々出向かなくては対応できない状況なのではないかと。そう感じ取った残りの乙女達。
「皆、散りなさい。そしてそれぞれが囮となるのです。こちらの目標はローラ様奪取!! あとはすたこら逃げて、安全なところでローラ様を百合百合ほんわかレイプです!!」
リヴェリタが叫んだ。そしてまだ散開していなかった乙女全員が頷き、命令に忠実に動こうとしたその刹那である。
「させると思う?」
「でござる」
エロエア君の丸く巨大な体の上にシュタっと着地したトールが、天へとYの字に両手を掲げた。直後、その背後に呼応するように魔方陣が現れる。ここで彼女達の運命が二つに分かれた。
そう、逃れられた者と、逃れられなかった者達だ。
そしてリヴェリタを含んだ、この場を離れることが叶わなかった乙女達は見てしまった。トールの背後に浮かぶ魔方陣が、自分たちの教義の象徴ともいえる、生命の大樹(セ○ィロト)そのものであることを。命の誕生と混沌(無)からの受肉を意味する全ての始まりを象る全ての基礎にして全ての可能性がこめられた魔方陣。正十字教会内ですら、聖遺物や貴重な触媒を使いに使っても、顕現できる者は歴史上に数人いるかどうかというレベルの難易度が必要な魔力行使の筈である。何故魔王が正十字側の神の魔方陣を使用できるのか、そんな疑問にふと足が止まってしまったのだ。それが命取りの逡巡であることに気づかずに。
「ふはは、エロエア君という神格を召喚すると言うことがどういうことなのか思い知らせてあげよう」
「ぶふふぉ、トール氏ぃ、照れるでござるよぉー」
そしてトールは、エロエア君と共に掲げたYの字の両手を、そーれ、と左側に傾けた。同時に時計の長針が逆側に傾くが如く、カチリと顕現された魔方陣が、空間を刻みつけた瞬間である。突如魔方陣から神気が失われ、生命の木はぐにゃりと形を失い、外郭はそのままに、歪んだドス黒い紋様に変化した。
「時刻は」
「午後二十三時」
トールとエロエア君の言葉と共に、魔方陣が世界を侵食していくような、そんな予感と悪寒を感じながら、リヴェリタ達は身構えた。なにか飛んでも無い力が行使されようとしている、そんな覚悟を決めながら。
「いまは世界で最もおセックスが始まる時間にて――」
「再生への命が放たれ、あまたの命が死んでいく混沌の時」
塗り替える。この部屋ごと世界が塗り替えられていく。
「「即ち――、生へと向かう、死滅の時」」
乙女達は解らないだろう、今行使されている魔法は現世の器たる、世界そのものの変革魔法。在りしことを忘れさせ、無かったことを常識へ。それはまるで箱庭の戯れのように範囲内の全てを自在にしてしまう神々の一手。部分的な事象を変革する概念魔法などこそばゆく感じてしまうほどの、圧倒的行使力がこの部屋一帯を満たしていた。
「俺は願う、生と死が混ざる混沌なる世界を」
「われは顕する、誕生のための死が満ちあふれ流転する世界を」
これが、誕生へと向かうための死を象徴する生命の大樹。その二三番目の力のほんの一握りを利用した世界変革の業。
「――神層第二十三界・顕現結界、亜種」
トールの目くわっ、と開き
「死ぬほどねっとりしつこいけど、即落ち二コマからが長くて気持ちよくてしょうがない、乳首ねぶりとアナル開発、全世界マルチワイプ同時放送陣、顕現でござる」
エロエア君の詠唱が完了した。
「ちょ、それ、マジでやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
乙女達は叫ぶが。
ごーん。
と、どこからか重い鐘の音が鳴り響く。まるで何かが完了したことを知らせるかのように、もう全てが手遅れだと乙女達に最後通告をするように。今回この結界に取り込まれてしまった哀れな乙女の数はリヴェリタ以下八名。彼女達の運命はたった今、決まってしまった。この鐘の音と共に、決まってしまったのだ。
「ひ」
