マスター☆ロッド げいんざあげいん

魔王トールとリヴェリタさん①


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 対魔王における人類の橋頭堡。今日のバージ砦は一際騒がしかった。もはや砦というよりかは城塞と表現した方が正しいくらいに発展したその城門出口で、一人と十一人の修道女が並び、兵士達の見送りを受けていた。

「それでは皆様、私たちは今より発ちます。帰還の折はどうぞよしなに」

 隊の長リヴェリタ=アーカスがそう発言し、一礼すると兵士達はこぞって敬礼を返す。兵士達の視線には、彼女達に対する哀しみと憐憫が窺える。バージ砦改めバージ城塞は人類の魔王に対する橋頭堡であり、最前線基地であることは先ほども含めて何回も述べていることであるが、その実情はぶっちゃけはっちゃけ、男だらけの野郎の園である。同性愛者を除きむっさいおっさんが集団でたむろする空間なのだ。色気も華もあったものではない。そんな野郎の楽園に、短い期間とはいえ十二人もかわいい女の子がやってきたのだ。彼女達が兵士達に愛されない訳が無かった。ちなみにリアラとアキが来たときも彼らの熱狂は半端ではなかった。

 元気いっぱいの快活少女。二つのお下げが特徴のアーシア。
 常に正十字を手放さない最年少でマスコット的存在のリリアン。
 清楚で慈愛に溢れたまるで修道女の鏡のようなシャーロット。
 寡黙でつっけんどんだが、兵士達への差し入れをいつも忘れないサリエラ。
 修道女にするのがもったいないぐらいのスタイルで人気だったマリー。
 男勝りで兵士達と腕相撲など勤しんでいたが、割と素がが可愛いラコ。
 前髪が長くて素顔が見えにくいが、とても美人なクラネス。
 隊長大好きを決して隠さない百合娘のエレーティア。
 料理がとても上手く、厨房の花であったキャロル。
 面倒見が良く水仕事も進んで引き受ける世話焼きのシーラ。
 副隊長であり、参謀でもある。頭がきれる眼鏡娘、セシリア。
 そして、隊長でありヴィンランドル王国の元貴族。リヴェリタ=アーカス

 全員年頃且つ、それぞれ愛らしい個性があり、美人揃いのこの女の子達が、よりにもよってあの色欲魔王の元へ向かわなくてはいけないのだ。兵士達一同があんな可憐でいい娘達が、何故このような仕打ちに遭わねばならないのかと嘆き、教会の情のかけらも無い命令を非難し、あと少しだけそのえっちな様子が空に浮かぶ不思議な映像で配信されないかなとか思っちゃったりもしていた。そこらは兵士達も男である。しようがない。
 だが、少女達は――

「――抜刀」

 先頭を歩くリヴェリタが黄金の剣を引き抜き、掲げる。

「――抜刀!!!!!!!!!!!」

 隊員十一人が揃って宣言をし、同じく黄金の剣を抜いた。隊長の剣はスタンダードなロングソードであるが、隊員の剣はそれぞれ形がことなってた。ナイフからグレートソードクラスまでよりどりみどりだ、双剣や曲刀など色物もいくつか見て取れる。だが驚愕すべきはその統制された動きであろう。兵士達も戦場に身を置く者であるからわかる。あの動きは相当の訓練を積んでいると。あのほほえましい日常とは全く別の側面を彼女達が有していることが一目でわかる。そんな動作であった。

「陣形――、教化殲滅・斜線陣」

 ざ、と彼女らの歩みが止まり、リヴェリタを戦闘に一列斜線の陣形ができあがる。その距離、バージ城塞から歩いて数分ほど、魔都は視認できるがあと一時間は歩かねばたどりつけない距離である。

