歪曲コミュニケーション

第15話 修学旅行 大生沢茜 結城姉妹④


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  ほんのり赤みが差した顔で、大生沢茜がぽつぽつと話し出す。普段は快活な彼女も慣れない話題は照れるのか、年頃相応の少女の顔になっているようだ。大生沢茜という少女は普段の男勝りな振る舞いと、170cmという女子にしては高身長なせいで、普段は男女扱いをされがちであるが、その顔の造形は決して悪くない。猫科を思わせる人なつっこい顔立ちに、健康的美脚にくびれた腰つき。牧村真樹とはまた違ったベクトルの色気がある。普段強気な彼女の弱い部分を垣間見てみたい、という隠れファンは牧村以上にいるであろう。

 そんな彼女に出来た彼氏との深刻な性に関する問題とはなんであろうか。肉体的にも問題なし、性格的にも、造形的にも問題なしな良物件である彼女を悩ませるものとは何か、と。
 一同は真摯に耳を傾けた。

 そして、

「そりゃ、男側の問題だなー」
「不安だよね、何か間違ってるのかなー」
「彼氏さんの問題ですね」
「あ、わかるー、すごくわかるー」
「茜ー、彼氏には悪いけどそれはアンタは悪くないわ」

 一気に解答が出され、

「えっ」

 と、一同顔を見合わせた。
 それは物の見事に綺麗に意見が分かれたことからして意外らしく、大生沢茜と結城姉妹はぽかーんと口を開いていた。

 大生沢茜の悩み事とは不満というか不安に近しい物であった。その内容とは至極単純なものにして、最も年頃の少年少女が気にすることでもある。彼女が遠慮がちに口に出したその悩みは、

 性行為があまり気持ちが良くない。
 もっと端的に言えば、セックスでイけたことがないという悩みであった。

 少年少女も十五歳を越えるお年頃となれば、エロ本エロ漫画エロビデオの一つや二つは鑑賞済みであろう。ましてや今はネット社会。そういった映像までの敷居はぐんと低くなっているし、下手すればもっと早い時期にそういった類いの映像を見つけてしまう少年少女達もいるだろう。大人になれば当然あれが演技やファンタジーという成分が少なからず入っていることを考慮できるのであるが、いかんせんその段階に至るまで、そこそこの先入観が生まれてしまうのは避けられない。

 そしてようやく悩みを打ち明けた大生沢茜に対して、武智はぽんぽんと、軽く質問を重ねる。行為は週に何回? 前戯の時間は? 一度のエッチにかける時間は? 何回連続でしたことある? などなど。ちなみに調子に乗ってオナニーでイけてるのかとか、玩具使うの、とか、得意な体位は、の当たりで座布団アタックを大生沢茜から食らったのはご愛敬だ。

 そして、座布団をどかし、むくりと武智は起き上がって言ったのだ。

「男が悪い」

 と。

 そして牧村と真堂が頷き、大生沢と結城姉妹が真顔になったのが今だ。

「なんでなんで、なんでそんなに断言できるのさっ」

 大生沢茜は不満そうだ。彼氏が悪いと言われたことが気になったのであろうか、それとも自分の予想と外れていたことが不満なのかは傍目から解らない。解らないのであるが、その答えに非常に興味を持っているのは間違いない。だが武智は、そんな彼女の態度に一筋の伏せられた感情を見た。それは少年少女特有の願望というか欲望とも言ってもいい、至極単純な思い。

 きっと。

 そうきっと、大生沢茜は盛大にイってみたいのだ。例えばアダルトビデオの中で淫らに乱れている女優のように。涙とか、涎とか、あられもなく溢れさせながらビクビクしている彼女達に夢を見ている。どんな感じなのか、どんな状態になるのか体験してみたいのだ。演技なのは解っている。

 だが

 映像の中のぷっくりとふくれたあの乳首や、めいいっぱい擦られて吹き出して気持ちよさそうにしているあの現象は事実なのだ。その点は明らかに大生沢茜自身がしているものの結果と明確な違いがある。故に、大生沢茜のイくということが、どんなものなのか、どんな快感なのか知りたいという願望は当然の帰結であり、

 そしてそれが本当に気持ちがいいことなら。
 ――自分も体験してみたい。

 それが、大生沢茜の悩み事であった。

 武智の右手の指輪が、ぎぎ、と不愉快な音を奏で出す。
 かちりと、また何処かで何かが動き出した気配がするが、誰もそれに気づくことは無い。
 それはただ、後に結果として現実に現れるだけなのだ。

「なーなー、経験が豊富な牧村真樹ちゃん様やい」

 ぷしゅっと二本目の酒缶を開けながら、武智は話を牧村に振る。牧村は少し嫌な顔をしながらなによ、と応じる。

「割とイっちゃう時に汁だくな真樹ちゃんのエッチ時間を親友である茜ちゃんに教えてあげては――」

 どうだね、と言い終わる前に牧村の座布団砲が武智の顔面を襲う。
 ちなみに縦巻きである。

「な、な、あんた何言ってるのよぉおおお!!」

 武智の言葉をそのまま受け取れば、牧村と武智が関係を持っていると思われてもおかしくは無い言動である。しかし、いやまさかという疑念と、そんな爆弾をこんなあっさり投下するはずかない、という先入観が、大生沢と結城姉妹の思考をくねらせる。

 牧村真樹と中田浩二の間を取り持ったのは、この武智光博というもっぱらの噂というか公然の事実である。当然中田-武智の情報パイプラインが生きているというのは納得いく話であり、中田からの情報提供と考えたほうが酷く説得力があると考えた。真堂香だけは、へー、牧村先輩って噴いちゃうんですねーと、言葉通りに受け取っていたのだが。

「で?」
「「どうなの?」」

 轟沈した武智をよそに、結城姉妹と大生沢茜が牧村に詰め寄る。

「え、ええええ……、ええっとぉ。そんなのそれなりだよ、それなり……」

「却下」
「「詳しく」」

 どうやら、牧村は大生沢と結城姉妹に芽生えてしまった好奇心の檻からどうあっても逃がしてもらえないらしい。ずいずいずずいと、牧村に躙り寄る大生沢茜と結城姉妹。このまま放っておけば、牧村の体を弄り始めて、よし実際にイかせてみようとか言いかねないテンションである。牧村真樹は何かを危険な物を察したのか、仕方なさそうに口を開き、