最初に声を上げたのは一体だれだったか、彼女の視線の先に移るのは、魔王城の壁だったもの。硬く硬質の大理石のように美しく輝いていた筈の壁が、いつの間にか醜く脈打つぶよぶよの肉壁となり、そこから、見るもおぞましい触手が伸び始めている。いや壁だけではない、天井、床、そしてあの怪しげな魔方陣を顕現させたトールとエロエア君までもが肉壁に溶けて飲まれてしまっている。どす黒く斜めに傾く魔方陣だけが不気味に輝き揺れていた。
ここでようやく乙女達は気づく。気づいてしまう。この部屋はまるで祭壇であると。この世界で反抗意思を持ち、抗おうとする自分たちは――。淫靡で邪悪な祭りの催し物の一部であると。そして自分たちはもはや、碌でもない神と魔王に捧げられた哀れな生贄なのではないかと。自覚させてしまうのに十分なものであったのだ。
それと、同時である。
「ひん!!」
「ひゃあ!!」
マリーとサリエラが実に女の子らしい悲鳴を上げた。彼女達はただ、立っているだけに見える、見えるのだが――。そのロングスカートからわずかに見える足と足の間に、一本の触手が入り込んでいるのが分かるだろうか。その触手の先端が、彼女達のお尻の穴をちょちょん、としただけで、天にも昇る快感が彼女達の脊髄を突き抜け、脳髄を解かしてしまったことに気づくだろうか。
「あ……だめ、それ、だめ」
「やめて……くちゅくちゅするの、いやぁ」
ふう、ふうと二人は消え入りそうな吐息で唇を濡らしながら、虚ろな視線を目線を床に落とし、剣を握りしめて立っている。その様子がただ次の快感を待っているだけの姿勢なのだと、だれが気づこう。むしろ当事者でない乙女達にしてみれば、その姿は薄皮一枚を持って、彼女達は試練に耐えたように見えてしまう。
だが真実は残酷である。既に彼女らの精神は骨の髄まで汚染されてしまった。今二人は膝から崩れ落ち、腰砕けで、アナル触手ずぽずぽしてくださいと泣き叫ばないことで、上辺だけは、女としての体裁を保った。それだけである。
「ふ、く、くふぅ、ああ、これ、これぇっ」
「っ……ふー、ひぐ、あっ、や、あっ」
それでも許容量を超えた快感が、まるでコップからあふれ出る水のように。も彼女達の口から吐息と共に漏れ始めてしまった。びゅるる、びゅるんぐと触手が地を跳ねて、嬉しそうに這いまわり、彼女達のスカートの下へとどんどん侵入していく、柔らかい股間へ向けて、足首を、膝を、太ももを、這い上がる。そこで乙女達は理解してしまう。見える部分だけの触手の動きだけで分かってしまう。二人はもう既に、アレに中まで犯され、体を許してしまっていることを。
「マリー、サリエラ、対応しなさい、何をやっているの!?」
リヴェリタは無駄だと重いながら叫ぶ、彼女達はもうダメだ。だが他の乙女達に活を入れるためにも、ここは叫ばなければいけなかった。彼女達は正十字教会屈指の暴力装置だ。こんな低レベルな触手の集合体など苦になるはずがない。彼女の激励に反応した他の乙女達も迫り来る触手をざっぱざっぱと切り刻んでいる。
「それは無理だなぁ」
「そうそう、酷でござるよー」
受肉した床に引き込まれたトールとエロエア君が、どのような仕組みか天井からひょっこりと上半身を出している。そしてトールの指がパチンと鳴ると、大画面の遠視投影魔法がリヴェリタの前に現れた。そこには一人につき四分割されたマルチ画面。マリーとサリエラの顔と股間と尻穴と胸元を移した無慈悲な映像であった。
「ほーらみてごらん、マリーちゃんサリエラちゃんのかわいいアナルの接写動画だよ!!」
トールのセリフに乙女達は嫌が応にも投影画像を凝視し、固まってしまう。
その、あまりのおぞましさに。背徳的で、暴力的な快感を思わせる造形に。
彼女らの股の間を昇る艶めかしい肉棒の最先端には、悪趣味にも細かい繊毛のような触手がわしゃわしゃと生え揃い蠢いていた。あんなものでケツ穴の皺を丁寧に丁寧になぞられたらたまったものではないだろう。
だがしかし、ああ、なんてことだろう。乙女達はその映像で理解してしまう。卑猥な触手の動きで、分かってしまう。あろう事かその細かな触手達は一本づつそれぞれ意思を持っているのだ。連携して尻肉をかき分け、皺を伸ばし、こしょこしょと汚物がでる穴の周りを這い回り、きゃっきゃとほぐすことを喜びとしてしまっている。
