結界魔法は四角錐状の魔除けの魔法である。この魔法はこの世界でもっとも古く、そして広く知れ渡った魔法であった。その効果は単純にして強力である。
発動者を中心に展開される、二メートル四方の一定時間進入禁止効果がついた不透明な正四角錐。
通称不思議テントと呼ばれる魔法である。『ここから入れない』という概念を顕現するという、魔法としては国宝級な効果なのだが、ある量産されているアイテムを使用することで限定的であるが簡単な発動が可能なため、一時的な拠点や迷宮の休憩所として冒険者に重宝されていた。
『結界魔法の実』
という身も蓋もないネーミングが付けられたそのアイテムは、世界各地でにょきにょきと群生する結界魔法の木から大量に取れる種子であり、その昔何代も前のマスターロッドの使い手が支配領域の中から生み出した、御業の成れの果てである。
そんな不思議テントの中でいつの間にか眠ってしまっているカイル。もはや衝立などお構いなしに乱れるシンシアの様子に今まで気づけないことは、果たして幸せなことか、それとも不幸せなことか。
だがしかし、残酷に、そして無情にも足音は近づいてくる。彼の中の一番大事が何かが壊れてしまう時が来てしまったのだ。
「――ル、――カイル」
まどろみの中、結界魔法の外から優しくかけられる、聞きなれたシンシアの声により、カイルは目醒た。いつの間にか寝入ってしまっていたことに気づき、カイルは、ばっと起き上がり、結界魔法(キャンプ)を解除する。
「――ご、ごめんっ、しー姉ぇ、ちょっと気を抜いちゃ……」
――抜いちゃって、というカイルの言葉は続かなかった。第一ブロックの境界越しに立つシンシアの横に立つ全裸の男、徹の姿を見つけたからである。
「――誰だお前? しー姉から離れろ!!」
そう叫び、カイルは剣を抜きその切っ先を徹に対してちゃきりと向ける。
「おいおい、随分だねぇ、カイル君? 折角クエストクリアのお祝いに姿を現してあげたってのに」
――クエストクリア。その単語にカイルはぴくりと反応する。そしてシンシアを見ると彼女の両手に抗魔結晶の塊があるのをカイルは確認した。
「……しー姉ぇ、ごめん。俺、何も役に立ってない」
「――ううん、気にしないでカイル、カイルが居たから私も頑張れたんだもの。――それと、こちらのお方は徹様よ、お姿はちょっとアレだけど、とっても素敵な方なのよ」
いつもと変わらぬ、愛しくも可愛らしいシンシアの笑顔。だがおかしい、とカイルの脳裏に何かが過る。しかし、それを形にできるほどまだカイルは経験を積んでおらず、そして、それを裏付けるだけの知識もなかった。
――だから、彼は一段一段登っていくしか無いのだ、その破滅への十三階段を。
「――徹様? ええとこの迷宮の精霊様みたいな人? そんな事より、しー姉ぇ、クエストは終わったんだよね? なら早く帰ろう?」
徹に露骨に怪しげな視線を向けながら、カイルがシンシアに問いかけた。そこで彼は気づく、違和感の一端を。視線を下げれば、徹様と呼ばれた男の右手がシンシアの下半身に伸ばされている事実を、カイルはようやく気づいたのであった。
「……ん、ふぁ、徹さまぁ……だめぇ……」
シンシアの服の上から彼女の尻を撫で回す徹の右手、いや、正確には撫で回すと表現するのは生ぬるい。シンシアの尻肉は徹の右手に弄ばれていた。揉まれ、さすられ、尻の割れ目をなぞるように指を這わせられ、その度にシンシアの形の良い腰つきがぴくん、と跳ねる。
「ん……、あ……、あっ……カイル、みちゃだめ、……みちゃだめなのっ……あんっ」
そんな彼女の様子と、まるで自分の玩具を見せびらかすような徹の表情に、カイルの中の何かが切れる。
「何やってるんだおまえ……っ!! しー姉ぇから離れろぉおおおおおおっ!!」
カイルの剣撃。しかし、マスターロッドで造られた支配領域の概念障壁は、物理法則である以上、絶対に敗れることは無い。ガイン、と見えない壁がカイルの剣を事もなしに弾く。それを冷めた表情で徹は見守ると、ぐいとシンシアを引き寄せ、そしてその脇から両手を挿し込み、後ろから揉み揉みとシンシアの胸をまさぐり始める。
「――んあっ、ふぁ、あん、あぁん……、カイルぅ、カイルぅ……」
「ん? カイル君、どうしたの? シンシアちゃんの見たこと無いエッチな声と顔を見て、興奮しちゃったのかな?」
くっくっくっ、と。徹はカイルへと笑いかける。理解の遅い哀れな少年を、憐れむように。
「貴様ぁ!! しー姉ぇに、しー姉ぇに何をしたぁあああああああ!!」
激昂するカイル。何度も剣を振るうが、概念障壁はびくともしない。