「……5.6時間くらい?」
「はい、真樹ちゃんだうとー」

 という、牧村の渾身の躱し手は、武智の横やりで台無しになってしまった。

「うがー、茜やめろ、揉むなーっ言うから、言うからー!!」

 ぜーはーぜーはーと、牧村と大生沢、結城姉妹の間合いが離れる。

「うは、女子共は容赦ねーなー」

 と、武智は愉快に酒を煽っているが、誰のせいだと牧村が睨むとぷいっと武智は目を反らした。牧村はあーもう、とかぶつぶつ言いながら、乱れた服装を直すと口を開いた。

「てか、正直時間なんかわかんないわよ、大体(光博とヤってるときは)気づいたら外明るくなってるし、疲れてそのまま寝ちゃうし……、てゆーかさ」

 牧村は、そう言葉を切って、まるで当然の如く言い切った。

「次の日休みだったら、普通次の日の昼くらいまでヤるでしょ(光博とだけど)」

 と、とんでもないパワーワードを、青少年エロ検定があったとしたら初級もいいところであろう大生沢と結城姉妹のミットへぶち込んだ。巻き込まれないよう静観を決めていた真堂香も思わずぶふっと飲んでいるお酒を吹き出してしまう。それが事態を更にカオスに悪化させるハメになる。今のリアクションで話題が真堂にまで飛び火したのだ。

「か、香ちゃんだってそれくらいやってるでしょ、ねぇ?」

 牧村に取ってみれば本能的に現状から逃れようと牧村が真堂へと話を振ったに過ぎないのだが。

「さ、さすがに昼までなんてできませんよ、体が持ちません……!!」
「わはは、まあ香ちゃんはアナル専門だからにゃー」

 無慈悲な座布団砲二発目が武智の顔面を襲った。いや、これは座布団パイルバンカーと言った方がいいかもしれない。涙目で顔を真っ赤にしながら真堂香が武智の口を封じようと座布団を縦にして、これ以上の被害が広がらないようにしようとするが。

「……上級様だ」
「上級者様がいらっしゃるぞ」
「権野君はアナルマニアであったか」
「あれ、香ちゃんまだ処女なの?」

 などと大生沢茜と結城姉妹が、後輩であるはずの真堂香を拝み始める始末である。ちなみに最後の一言は牧村の発言だ。

「ど、どどどど、どーするんですかぁ、どーしてくれるんですか先輩!! ていうか何しちゃってくれてるんですかぁもうっ!!」

 ぼふぼふと、座布団攻撃を続けながら真堂は嘆いた。なぜこうなったと。

「や、笑って流せばよかったのに、香ちゃんそれだとさぁ……」

 武智の言葉にはっとして真堂はまわりを見る。周囲の視線が語っている。え、まじだったの? と。真堂は墓穴を掘った挙げ句自らダイブしてしまったことに気づいてしまう。

「う、ううう、先輩方、お墓までちゃんと持って行ってくださいね……絶対ですよ」

 と、再びちびちびとかる~あみるくを飲み出した。

「まあ、でもアレです。どうせ先輩方もそのうちお尻に指の一本や二本挿れられながら、アソコ舐められて、イっちゃうぐらい朝飯前になりますよ」
「あ~、そうね、あれヤやられちゃうと、気持がいいのもそうなんだけど雰囲気でるのよね」
「あ、わかります、牧村先輩。これからえっちやるぞーって感じになりますよね」

 アルコールの侵食度のせいなのか、ぶっちゃけてしまったしまったせいなのか、牧村と真堂という経験者組の下ネタ開放度が限界突破中である。そのわかっているヤツ同士の会話内容に、大生沢、結城姉妹の経験あんまりないよ勢は、自らの軍の劣勢を肌で感じるのであった。

「ああ、佳奈美先輩に挿れる前に大体、一・二回は潮噴かすんだけどそーいう感じだったのね、まあ前戯っていうしなー、わはは」

 高校一年生と二年生の女子が語り合う内容では確かに無いのであるが、まあ、せっかく興が乗った話を止めることもあるまいと武智は話を膨らませる。

「や、……やっぱさ!!」

 大生沢茜が少し乗り出し気味に声をだす。
 納得したような、自分の中のわだかまりが一つ解決できたような表情で。

「やっぱり、みんな、ちゃんとイってるんだよな? 気持ちがいいえっち、してるんだよな?」
「ああ、そうね、んじゃ話もどそうか、大生沢。なんで男が悪いかってやつ。ぶっちゃけて言えばさ、時間なんだよ。時間。スタミナって言ってもいいな」

 この話題は大生沢だけで無く結城姉妹も興味津々らしく、素直に武智の言葉に耳を傾けている。

「多分さ、大生沢の彼氏ちゃんとのエッチ時間って長くても二時間足らずがいいとこでしょ、お互い出して終わりか、どっちかがイって終わり」

 武智の指摘に大生沢茜はきょとんとしながら口を開ける。

「あってるけど。な、なんでわかるのさ」
「まあ、あれだ。俺も最初はそうだったというか、まあ俺の童貞は佳奈美先輩に奪われた訳なんだが――」

 ふんふん、と一同頷く。いつの間にか牧村と真堂まで話に入ってきた。テーブルには程よく開けられた酒缶が数本あり、それなりに皆酔いが回ってきているのであろう。

「本当の意味で俺が佳奈美先輩をイかせられたのはその日のセックスの三回目で、休憩挟みながら大体四時間くらい経っていた頃だったな」
「ほ、本当の意味って?」

 結城藤子が質問を挟む。

「おう、ほらAVとかでさ、腰ががくんがくん震えながらお漏らしみたいになるヤツあるじゃん? あんな感じ。先輩いわく、ヒロ君なかなかスジがいいね☆、だそうだ」

 武智のその言葉に牧村真樹と真堂香の股間がきゅっと、人知れず締まり、二人の口元からほぅとため息が漏れる。ちなみ神田佳奈美にそう言われながらチンコの裏筋を撫でられたという一言に、一同が飲み物を吹き出し、咳き込む。曰くその様子が容易に想像出来たということらしい。