そして、その繊毛のような細かい触手達の根元からまるで細長い舌のような器官が伸びている。それ自身が湿り気を持ち、そしてその湿り気をぷしゅぷしゅと出しながら、もはやぱっくりと小指ほどにも緩んでしまった彼女達の肛門に――
「あはぁ……」
「ひぃいいいい……」
マリーとサリエラの甘い声が、リヴェリタと乙女達を正気に戻す。まだ触手に捕らわれていない乙女は周囲を切り払い、捕らえかけられていた乙女は、脱出を試みる。だが、そう、だがあの二人は、もうだめだろう。
「お、おほ、これ、だめ、だめだめだめ、お、おほ」
「ほおっ、ほ、ほう、あ、あはぁ、ひぃいいん、き、きっもちぃぃ……」
嫌でも耳に入る、くぽくぽといういやらしい音。あんないやらしい、下品な音は、水と空気と適度な柔らかい尻肉を締めつけることによってしか起きない。淫靡な摩擦音、当然その擦り擦られ様は、遠視投影に既にはっきりと映ってしまっている。二人の肛門にするすると入り込んだあの舌のような器官がうねうねと分裂して暴れ回り、その身に含んだ体液を彼女達の腸内にまき散らしている。そして、それを気持ちがいいと映像の中で彼女達が叫んでいるのだ。受け入れてしまっている彼女達の表情と、股間を余すところなく映し出して。
「あ゛、あ゛ー、あ゛ー、だめ、わたし、もうだ、めぇ、あっ、あっ、あっ、いいっ、いい、これ、凄いの、お尻コスコスやさしいのうぅ」
マリーの手から剣ががらん、と落ちる、それと同時に前のめりに倒れて、体をぷるぷると痙攣させる、突き出された尻が捲れ上がった。無残にも彼女の肛門から、見事な触手が生えてしまっている。まるで生殖活動の様に緩急をつけて、ぬっこぬっこと優しく彼女のアナルを掘り変えすその有様に乙女達の背筋に悪寒が走る。
「い、いぐぅううう」
その悪寒を吹き飛ばすような横から聞こえた不意打ちのサリエラの絶頂声に、全員の視線が再び一カ所に集中した。彼女は剣に体重を預けるようにうつむいているが、もはやその精神は戻れない段階にまで来てしまったのが一目瞭然だ。彼女がびくびく振るえるたびに、意識的に下半身に力を入れているのが分かってしまう。なぜなら彼女の股の間から、ぶしゃっぶしゃっと、勢いよくお汁が吹き出ているからだ。そして彼女が絶頂の度に、内股からがに股になり、うつむきからのけぞりに変化していく様は、残された乙女達の末路を表しているかのようである。
「み、みなさん、これは脱出優先です。概念同期《イデア・リンカー》を……!!」
「ばかやろー、隊長、二人を見捨てる気かよ!!」
「黙りなさいラコ、これは捕らわれたら割と終わりなヤツです、今は一人でも多く――」
「えへへ、そうですよラコさん。こんなきもちいのに、なーんで脱出するんですかー?」
そんな二人の会話に突如異物が紛れ込んだ。
「はぁん。先っちょ気持ちいなー、えへへ。この子すごいんですよぉー。ほらぁ、ラコさんもぉ」
先ほど服越しに乳首を刺激されていたアーシアが、ラコを後ろから拘束する。そう、あの一瞬で彼女にはとある化け物の種子が植え付けられ、そして人知れず快楽に堕ちていたのだ。ちらりと見える彼女の太ももに、なにやらぶよぶよとした軟体生物がこびりついているのが見える。恐らく彼女の服の中は、あの生物で満たされてしまっているのだろう。そして、声も立てられずにひっそりと、ゆっくりと何度も彼女は包まれて果てていたのだ、この短時間で、正気を失うほどに。
「な、アーシア。う、うあああ」
「あはは、ラコさんのお胸やーらかいですねぇ」
アーシアの修道服のあらゆる場所から、青緑色の半透明の液体物質が這い出てきて、ラコの体に絡みついていく。それはさながら意思を持つように服の上からうねるように彼女の体を弄りつくし、そして彼女の二つのお胸の頂点できゅう、っと伸縮する。
「ふぁ、やだぁああああああああああああ」
「あ、あれは伝説の乳首舐りス○イム!!」
らしからぬラコの悲鳴と、リヴェリタ達の驚愕が重なった。