「何をしたって? ふーん、知りたいの? 知っちゃっていいんだ、カイル君」
揉み揉みとまさぐる手を止めず、徹はシンシアの耳にはむ、としゃぶりつく。
「ひゃぁ……、ふぁ……、――あぁん……っ」
その瞬間にきゅ、とシンシアの体の中心を痺れが走り、思わず内股を捻り、腰をよじる。上半身は既に徹に預けられており、彼女の胸は、時折服越しに乳首を扱く指を受け入れ、その快感を増幅させる耳腔へ愛撫をなすがままに楽しむその動きは、まさに妖艶な女の身じろぎであった。
その耳元で徹は囁く。カイルの怒りと、シンシアの陶酔を繋げる悪魔の囁きを。
「ほら、カイル君が言っているよ? シンシアちゃんが俺に何をされたかって、教えて欲しいって?」
ぺろぺろとシンシアの耳たぶを弾きながら、徹は囁く。
「カイル……、カイルぅ、あぁん、見ちゃだめぇ、お姉ちゃんのえっちなとこみちゃだめぇっ……」
その、言葉とは裏腹にシンシアはロングタイトのスカートを自ら捲り上げる。彼女の眼の奥に、昏く淀んだ羞恥を求める歓喜の光が、鈍く輝く。
「しー……姉ぇ?」
湯上りの薄着や、ちょっとしたハプニングでしたか見ることが無かったシンシアの白く張りのある太ももがあらわになる。そして、願望はあったが、今まで見ることも触れることもできなかったその熟れた内腿の奥がカイルの目に晒される。
「ふぁああ……、カイルが、見てる……おねぇちゃんのいやらしいあそこ、じっとみてるのぉ、――ふぁあああん」
それはカイルの思考を停止させるには十分な光景であった。いつも事あるごとに視界にちらつく、シンシアの形の良い腰のラインが、いま眼前に明らかになっている。その柔らかそうなお腹と張りのある尻肉、そしてむちむちした太ももを何度自分は触れることを夢見たか。何度犯すことを夢見たか。
目の前にある彼女のあらわな下半身。その尻は誰とも知らぬ男に胸を揉まれる度にぴくぴくと波打ち、焦がれた内腿は彼女の自らの意思で次第にその幅を広げていく。その奥、カイルが今まで想像もできなかったその秘所は、ぱっくりとその口をだらしなく開き、愛液と言う名の涎を太ももへ垂らしていた。
ぴゅ、ぴゅ
と、シンシアが力む度に、シンシアの花弁から愛液が迸る。
その様子を見て、呆然と立ちすくむカイルを他所に、徹の無骨な指がシンシアの下半身を弄ぶべく伸びていく。
こりっ、こりこりこりっ
シンシアの花弁で存在を主張する肉芽を徹が弄ぶ、こりゅ、かり、かりこりかり、とそんな擬音が、カイルの中で響いた気がした。――そう、そんな気がしたのだ。だってカイルは知らない。愛しき人が、姉のように慈愛にみち、そして時には恋人のように甘い言葉をかけてくれたあの人の股間に、あんないやらしい突起が付いていることなんて彼は知らないのだ。
ふぁああ、と今までカイルが聞いたことも無い甘く、いやらしい声で歓喜の声を上げるシンシアの声など、カイルの耳には入らない。彼を正気に戻したのは、彼女の声でも、こりこりという乾いた音でなく、実際に徹の指と濡れたシンシアの股間が織り成す、ぬっちゃぬっちゃ、ぬっちゃぬっちゃ、と響く、だらしなく卑猥な水音である。
「あ、ああ……しー……姉ぇ、しー姉ぇ……、だめだよ、そんなのダメだよ……」
――ぬっちゃぬっちゃ、にっちゃにっちゃ、ぐっちゅぐっちゅ、くっちゃくっちゃ
「ああんっ、きもちいっ、きもちぃよぉっ、カイルぅ……おねえちゃん、徹さまのゆびで、すごくきもちよくなっちゃうのぉ……っ」
――ぬっぽぬっぽ、ぬっぷぬっぷ、ずっぽずっぽ、ずっちゅずっちゅ
徹の指が犯すのは花弁だけでない、中指を突き立て、シンシアの蜜壷をいやらしく上下に出入りさせる。
「んぁっ、徹さまぁっ、ふぁああっ、きもちいですっ、ああんっ、徹さまのぉっ、えっちなゆびでぇっ……しんしあのおなか、とろとろにほぐしてくださぁい……ふぁああん!!」
「――やだよ、しー姉ぇ……そんなのしー姉じゃないよ……、そんなしー姉……ぼく、しらないよ……っ」
カイルの心のシンシア像が、ピキピキとひび割れ、壊れていく。カイルの呼称が俺では無く、『ぼく』となったのは、いかなる心境からか。そんなカイルは徹の指が出入りするシンシアの股間から目を離すことがどうしてもできない。カイルは自らの逸物が服の中で硬く勃起している事実にも気づかない。気づくことができない。
そんなカイルをあざ笑うかのように、徹はシンシアの股間の前に座り込み、その口を花弁へと這わせる。シンシアはまるで愛しい人を抱くように、徹の頭を両手で抱き股間に誘導するのであった。