「そうだねぇ、何回か軽くイった後に、凄いのが来るのは間違いないよ、茜。気分がのって、体の準備が整って、ようやくって感じでさぁ」
「男の人には悪いですけど、そこまでしてもらえると満足できますね、はい」
「わはは、まあ割と重労働だけど、そこは愛とか欲だな。エロい子には頑張れるのが男ってもんだ」

 そんな彼らの言葉に、人知れずごくん、と喉元を慣らしたのは、誰だったのであろうか。さらに話題は弾み、テーブルの上に人知れず酒缶が増えていく。

「大生沢の彼氏は年下なんだろ? あ、結城達もだっけか? スタミナと経験値はお互いじっくり煮詰めた方がいいぜ、セックスが嫌になったら元も子もないからな。エロく誘って男が求めてって感じで段々深みにだな……」

 そんな話をしている武智をじっとりと値踏みするような視線がまとわりつく。視線の元は大生沢茜と結城姉妹であるが、

「そういえば武智って、運動部じゃないのに割とガタイいいよね、何かやってるの?」

 ふと、何か気づいたようにぽつりと漏した。

「うんにゃ、特に筋トレとかはしてないが、見てもらえば解るが撮影用のカメラとか専用機だからくっそ重いんだよ。他にも機材によっちゃ20kg以上あるものもあるからなー。設置設営してればいやでも筋肉は付いちゃう感じだな」

 と武智はぺろん、と自分のTシャツをまくり上げる。
 そこには同世代の少年とは一線を画す鍛え上げられた体がそこにあった。

「うっわ、これ幸いに脱がないでよ光博。セクハラセクハラー」

 と牧村がちゃちゃを入れるが、大生沢と結城姉妹の視線は武智の体をじっくりと凝視していた。結城姉妹はすごーい、とか、われてるーとか興味本位が先立っていたが、大生沢茜の視線は少し違っていた。

 大生沢茜は、頭の中で自分の彼氏の体と比べてしまっていた。武智光博のがっちりとした胸板、ぼこぼこと硬く割れ始めている腹筋、意外に野太い腕と、ごつごつした指。武智の体格は自分の彼氏とは正反対である。

 大生沢は別に今の彼氏は嫌いでは無い。むしろ筋肉第一主義の脳筋系体育会男子は好みでは無い方である。大生沢茜の彼氏は、塔田巧とうだたくみという一つ下の学年の一年生である。彼は文芸部に所属し、趣味が読書。大生沢とは接点が全くない様に思えるが、実は家が近く、二人は幼馴染みであり、家族ぐるみの付き合いがあり、そして牧村真樹と異なり文武両道を地でいく大生沢茜は、塔田巧の本校入学までの家庭教師でもあった。

 二人きりでいる時間と異性としての思春期がもたらす心変化は顕著になり、二人が幼馴染みの関係を越えるのはそれほど難しい事では無かった。中学時代から今まで、表向きは同級生に男女扱い大生沢茜にとって、おねぇちゃん、と顔を赤らめながら好意を伝えてくる巧にきゅんと来てしまったのである。

 同じ高校に入学して、通うようになり二人の関係はそれなりに幸せなのだろう。

 ――だが、奇しくもだ。

 大生沢茜の体は、一足先に性的に熟してしまったのだ。
 これが彼女にとって不幸である事なのかどうなのかは解らない。

 ――だが

 大生沢茜は考えてしまう。
 考えたくなくても想像してしまう。
 体の何処かから発生しているなんともいえないむず痒い何かが。
 一度擦ればゾクゾクとしてしまうような何かが。

 牧村真樹というこんな身近な友人が。
 真堂香という年下の後輩までが。

 自分が知らない快感を知っているという事実。そして目の前でやいのやいのと猥談をしている状況でなければ。アルコール成分が脳を冒している状況で無ければ。

 そう。よりにもよって、あの神田佳奈美を何回も。
 何回も何回も何回も。

 イかしている男の裸なんかを見なければ。
 きっと、今まで挙げた中の要素でどれか一つでも欠けてさえいれば。

 大生沢茜という健康優良少女の頭の中に、こんな考えは浮かばなかったであろう。

「わはは、エロ女どもよ、とくとみるがよい」

 Tシャツをばばっと脱ぎ捨てた武智の言葉と共に、わーだの、ぎゃーだの、きゃーだの周囲が騒ぎ出す。大生沢茜はその騒ぎに乗っているように見せかけて、

「きゃはは、やーだー」

 とかいいながら、
 アルコールが入って気持ちよくなったその脳内で、
 あの無骨な指でアソコをかき回されたらとか、
 あの逞しい腕でぎゅっと抱きかかえられたら、
 あの重いカメラを持つ足腰で一晩中突かれ続けたらとか、
 イってもイっても許してもらえなかったりとか、

 そんな楽しい妄想を繰り広げることは、きっときっと無かったであろう。

 大生沢茜はなんだか知らないが気分がよい。
 答えがわかったからなのか。
 それとも、心の中でIFの状況を繰り返し、満足したからなのか。

 何気なく机の下で閉じられていたふとももが少しだけ無意識に開かれてしまう。武智光博という強烈なオスに対して、大生沢茜は体も心も緩めてしまう。この緩みは二度と戻らず、ただ開いていくだけとも知らずに。一度その中に差し入れられてしまえば、ぐずぐずのぐちゃぐちゃに蕩けた何かが溢れてしまうのに。

 だが仕方ない。大生沢茜の体は熟してしまったのだ。遅かれ速かれ、この様な葛藤はどんな少女にも訪れる。じくじくと彼女のTシャツの奥底で、少しだけしっとりと硬さを帯びつつある乳首の感覚が心地良く大生沢茜の背中を押していく。

