裏切将校アーヒム=レデルラードの受難

第一話 警報《アラート》レベル2


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 魔導帝国の奴らは戦場以外でもゴリラみたいな魔導アーマーを脱がないらしい。警報で作業を中断する俺の二回りほどもデカい奴に、俺は遅ればせながら命乞いをしてみる。

「なー、やめようよ。それ、絶対俺ちゃん死んじゃう奴だよぉ」

 なまじ言葉が共通なだけ、『致命的敵性因子に対する、脳への直接魔導精神波による外科的耐久実験』という実験名が耳に入ったとき、目の前にある器具がどのように使用されるのかが想像ついてしまった。

「絶対それ、あれじゃん。どうみても突っ込んでグリグリかき混ぜちゃう奴じゃん、生きながら逝っちゃうやつじゃん?」
「フン、エラブアナグライハ、キボウヲキイテヤルガ?」

 発声器を通してるからなのか、甲高い機械的な声で返事が来た。魔導帝国なのに機械的とはこれはいかに、とか思っている場合じゃあない。正直どの穴も勘弁願いたいんだが。できれば穴を抉る方向からは離れて欲しいと思う。というか選択枝ないじゃん、目か鼻か口か耳でしょ。どれも致命的じゃん。

 今俺の前にいる戦場の悪魔が機械帝国軍に対して一騎当千、理不尽暴力、機械帝国の綿密な戦略戦術を個体戦力で覆す超兵器様だ。どうやら屋内でもアーマー状態なのは、魔導精神波に侵されて死なない俺を最大限に警戒しているらしい。いや警戒しすぎでしょ。十を超える機関銃の集中射撃の中平然と歩いてきて、魔導パンチで直径五メートルの陥没を作り出す化け物だぞ。俺単独でどうにかなるもんじゃない。

 だがしかし、分かったこともいくつかある。こいつらの技術は凄い。おそらく魔導なんちゃらという理論のせいだろうが、おそらく俺らよりも数段進んでいることをやっている。実験器具や実験装置を扱うその様子をみれば分かる。戦闘用にも使えるのにこうした細かい作業も可能なのは驚きだ。あのキーボードを打つ手の部分のなんとなめらかな関節可動。突き抜けた耐久を持つくせに、この汎用性と細やかさは道理に合わない。この手の色んな何かを無視した不思議要素は機械帝国にはない技術だ。顔つきも表情もわからない不可思議外骨格にどんな骨太ゴリラが入っているのかは不明だが、仮にパワーアシストがあっても相当の筋肉量が無いと操作は難しいだろう。。

 目の前で機材のテストなのか上半身を模した鉄のマネキンにぎゅるぎゅると器具が埋め込まれていく。両目、両耳、鼻の穴、口と、もれなく穴だらけになったマネキンを俺に見せて、

「ドコデモイイゾ?」

 とリクエストを聞いてきた。

「いーやいやいや、穴を空けてかき混ぜる前提をまずどこかに置いて下さいお願いします。なんでもしますから、ほんと、お願いしますよぉ……、ほら警報なってるじゃないですかー、何かあったんじゃないんすかー?」
「ソーカソーカ、ゼンブイットクカー」

 るんるん気分で器具を追加するのをやめて欲しい、本当にやめて欲しい。ああ、今となってはこの体質が憎い。前線じゃ精神波に影響されないから指揮官に出世できたけど、こうなると話は別だ。情報もってますよアピールも通じない。

 考えてみればそうだ。
 
 俺のことを致命的敵性因子とはよくいったものだと思う。魔導精神波の影響らしい影響を受けていない俺は奴らにとっての猛毒みたいなものだろう。ただでさえここ数十年は魔導帝国は押され気味で、今回大河を越えて一時的とはいえ、機械帝国側に橋頭堡を作られたのだ。ここから更に被害を受ける可能性がある猛毒に対して、どれくらいの濃度の薬を投与すればいいかどうかなんてことは、第一に優先されることだ。

俺みたいな奴らがどんどん出てきたらきっと魔導帝国は遠からず滅ぶ。魔導帝国の理不尽兵器は、多分数がそう多くない。目撃例が少なすぎる。きっと大量展開か大量生産できない理由がどこかにあるのだ。だが少数でもそこからでる精神波の出力は強力で、それで少数でも制圧使用をされてしまうと、俺ら数が命の機械帝国とは悉く相性が悪いのだ。一定距離を保っていないとこちらが正気を保てない。面で制圧したいのだが、二体も鉄板ゴリラが現れればこちらが面で押し込まれて制圧されかけてしまう。このバランスが崩れるとどうなるか。それこそ、ざるの隙間から流れ出る水のように、機械帝国は魔導帝国へと浸透していくだろう。

「はぁ……あと、数ヶ月で恩給もらって娘に会えたのになぁ……」
「カゾクカ……」

 アーマー野郎の動きが止まる。だがその反応がかえって俺の覚悟と納得感を満たしてしまう。家族がいるのはこいつらも一緒だ。こちらだけ持ち出すのはフェアじゃ無い。

「いや済まなかった。ちょっと軍属らしくなかったなー。お互い様だ、やってくれ」

 警報は相変わらず鳴り響いている。緊急事態なのはこいつらなのだ。今は戦争中。人殺しや拷問が仕事なのはお互い様だ。こんな種類の理不尽なら掃いて捨てるほど転がっている。やったらやり返されるし、やられたらやり返す。そんな歴史がずうっと続いて、もはや理由も分からず相手を憎んでいるのはお互い様なのだ。戦場で理不尽光線になぎ払われて焦げて死ぬのも、脳に怪しげな力ぶち込まれて死んでも"戦死"の一つ。精々のたうち回って相手のトラウマにでもなってやろう。

「スマンナ……」

 変わらない甲高い音声にどんな気持ちが込められていたのかは分からないが、最後に軍人らしく覚悟を決めることはできた、アーマー野郎の合図と共に拘束器具ががきょんと軋みを上げて、完全に固定される。強制的に体が直立し、首上が固定され、瞼がこじ開けられて、

 うにょうにょと熱せられた鉄線の束が眼前に近づき、
 世界が赤く滲み始めたと同時にさきほどよりも数段上の警報が鳴り響いた。
 
『警報!!《アラート》:レベル2』

 けたたましい放送が再び耳を打つ。今まで鳴り響いていた警報とは比べものにならないくらいに深刻度が感じられる警報だ。その証拠に目の前のアーマー野郎の動作が止まっている。そして、視界が赤いのは警告灯のせいだと気づいたとき、俺はアーマー野郎の拳を腹に受けて気絶した。

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ぬける  
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