――じゅるる、ちゅぱ、ちゅぱぱ、ず、じゅるる、ちゅぱちゅぱちゅぱ、ちゅぽん
「んああああああああああんっ、とおるさまぁっ、いく、いくの、しんしあきちゃうのぉおおっ」
卑猥な音。淫らな愛撫、そして愛しい人が、他人の手と舌により、はしたなく自らの絶頂を叫ぶこの現実。
――がらん、とカイルの右手から剣が取り落とされる。
「――いくっ、――いくいくっ、あぁんっ、そこっ、そこいやんっ、すっちゃやぁっ、――んあああっ、しんしあいきますっ、いっちゃいますっ、とおるさまの舌で、はしたなくおもらしちちゃぅううううううう!!」
「――ああああああああああああ、うわあああああああああああ」
最早その痴態はカイルに耐えられるものでは無かった。彼は、耳を塞ぎそこから逃げるように走りだした。
「ふぁあああああああああっ、きもちいぃ――!!」
走り去るカイルをシンシアは視界の端に捉え、絶頂を迎える。どことなく彼女に訪れる喪失感は、体の奥から湧き上がる強い快感により塗りつぶされ、
そして、
「だいじょうぶ、シンシアちゃんは僕がいっぱい可愛がってあげるよ?」
と、すかさずその隙間を徹の言葉に埋められる。
そんな中、
――でも、
というシンシアの心の何処かで吐き出された最後の理性の呟きは、
――ぬぷん、
という、徹の挿入により無残にもかき消された。
「――ふぁぁああん!!」
シンシアの嬌声が迷宮に響く。その声はカイルにとってもはや恐怖であった。カイルが知らないシンシアの甘い喘ぎ声も、ぐちゅぐちゅという股間から溢れ出る婬音も、それは体にからみつく悪魔の手ような嫌悪感そのものである。カイルは逃れるようにして、四階への階段を目指すのであった。
30分後、カイルは四階へ昇る階段へと辿り着く。一瞬後ろを振り返るが、カイルは諦めたように階段を登り、――どん、と見えない壁にその行く手を阻まれた。
尻餅を付き、呆けるカイルの後ろから、足音が迫る。
そこには黄金に輝く錫杖のような物を持った徹と、徹に赤ん坊のようにしがみつきながら、一心不乱に腰をふるシンシアの姿があった。
「そら、カイル君、忘れ物をしちゃだめじゃないか? せっかくシンシアちゃんが君のために取ってきた鉱石だってのに、そんなんじゃシンシアちゃんに嫌われちゃうぞぉ?」
そういうと、徹はカイルの前に抗魔結晶を投げ捨てる。
「――んっ――あっ、――あんっ、ふぁんっ」
「うーん、シンシアちゃんは可愛いねぇ、よし、カイル君邪魔者が居なくなったらたっぷり可愛がってあげるからねぇ?」
そう踵を返す徹に、
「ま、まて!!」
カイルは叫んだ。自分が声を上げた理由もわからずに。
徹は振り返る。悪辣な笑みを湛えながら。
後々カイルは後悔する。自分の不幸はこの時点で逃げださなかったことだと。ここで一心不乱にこの場を後にすれば、自分の心が完膚なきまでに叩き壊される事は無かったであろうと。
「そうだ、シンシアちゃん」
そう言って徹は抱きつくシンシアの唇をくちゅくちゅ、とかき混ぜる。シンシアの体を逸物を入れたままくるりと回転させ、そして彼女を四つん這いにさせて、ずむ、と腰を突き入れた。
「ふぁんっ」
シンシアの美しい顔が快感で恍惚に歪む。そして徹は囁く、カイルをどん底に突き落とす。悪魔の言葉を。
「ねぇ、シンシアちゃん……、カイル君のおちんぽをちゅぱちゅぱしながら、後ろからずんずんお尻を掻き回されてはしたなくイっちゃうシンシアちゃんは、……すごくエッチだよね?」
そう囁かれたシンシアの視線が、カイルを捕らえる。徹の逸物を受け入れたまま、犬のようにシンシアがカイルへと近づいてくる。淫らで卑しい期待の眼差しでカイルを見ながら。
「やめて、もう、こんなの、こんなのは嫌だ……」
徹のマスターロッドが揺らめく。床が変化し、カイルの手足が拘束される。カイルの周囲に無数の遠視投影(ディスプレイ)が浮かび上がり、今までのシンシアの痴態が次々と映し出され、周囲静寂が一転して彼女のあえぎ声で満たされた。
「いやだ、もう……それだけは、それだけは――」
「うふふ、カイル、カイルっ。わたしのかわいいカイル――。……えっちではしたないおねぇちゃんに、カイルのおちんぽ、おしゃぶりさせてぇ……?」
自分の股の間で、楽しそうにズボンの留め金を外すシンシアを見て、カイルの精神は完全に崩壊した。
「――うああああああああああああああっ、もうやめてくれえええええええええええええ!!」
不幸な姉弟の宴は、まだまだ終わらない。
マスター☆ロッド 第一章――カイル君とシンシアさん(終)