 ただ一つの事実として。今夜から大生沢茜は武智光博を目で追うようになった。
 と今は記しておこう。




「んで? 結城ちゃん達の相談事はなんなん?」

 大生沢茜が知りたいことは大体話しただろうと、武智は並んで座る結城姉妹に話を振る。彼女らは赤い顔でお互いに顔を合わせると、ん~、と唸って沈黙する。

「とーこー? これだけ私達ぶっちゃけちゃったし今更秘密ってのは無しよ?」
「おいおい真樹、ちょっとおっさん入ってるぜ、ぶはは」

 牧村が飲み屋の上司見たいなテンションで結城藤子に絡む。

「いやー、その」
「引かないで欲しいんだけどぉ」

 二人の様子を見るとどうやら秘密というわけではないようである。ひとしきりもじもじした後、あのさ、と二人は声を揃えて言った。

「「3Pってどう思う?」」

 結城姉妹が落としたのは爆弾であったのか、それとも他の何かだったのであろうか。和やかな雰囲気が一瞬にして臨戦態勢に変わってしまう。そう、今宵の戦いの峠はまだであったのだ。

「マルチプレイですか」
「おい、超級者様がいらっしゃるぞ」
「さんぴー?」
「え、……えっ」

 順に真堂、武智、牧村、大生沢の反応である。

「引かないでっていったのにー」
「ひどいよみんなー」

 皆の反応に被告である結城姉妹が被害者ぶっているが、よくよく考えれば考えるほど異常事態である。

 本質的に、今の時点で結城姉妹の悩み事について理解したのは武智光博ただ一人であった。牧村真樹はいつもの"双子で一緒"の延長線上であるものと思っているし、真堂香については、何かの冗談扱いだ。大生沢茜に至っては3Pという単語自体がまだ映像と繋がってさえいない。

 そんな、空気の中、武智は思う。いや、その質問の意図はわかると。経緯も想像がつくと。だがマンガやゲーム、小説の中でおきるようなことを実行しようと、

 ・・・・・・・・・
 本気で考える人間が、

 ――自分の他にいたのかと、

 そう認識したことで、初めて武智光博は結城藤子・祥子という存在に興味をもった。

「あー、二対一、いや一対二か。いわゆる年下彼氏ちゃんを同時に好きになってしまった分けだ、お前らは」
「あ、わかるー?」
「たけちーさすがー!!」

 やいのやいのと武智の翻訳に従い、周囲が騒ぎ出すが、武智は少し気が重くなった。この双子独特の感性とも言おうか、今の発言が言葉通りの生やさしい物ではないことを本能的に感づいてしまったからであろう。

 武智が気づいてしまったのは、のほほんとした結城姉妹の外見からは想像も付かぬ闇である。彼女達は今まで一緒に生きてきた、一緒の物を食べ、一緒の物を着て、一緒に寝て、一緒に学び、一緒に遊び、一緒に育ち、そして今一緒の男を好きなる。

 別に悪くはない。
 双子の間には良くある事なのだろう。
 似たような話も世間やネットで聞かないことも無い。

 だが、一緒に好きになった男を取り合わず、一緒に付き合う、一緒にセックスするということに抵抗ない双子とはいったいどういった物であろうか。武智は思う。きっと目の前の姉妹はそこまでを求めている。しかも、世の中の常識と言うものを十分鑑みた上で、求めているのだ。こんな席の、こんな空気の中で冗談の様に投げかけたのも、この話題を出す上で、そうするしかないからだろう。

 武智には解る。
 形態は違えど、同じような深度で歪みを持っているから解ってしまう。
 理解してしまう。

 きっとこの双子は、その彼氏とやらを好意という親愛の序列においても肉欲という序列においても、一番上に置いていない。おそらく祥子にとっての一番は藤子だ。藤子にとって一番は祥子だ。二人がお互いに一番にお互いを置いているから、彼氏を共有しようなんて、巫山戯た考えが出てくるのだ。

 きっと、きっと彼女達はこれから、二人で一緒に結婚して、一緒に家族をもって、一緒に死んでいく。そんな可能性が至極高い精神構造。

 もちろん、実際に共有とかそんなえぐい単語は二人の間では出てきてないだろう。彼女らの経験値はそこまで高くない。きっと、純粋な思いで、綺麗か汚いかは人によるであろうが裏表の無い心で質問したに違いない。

 この彼氏一人に結城姉妹二人という関係を他人がどう思うか、それを事前にこうして他人に相談出来たのは、結城姉妹自身が少なからず自分たちの考え方が浮いているということを自覚し、理解しているのだろう。

 つまり、彼女達は怖いのだ。二人が惹かれた男の子に二人とも引かれたくないのだ。片落ちなんてもっての他、どちらかが好かれるくらいなら、揃って嫌われた方がいい。そんな、歪んだ共有癖。

「まあ、難儀だよなぁ。藤子ちゃん、祥子ちゃん……仕方ねぇけど」

 何気に悟ってしまった彼女らの実情を思って口に出したその言葉、武智としては思わず名前呼びしてしまった台詞であったが、結城姉妹は、ぱっと笑顔になる。

「あはは、解ってるじゃんたけちー」
「そうだよ、そうなんだよ。難儀で仕方ないんだよたけちー」

 武智の答えは結城姉妹にとって自らの理解と肯定であった。そりゃそうである。彼女達の思考パターンを解釈できる理解者は少ないであろう。下手をすれば自身の親すらも理解されない可能性もある。彼女達が二人でいる時間が異常に長い理由がコレかも知れない。

 誰とも話が合わない。
 周囲と価値観が通じない。
 なにより、世間一般の普通と、なんだかズレる。

 ――仕方ねぇけど。

 武智がチョイスしたそんな言葉が結城姉妹の心に染みたのだ。そう、結城藤子・祥子達自身でもどうにもならないのだ。割り切れない気持ちなのだ。変態とか異常とか言われても、尚も認められない生き方でお互いの在り方なのだ。そういった意味では、武智の言葉によって結城姉妹の心は幾ばくか救われたのかも知れない。