「これより露を払います――支配者要求・概念同期(イデア・リンカー)」
「支配者要求・概念同期(イデア・リンカー)!!!!!!!!!!!」

 十二人全員が上段にあらゆる剣を構え、そして、リヴェリタは静かに呟いた。

「――支配者要求(ルーラーリクエスト)」

 その時、魔都の王城内。玉座の間にてトールは呟いた。

「あ、これヤバい」

 そしてトールが右手を突き出すと同時に、遥か遠方でリヴェリタの支配者の剣とその第三世代十一本の剣が振り下ろされる。

「――断 ち 割 れ な さ い」

 彼女らの剣から巨大な光が立ち上がったかと思うと、その光が巨大な刃と化し魔都の障壁を目指して飛んでいく。黄金の十二連続の大斬撃が魔都を襲った。“断ち割れる”という概念の塊は、物理法則をや魔法則を越えてこの世界を侵食する。すなわち、大地を断ち割り、大気を断ち割り、果ては魔都を包む結界さえも断ち割るために。概念斬撃が結界の境界面に達するなり、数個が弾けて消し飛び消える。だがほどなくして、ばきん、という不快な音共に何かが砕け散る音が周囲に響き渡った。その意味を知る彼女達は不敵に笑う。そして、不可侵である筈のダンジョン構造体が、真っ二つに割れて崩れた。
 同時に、玉座でのんびりとチンコを舐めさせていたローラをトールは突き飛ばす。その瞬間リヴェリタ達の概念斬撃が城ごとトールの右手を切り飛ばした。体から切り飛ばされ宙を舞うトールの右手が一瞬にして黄金の光の中で粉微塵になって消滅する。無限に断ち割られ続けるというえげつない概念攻撃である。

「……やぁってくれるじゃないの」

 トールは何の気なしに右手をにゅっと生やすと、その手に黄金の杖を出現させて修復を発動させた。

「支配者要求・記点回帰(セーブ・リライズ)」

 見舞われた大斬撃が何事もなかったように消え失せ、城は元に戻ったように見えても、トールはその維持と修復に力を使わざるを得ず、彼女達にちょっかいを出すことはしばらくできそうになかった。

「くそ、全部は戻らないな……リヴェリタちゃんの力がまだ残って混ざっているせいか……。やるじゃないか。こりゃハルマ君やリューイ君なんかよりよっぽど強いぞ?」

 そんなトールの視線の先の先。城壁を越えて結界を越えて、さらにその向こう。近接戦闘が最も得意な筈の支配者の剣(マスターソード)で、遠距離戦を見事に制したリヴェリタは密かに笑う。

「ふふふ、……手応えありでございますわ」

 ひゅんひゅんと、黄金の剣を振りカチンと納刀するリヴェリタ。隊員達も後に従い剣を納める。そこに残るは、魔都まで続く圧倒的な斬撃跡。兵士達は見た。大地を割り、不可侵の城を割り、どこまでも断ち割る大斬撃の御技を。そして、どうあがいても攻略できなかったダンジョン構造体を切り裂く希望の光を。

「三発着弾後、結界消滅。今は修復されているようですが、残りの斬撃は通ったようです。隊長」
「そう、まあこれで道中でうっとうしい邪魔をされる必要はなさそうですね」
「はい、計画通りです」

 そう副隊長であるセシリアがリヴェリタに告げた瞬間、彼女達の背後から大歓声が上がる。そう、今日は記念すべき人類大反抗の一歩となる最初の日となったのだ。人類側があのよくわからない魔王に、初めて手痛い一発を加えてやった記念すべき日である。

「それではローラ様、ただ今リヴェリタが参ります」

 過去の主君に遠距離からの一礼を済ますと、リヴェリタはゆっくりと歩みを始めるのであった。完全支配に至るまでに成熟した、十一本の第三世代の株分けと共に。
 一方、彼女らを見送る兵士達はその姿が消えるまで彼女達ををずっと見送っていた。魔王城まで続く斬撃あとが道となり、その上を悠々と歩いて行く彼女らを。神の使いに近い神性を感じながら。

「くっくっくっ。よかろうではないか、リヴェリタちゃん。久しぶりに俺の本気を見せて……ふ、ぉおおおお?」

 仁王立ちで魔王の雰囲気を醸し出しているトールのチンコを後ろからぎゅっとローラがひん掴む。

「まーだー途ー中ーでーすーのー?」
「え、ちょ、あ、……おほ。おぅううう」

 そんな様子をみながら、

「大丈夫かしら……」

 とシンシアは遠視投影越しに迫り来る脅威を見ていた。

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