「あっ、あっ、だ、だめだ、これだめ。ふ、ああ、はぁはぁ」
「あはは、ラコさんかわいい……あっ、あん。そうそう、力ぬいてくださぁい、この子達がにゅるにゅる、きゅっきゅしてくれますからぁ、あはぁ」
二人でくっつきながらその場に崩れ落ちるアーシアとラコ。その周りにワイプ付きの遠視投影がまとわりつく。うねうねと触手に犯され続けているマリーとサリエラ、そしてスライムに捕らわれ、乳首をきゅうきゅうと舐られているアーシアとラコ。彼女達それぞれの惨状は、わざわざ魔法で映像化しなくても十分卑猥だというのに。
「ま、まさか」
違和感を感じたリヴェリタの予想は当たっていた。それは乙女達にとって最悪の事態だ。エロエア君は言っていた。全世界同時放送の陣と。
そう。
今世界中の美しい夕暮れをバックに四人の乙女のどうしようもない姿が映されていた。蕩ける表情。だらしない口元。溢れ続ける涎に、誰がどう見ても屈してしまったアナルと乳首。残酷にも拡大ワイプ付きで、余すところなく。ぬっちょぬっちょという粘液の音さえも世界中にお届けされてしまっているのだ。
まさに生け贄とはよく言ったものである。
若い女が、おぞましい何かに捕らわれ、犯されるという大鉄板。
今世界中の男は、魔王によって武器とチンコのどちらかを握るかの選択を迫られていた。
そしてここ、人類の最前線バージ砦でも。
「お、俺ちょっとトイレ」
「ちょお前、ず、ずる――」
つい昨日まで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた少女達の痴態にちょっくら我慢できなくなってしまった兵士がちらほらと出てしまう頃である。
二人の人影が魔王城城門の前に現れる。
「……はぁ、すっごい気が進まないし、助ける義理なんてないんだけどなぁ」
「だ、ダメだよアキちゃん。いくらアキちゃんをプンプンにしたどうしようもない子だけど、ウェルザーのゴシゴシ係くらいにはなるんだよ?」
気の良い彼女にしては酷い言いぐさである。
「……リアラ、単に溜まってイライラしてるだけじゃないの?」
その言葉は禁句だったようで、リアラの可愛らしい頬が膨らむ。そして彼女はアキの両肩を掴みぶんぶんと前後に揺すり始めた
「んー? アキちゃんはいつでもスッキリできるもんねー? 昨日もさっきもお顔テカテカさせて帰ってきたもんねー?」
この子も業が深いなーとアキは首をがっくんがっくんさせながら、ぽんぽんとリアラの肩をたたいて興奮気味の彼女をなだめる。
「あー、はいはい。好きになさいよ、もう。……さて、あの遠視投影が始まったとたんに城は隙だらけね。魔王様がお祭りに夢中な内に、構造やら内情やらをちょっと色々拝見させてもらうわよ」
「おっけーだよ、アキちゃん!! ちょっとぐらいぶっ壊しちゃってもおけおけのおっけーの助だよね!!」
「同意はしないが、まあ見ないことにしてあげる、お、やっぱいける、座標確認」
ヴーン、とアキの手の平のキューブがあっという間に数メートル四方のゲートとして完成する。
「えっへへー、お水、あつまーれ!!」
「もー、ほどほどにしなさいよー?」
「せーの、そぉーれえい!!」
同時に割と距離があるはずのバージ砦の堀の水量の半分ほどが宙に浮き、波濤となってアキのゲートを通り城内へなだれ込んだ。大量の水流と共にゲートを通り城内へと侵入を果たす二人。
「うっわ、すっごい広い」
「とりあえず、えーと、乗り物でいいかなー?」
明らかに外観から見た城と物理的に大きさが違う城内に驚きながらも、二人は侵入を果たした。ぎゅるぎゅるとうねる水流が集まり、リアラの概念魔法により核が構成されて小ぶりな竜のサイズまで圧縮される。そしてその上にゲートをくぐってリアラとアキの二人が竜の背中に着地した。
「あらー、何事かしらー?」
場違いにのんびりした声が周囲に響く。
彼女達が振り返れば、そこには全世界の人が知る有名人の姿があった。
声の主はシンシア=セイラス。
正十字の背信者にして、魔王の最初の僕。
人類の敵、第二位との邂逅である。