「うーん、まあ色々話してやりたいことはあるけど、そろそろ香ちゃんが限界そうだなぁ」

 ふと、横を見れば酒缶を揺らしながらうつらうつらしている香がいた。
 牧村と大生沢も昼にはしゃぎすぎた影響か、まぶたが重そうである。

「まあ修学旅行はあと六日あるからな、また明日にでも話そうや」
「あはは、そだね」
「うん、ありがとね」

「ふあー、光博ー、ここで寝てい~い? あたし帰るのだる~い」
「だーめ、今日は朝までしかデコイ設定してないから、おとなしく自室でねとけ、あー……香ちゃんは念のため俺が送っていくか、藤子と祥子、茜たちは問題なさそうだな」

 本気でここで寝かねない牧村のほほをぺちぺちとしながら、武智は真堂に水を飲ませて立たせる。

「藤子と祥子、と、大生沢、いや、もう茜でいいよな? 先生達は宴会続行中だが気をつけて帰れよ、酒臭かったらガムとかアメでごまかしとけ」

「それじゃ、明日は私達の相談にのってね、たけちー」
「期待してるぜたけちー」
「おう、まあそれなりの考えは無くも無いな、ちょっとえげつないけど」

 と、武智が何気なく返した返事に。
 結城姉妹は、くるりと振り返る。

 その、真面目な眼差しに、

「……個別で話すか?」

 と武智は問いかけた。
 結城姉妹は顔を見合わす。
 そんな彼女らに、武智は、

「ほれ、持ってな。ここの部屋鍵のスペアと暗証番号、修学旅行中に話したければ時間指定してくれな、今日は一日目のレポートを先生方に提出しなきゃいかんから無理だけどな」

「わかった」
「ありがと、武智」

 そして、武智はその横で何か言いたそうにしている大生沢茜にも一言

「お前の悩みはまあ、もう解決してると思うが、どーしてもっていうなら、一人で解決できる具体的な方法がある。まあ、人に聞かすものじゃないから興味があれば藤子達と時間調整してくれな?」

「……うん、わかった。ありがとう」

 こうして、修学旅行一日目の夜は更ける。

 牧村真樹は、健やかに就寝し、
 大生沢茜は、妄想に悩まされ、
 結城姉妹は、希望に夢見た一日目。


 そして真堂香は――

 利用時間が終わった個室風呂の中、張られた湯煙の中を蠢く二つの影がある。ちゃぷちゃぷと、波立つお湯の表面の原因は不規則で、決して足し湯のために流れている流水のせいだけは無い。定期的に聞こえる籠もるような小さな声。

「やぁ……、やだぁ、それ、やだぁ……」

 もやもやと揺らめく湯煙の中、真堂香の体がびくん、と震える。彼女は思う。自分は確か女子会にいて、お酒を飲んで、眠くなって、そこからどうしたものだったのかと。そんなぼやけた思考の中、下半身からわき上がる、焦れったい感触に思わず声を出す。

「あっ……んっ……ん……やぁ……♡」

 彼女の体を這い回るざわざわとした感触。

 心地が良いが、焦れったい。
 ぽかぽかと温かいが、体中がむずむずする。
 腰のあたりが熱くて、体が緩んでしまう。

 そんな心地良い瞬間が。

「んふ~ふ~♪ あなるかーくちょー(↑↑)、あなるあいーぶー(↑↑)♪」

 という身も蓋もない、武智の鼻歌によって真堂香の意識が覚醒した。

「先輩……。いったい何をしているんですかね……、いえ、ナニしているんですよね……、はぁ……、もう、色々言いたいことあるんですけど、とりあえず何か言いたいことはありますか?」

 頭の回転が速いのも武智の行動に理解が早いのも彼女ならではの反応であろう。色々とサプライズな何かを期待してた武智は若干しょんぼり気味である。

「全く……私の水着まで着せて何やってるんですか、もう」

 香が着ているのは昼に着ていたスポーティーなセパレートウェア。露出はビキニほどではないものの、しっかりとお腹は見えているし、パレオやフリルなどがない分体のラインはしっかりと出るタイプだ。昼に香が身につけていた水着である。お風呂場に相応しい格好かと言えば疑問が残る。

「いやー、香ちゃん結構疲れていたみたいだからさー、俺の我が侭で女子会にも参加してもらっちゃったし、せっかくだから送り狼ついでにマッサージでもしてあげようかなーって」

 そう言って武智が目配せした先には、ソープランドや大人の風俗でお馴染みのエロマットがででんと設置されていた。ジト目で非難めいた視線で返す香であるが、

「はぁ、どうせダメって言っても、止まらないくせにそういう所先輩って卑怯ですよね」
「わはは、酷いな香ちゃん、俺はこれでも感謝のつもりなのにー」

 そういって、武智は湯船の中から香をひょいと抱き上げると、マットの上に横たえて、あらかじめ洗面器にとかしておいたローションをだばぁ、と香の体に振りかける。

「きゃっ……なんですかこのぬるぬr……ふぁんっ」

 香が抗議をする前に武智の手が香の体を滑る。ぷろぷりとしたお尻に垂らされて割れ目に沿って腰に落ちた生ぬるい何かが、ぬろんと香の背中に広がった。

「せ、せんぱい、これ」

 香は戸惑う。今まで武智との行為中に部分的にローションを使われたことはあったが全身でこんな風にまぶされるのは初めてのことだ。ぬるぬると臀部を揉まれ、股をいやらしくちゅこちゅこ擦られる。それは、香にとってなじみ深い愛撫の筈であった。だが何か決定的な違和感があると、香は感じた。

「はい仰向けね~」

 ごろん、と優しく裏返される。香はマットとローションがつるつる滑って身動きが取れずされるがままだ。

 ぬるん、と、ふとももから胸元まで武智の指が柔らかな香の肌を撫でていく。

「あっ……やぁっ……」

 ぬちり、ぬちゃり、と。武智の生暖かい液体と指で撫でられる度に、香の首から下が蕩けていく。何かが違う原因はスピードである。お湯に溶けたぬるぬるローションのせいで、いつもよりも武智の指が速く動く。それは必然的に瞬間単位の愛撫の範囲、もしくは回数が上がると言うことである。いつもよりも倍のスピードで、倍の範囲で香の体が弄ばれる。

