歪曲コミュニケーション

第5話 真堂香①


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 今年のゴールデン・ウィークの谷間である4月30日から5月2日は西秋中私立高等学校には指定生徒登校日という特殊なイベントが存在する。基本的に一般生とは休みなので、大型連休を利用し、レジャーに繰り出す生徒も多い。4月に出来たクラスのグループ分けが明確化する期間とも言える。

 では、そんな中、わざわざ学校に来る、指定生徒とは誰か。

 ――当然ながら武智光博その人である。

 というのも、5月のゴールデンウィークが明けたら新入生の部活勧誘解禁である。ウイーク明けのその日に使う紹介イベントに利用するムービーや資料、パンフレットなどを取り仕切らなくてはならないのだ。

 もちろん、武智が過去1年間西へ東へ撮り溜めしていた。部活動の実地記録を編集したものである。武智が入学した時、友人の頼みで野球部のムービーを作って公開のが発端なのであるのだが、それがプロ顔負けの出来栄えで各部活から不公平だとのブーイングの嵐。そこで理事長の鶴の一声である。

「おうミツ、お前全部作れ、やれるだろ? 何、これだけ文句をたれたんだ、協力は惜しまないよな? お前ら」

 ――鬼の一声だったかもしれない。

 というわけで、この期間目出度く、クレームを入れた部活に所属している生徒+光博+野球部が指定生徒、と相成ってしまったわけだ。

 といってもこの学校の学生は優秀かつノリがよい。やるならやるで徹底的に盛り上がり、谷間合宿なるイベントに変えてしまった。プチ文化祭みたいなものである。

 そんなわけで武智は部室で徹夜という学生の癖に、ブラック企業のサラリーマンの様な体験を先取りするがごとく、その作業量に忙殺されていた。
 1年間かけて撮った素材を、春休み中に編集し、4月の頭に各部に配り、そこから細かな修正のオンパレードである。この谷間合宿はそのこまかな調整を修正しするのが武智の仕事である。

「サッカー部だ!! 光博、あと3分伸ばせね?」
「将棋部です、着物のレンタル許可下りたんでこの部分撮り直してきました!! 差し替えお願いします!!」
「光博氏―、僕ら二次元研究会の新しいMADできたでござるぷふぉぉ」

 と言った要求がひっきりなしに来るのだ。

「おっけーあとで取りにこさせろ今詰まってるから明日渡す時間ずれねぇから先に原稿合わせしておけ、おい佐藤氏映像編集の心得あるならそこへ直れこき使ってやる報酬は例の虹画像な?」

 という塩梅である。
 これが捌けたら、真樹か佳奈美先輩とくんづほぐれつかなーと大きく伸びをすると、野球部が熱心に練習をしている光景が武智の目に入る。彼らについては実は全て編集が終わっている。あとは原稿合わせをするだけなので、練習をしているのであろう。というか野球部に関して言えば、最優先でとりかかったのでスケジュールには関係ないのである。

 そして、野球部の分を仕上げている最中に武智はひとつ気づいたことがある。野球部には既に新入生のマネージャーが入部しているのだ。既に希望が決まっていれば4月から入部は許可される。というか運動部は大抵そんな感じである。ただマネージャーの入部というのは珍しかった。なにやら彼女は中学校でも3年間野球部のマネージャーだったらしく、高校でもマネージャーを続けることが希望らしい。

 彼女の名は真堂香。長い黒髪に大人しめの顔立ち、スタイルは今後に期待だが、腰のくびれは実に清楚なエロさ醸し出している。性格は冷めているというかなんというかメガネのせいか、いささか淡白な感じではあるものの、物事はハッキリ言うし、マネージャーの仕事はきっちりこなす。練習の終わりにお疲れ様でしたと、少し照れたような笑顔が堪らないらしい。野球部では早くも抜け駆け禁止の不戦協定が結ばれたとそうだ。

 なんで部外者の光博がこんな事をしっているかというと、当然情報源がいるからだ。

 マウンドに立つ男、その名を権野忠俊。武智の親友にして、同じクラス。そして2年にして野球部不動のエース。体力と筋肉だけは誰にも負けない運動バカ。そして大一番にめっぽう弱く、豆腐メンタルで胃腸が弱い。


 そんな権野忠俊がこの谷間合宿の中、武智の仲介を経て真堂香に告白し、同時に緊張でゲロを彼女の頭からぶっかけ、そして何故かOKを貰ってゴールデン・ウィーク明けから付き合いだす。

 そんな奇妙な馴れ初めから、彼らと光博の物語は始まったのである。

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