「やだ、先輩、これ、怖い……、ひゃ、……あ……、あっ……あっ……」

 にゅるんとローションにより香の股間に武智の指が滑り込む。彼女嬌声を上げたのは、いつもと違い、武智が無遠慮に彼女のクリトリスを指で引っ掻いたからだろう。

「や、やです、……いやですっ」

 香は拒絶の言葉を挙げた。
 それは、別に武智に乱暴にされたからでも、痛みを感じたからでも無い。
 普通なら痛みを訴える乱暴さだ。
 だがしかし、今は痛みだけゼロで快感だけ数倍である。

「はぁはぁ……やぁ……これ、だめです、だめです、絶対絶対だ……め……ひ♡」

 香は武智に抵抗しようとするがローションで満たされたつるつるのマットに踏ん張りがきかない。その間にも武智はニコニコしながら、彼女の水着に手を突っ込んで香の股間を弄り回す

 武智の手に伝わるぬるぬるの中のコリコリ感、手を広げて四本の指で撫でるように擦ろうと、指を立てて押し込もうと、くりくりと摘まもうと、わしゃわしゃとかき回そうと。

「いい、、いやぁぁあああ、いやあああああああ、…….あっ♡、あっ♡、あぅううう♡」

 香は身動きができない。ただただぬちぬち、ぴちぴちという音と伴う快感の波に香の股間が得体の知れない速度で支配されてしまう。

「せ、せんぱいのばかぁ……こ、こんなの、こんなの絶対ダメになっちゃうやつじゃないですかぁ♡ あぁぁぁぁ……すごいぃぃっ♡」
「いやー、よろこんでくれてなによりだなぁ香ちゃん」

 そう言って武智は香の横にすっと添い寝し彼女の首下に左腕を通し、腕枕をしてやる。だが右手は相変わらず香の股間の中だ。

「よ、喜んでません、喜んでませんけど……あっあっあっ。やぁ♡」

 くっちゃくっちゃくちゃくちゃ、くっちょくっちょくちょくちょ。

 テンポの遅い水音は手首を支点とした愛撫で、速い水音は指先の愛撫だ。香の膣口の入口とクリトリスが武智の五本の指により、乱暴狼藉の限りを受けている音である。

「ほら、香ちゃん、どう? こうやって摘ままれてぐりぐりされるのが好き? それとも剥いた方がいい? お、爪の裏でにゅるにゅるするのがいいの? それともこう? そう、挟まれるのが好きなんだ。よーし。それじゃ指で挟んで皮ごとにゅくにゅくしてあげる」
「せ、せんぱい。イってます、わたし、イってます♡。 あ……あっ、だめ、だめだめ、またイク。あ、それ、やだぁ先輩、きもちいの、すごいの、あ、あ、それぇ♡」

 武智の腕の中で香の体が跳ねる。だがローションマットのせいで香は蛙のように股を開くか、まな板の鯉のように快感に体をくねらせることしか出来ない。

「せ、センパイ、せんぱい、あぁあん。やだぁ。こんなにすぐ気持ちよくなったら、わたし、わたし……ん、ん゛ぃいい♡」

 ぱしゃ、と香の股間で水が弾け、生暖かい飛沫が腿を伝う。

 だが。
 武智の右手は止まらない。
 ローションの摩擦力を利用してちゅっこちゅっこと香の股間を擦り上げる。

「あっ、あっ、あっ♡、すごい、すごぃぃ……せんぱいのばかぁっ!!」

 今度はびゅっという、飛沫音。香の中からひりだした、と表現してもいい下品な快楽の音。

「やぁぁぁっ、見ないでください、ああぁあああんっ♡」

 香の腰がびくんと震える。腰をくねられ、ずれた水着の隙間から、

 びゅーっと。透明な何かが弧を描いて吹き上がる。

「いっく、いくいくいく、いきます……♡ いきますっ♡……もう、」

 不幸にも香の言葉は終わらなかった。

「もう、イってますからぁ!! ――やだぁ、やだぁせんぱい。もう弄らないでぇっ」

 びゅうびゅう股間から尿か潮なのかわからない何かを香が出しながら、武智の右手はまだ彼女のクリトリスを嬲っていた。

 大股開きで、腰を浮かせ、ふりふりと快感に身を震わせながら、ぴゅぴゅいやらしい汁をまき散らして尚、武智の親指と中指と、人差し指が、むき出しの香のクリを摘まみ上げる。

「大丈夫、香ちゃん、まだいける、まだいけるから」

 真堂香は、その瞬間その武智の言葉に恐怖を覚え、そして、察した。先ほどから自分の右太ももに押しつけられている武智の肉棒。硬く太い、無骨な彼の剛直が、既に生臭い汚濁に塗れている。玩具の様に自分をイかせている最中になんどイったのかは解らない。

 ――これは病気と言ってもいい。

 唐突に真堂香は観覧車の中での武智の言葉を思い出す。
 そして察したのだ。

「はぁ、権野先輩も手がかかるけど武智先輩も相当ですね、っていうか馬鹿じゃないですか……んっ♡」
「……あはは、やっぱわかる? 香ちゃん?」

 そう言って真堂香は股間で尚もこりこりと自分のクリトリスを擦り挙げる彼の右手を止めもせずに、ただ、枕代わりにしている彼の腕をぺろん、と舐め取る。

「はぁはぁ、お、大生沢先輩と結城先輩の話を聞いて、いても立ってもいられなくなっちゃったんですか? ……んっ先輩達が欲しくなっちゃったんですか? 先輩達を取ってしまいたくなったんですか? ほろ酔いの私に悪戯して、あっあっあっ……♡ 玩具代わりに弄ばないと、耐えられないくらいに、んぁっ♡」

 強気に武智に語りかけながらも、右手が動く度に快楽に負けてしまう香。ふと気づけば香はローションはもちろん涙や涎、そして下半身は様々な体液でぐちゃぐちゃ、そして息も絶え絶えである。

「……ごめん、香ちゃん。俺やり過ぎた。今日はやめよっか」

 そんな武智を香は出来の悪い弟を見るような目で見ながら、

「おほぅ……か、香ちゃん?」

 彼の亀頭を指で優しくこね始める。

「ほんと、先輩は馬鹿ですね……」

 そういった彼女の表情は湯気でよく見えたものでは無かったが、

「いまさら過ぎませんか? わたし、ちょっと盛り上がってるんですけど」

 と。

「い、いいの?」

 武智の体が震える。

「玩具みたいにしちゃうよ、いいの?」

 いいのかと。モノのように、欲望の赴くままに犯しても、嬲ってもいいのかと。

「いいんですよ、先輩。どーせ前はお預けですし」

 真堂香は武智光博というを男の性根を痛いほど理解している。そう、こんな状況でも武智光博という男は真堂香の処女を奪わない。なぜなら、そうしてしまったら、彼女が人のモノでは無くなってしまうから。権野忠敏の彼女として成立しないから。

 そして、この状況に真堂香の心はゾクゾクしていた。
 それもそのはず。
 今までずっと指と口だった。
 玩具を使われたこともあったけど、何か違うのだ。

 バイブでほじくられるのもいいけどやっぱり物足りないのだ。
 そう、この二ヶ月間、散々バイブやローターで慣らされてきた香の尻は。
 散々武智の指をくわえ込んできた彼女の尻穴は。
 イかされ、イきあうことを望んでいた。
 待ち焦がれていたと言っていい。
 受け入れ準備はとっくに整っていたのだ。

 そうなればあとはきっかけだけである。

 たっぷりのローション。
 たっぷりの唾液。
 そして、武智の一物に付いたたっぷりの精液によって。

 今。

 マットに俯せになった香の尻穴に、武智の一物があてがわれる。コンドームの上にたっぷりとローションを塗り込んだ彼のそそりたった肉棒が

「あぅ、……うぅぅ♡」

 今、ぬるり、と彼女の腸内に入り込む。

「か、香ちゃん。はは、尻の中あったけぇ、こいつは凄いぞ」
「んぁぁぁ、だめぇ、だめぇ♡ せんぱぁい、大きいです。大きすぎます、ふぁぁん♡」

 みちみちとぬりぬりと、武智の肉棒が香の尻の筋肉を広げて裂いて、そしてなじませていく。

「ふぁ、あぁっ、やぁ、ふ、ふとい、すごぃぃ、いやぁ、何かへんです、あ、ふぁあああ♡」

 そして、

 ぶぽぽっ

 と、聞くに堪えない下品な音が響いた。いやぁ、とか細く香の声がするが、抵抗はない。よしんば抵抗があったとしても無視されたであろうが。ぐいっと腰を引き上げられ、異物を入れられた香の菊門から淫らな空気がぷぴゅっと押し出される。

「はぅううう♡」

 その香の声は恥ずかしさからなのか、それとも気持ちよさからなのか。
 だが、その感情・間隔を香が味わう間もなく、武智の注挿運動が始まってしまう。

 ぶじゅる、
 ぶぽぽ、

「っはー……っ、はぁーーーーっ♡」

 ぶじゅ
 ぶぽ

 お腹の中を、引っ張られ、押し出され。
 バイブと違って芯が硬くて、まわりが柔らかい故にぴったりとふぃっとする感覚が。

 じゅ
 じゅ

「はっ……あっ……ん……んっ♡」

 じゅ
 じゅっ

 香の体の箍と意識の箍をどんどん外していく。
 挿し入れられる度に出る涙と涎が、引き出される度に潤う尻穴と股間が。

 じゅっ
 ……じゅぽっ

「あ゛ぁ~♡ きもちー♡ せんぱぃ、きもちぃー♡ あっ♡ あっ♡ あっ……♡」

 じゅぽっ
 じゅぽっ

 香の腰がわずかに動く。
 擦って欲しい所に当たるようにくいくいとねだる。
 武智は腰を動かす。ぎゅうぎゅう根元を扱き上げる香の尻穴から正解を受け取る。

 じゅっぽじゅっぽ、じゅっぽじゅっぽと、卑猥で下品で、変態的な共同作業が完成してしまう。恋心は無いのに、心が通じて、恋人でも無いのに、体が通じる歪んだコミュニケーション。

 頭の中は快楽と興奮でぐちゃぐちゃなのに腰の動きだけがお互いスムーズにこなしてしまう。ぱんぱんというリズミカルなベースにくちゃくちゃと水音が彩りを添える。

「か、香ちゃんのお尻、すっごい締まるよっ、きゅっとしまってる。擦りがいがあるよっ」
「あ♡ は♡ きもち、きもちぃ……。せんぱい、きもちいよぅ、きもちぃよぅ、あはぁ♡」

 ぬっぽぬっぽ、くっちゃくっちゃと、二人の分泌物が接合地点にまみれて、お互いの動きでまぶされる。潤滑油を得た二人の行為は、よりエスカレートしていく。香はマットに押しつけられたままであるが、膝を立てて犬のように下品に腰を振っている。武智はがに股で真堂の上にまたがりぬっぽぬっぽと、緩んだ香の尻穴をまるでオナホールのような扱いで存分に肉棒を突き刺している。

「ふぁぁぁぁ、すごぃぃ♡ それ、擦れて、だめぇ♡ こんなのダメになります、んあああ♡ あったかくて、硬くて、んぁぁぁ♡ こ、小刻みだめぇ♡」
「おっ、ほっ、搾り取られるっ。すげぇな香ちゃん。出しても出しても根元からきゅうきゅう締めてくるんだから、いつからこんなエロいテク身につけたん?」
「うぁぁ……また、おなか熱いの、ふぁぁ、すごくでてます。先輩が、せんぱいがわたしに教え込んだんじゃないですかぁ、あっ……、あっあっ♡ あっあっ♡ やだぁ、せんぱぁい、もうかたくしないでぇ、ゆるしてぇ、あぁん♡ これじゃ止まりません、もっとぉ、もっと乱暴にしていいですからぁ、香のお尻のかゆいところこすってくださぁい、――あぁんっ♡」

 しゃぁぁぁ、と、香の股間から潮が吹き出す。いや尿かも知れない。そんな事はお構いなしに武智はぱんぱんと腰を打ち付ける。香の事など気にもしない、自分本位なピストンだ。

「あは……♡ あ、これダメになっちゃうです。おかしくなっちゃうやつです♡ ふあ♡ すごいのきちゃいます、わたしイっちゃう。いっぱいイっちゃう……、ああぁぁぁだめぇええええっ――♡」

 じゅぱん、じゅぱん、と武智の腰が香に打ち付ける度に、股間と尻穴がぎゅうぎゅうしまり。

「あ…だめ…だめだめだめです。先輩、すごいの、わたしまたイってるの。先輩の太いのでまたいってるの。いやいやぁ、だめぇ、おねがい先輩、わたしもう何度ももうイってるのぉ、だめなのぉ♡ ……おねがいだから、ふぁぁ、せんぱい。おねがい、もうこしゅこしゅしないでぇ、あぁん、先輩また出したぁ。ふといのだめぇ♡ すきぃ♡」

 絶頂中にまた絶頂。そしてその最中に延々と香はイかされる、気持ちよくて尻穴を締めれば、また太くなった武智の肉棒に擦られて、イかされて、出されて、そして擦られて。そんなループの中、体を痙攣させながら香は震える声で懇願した。

「いく…いっちゃう。またいっちゃう。せんぱい。抜いて、わたしダメ、もうダメな子になっちゃったの。お尻でイっちゃうダメな子です。先輩のおちんちんが太い内に、お願い抜いてぇっ♡」

 香の言葉に従い、ゆっくりと、ぬっぽりと、武智は腰を引いた。

「あぅううううう♡ すきぃ、これすきぃ……♡」

 ずるりと、武智の肉棒が抜かれる最中に香は、今まで感じたことがない開放感の中、盛大な絶頂を味わい、そして心と体にそれを記憶する。この先何度でも味わえるように、この先、これ以上の快楽を味わえるように。

「ふぁぁ。ぬかれるの、きもちぃです あ、ん♡」

 そんな香の満足げな言葉に。

「そう? こんな感じ?」

 と、ずぷりと遠慮無く武智は腰を差し込む。
 ひぐ、と香は息を飲むが、その直後からずるずるとゆっくり肉棒を抜かれる感触に陶酔した声を上げてしまう。

「ほぉら」

 ずるずると擦られ、にゅぽんと抜かれる

「やぁぁぁ……♡」

 にゅぽんと入れられ、ずるずると擦られる。

「ほうら」

 ずるずると、擦られ、にゅぽんと抜かれる。

「あはぁ……♡」

 それはマットの上で行われる卑猥な追いかけっこ。鬼に追われてるくせに挿入されるのを待つという逃げ役と鬼の茶番劇。最終的に、二人は向かい合う様にして、また合体する。とろんととけていた香の瞳にまた生気が戻る。

「せ、先輩、あの、わたし……また♡ んんっ♡ ふあ♡」

 香への返答として武智は彼女の唇へ舌を差し込んだ。
 さあ、こんどは仰向けだ。乳首も舐められるし、前だって一緒にいじれるぞと。
 香の耳元で呟く。

「せんぱい、あれだけえっちなことしたのに、キスが今なんて、私達、すごい変態ですよね……ちゅ♡」
「わはは、ちゅーくらいならいつでもしてやるぞぅ?」
「そーいう意味じゃ無いんですけど、あ、それじゃ舌絡めながらイってみたいです、もちろん挿れながら♡」

 意外にも香はまだまだ余裕らしい。

「ちょっとまった。香ちゃん妙にえっちくね? ちょっと休憩しない?」

 武智がえっちくね、と言ったその表現は今や正しくない。そう、ちょっと前の真堂香であれば、今までの濃厚なプレイはギブアップしてもおかしくない行為であった。つまりである。端的に言えば今の香は以前の香とは異なる。いいや、その表現もやはり、正しくないものだ。

 言うなれば、真堂香との関係は今宵のアナルセックスを経て完了した。この行為を持ってして、歪み捻れて、360度回って元のところに落ち着いてしまった。今まで手遊び、口遊びだった行為を越えて、擬似的なセックスまでしてまったこの瞬間から。今の真堂香は、過去の真堂香と違うものになってしまったと言っていいだろう。

 だがしかし、違うものといっても、彼女の中の過去と未来は決して断然しそれぞれが独立しているものでは決して無い。

 彼女、真堂香は――

 真面目で、面倒見が良くて、健康的で、野球部のマネージャーで、権野忠敏の彼女で、ちょっとつっけんどんで、あまり他人を寄せ付けないけど。武智の指や玩具で何度も体を開発されて、一度ひとたびクリを弄ばれればすぐ漏してしまい、セフレとのアナルセックスで尻穴からチンコを抜かれる時が一番感じる事など、普段はおくびにも出さない高校一年生の可愛らしい後輩女子である。

 変わってしまったけど、決して無くなったわけでは無い。
 湯煙の中、行為は続く。

 仰向けになって、舌が絡まり、脚が絡まる。時折、ぴーんと、足先まで伸びて、可愛らしい声と共に体が震えたり、上にまたがって下品に腰を振ったり、おしっこポーズで抱えられて、アナルに入れられたまま、乳首やクリトリスを捻られて色々とお漏らしをしてしまうけれど。

「はぁん♡」

 これからの彼女にとっては、それも普通の事なのだ。
 幸いにも、この今夜の貸し切り風呂での二人の行為に気づいたものはいなかった。

 まどろみと快楽の中、真堂香は思う。
 大生沢先輩と結城先輩達も、きっと私と同じになるんだろうなぁと。

 誰も気づくことなく、武智の右手の指輪が光るだけである。
 修学旅行はまだ初日。
 浮き世離れした環境はまだ、あと五日も続くのだ。

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ぬける  
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