裏切将校アーヒム=レデルラードの受難

第三話:魔導機神アルケイオス


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 大人にならざるをえない少女という表現を皆はどう思うだろうか。いや幼女とか少女とか、エロいペドい何かじゃない。まあ体は年相応なの域をでていないが、まずなんというか、表情が冷めている。五人ともまだ俺らでいうミドルスクールに入学しているか通っているかって感じのお年頃だよね? 

 なんでスタイリッシュゴリラ外骨格で戦争してるの?
 なんでゴリラパンチで土塁吹っ飛ばしてるの?
 なんでゴリラ光線で俺らの陣地焼き尽くしているの?

 とか聞きたいことは沢山あるけどけどそれどころじゃ無い。そういえば俺は拿捕されてから一回も魔導アーマーを脱いだこいつらにも職員や兵士にも会っていねぇ。大人は、大人は何処にいるんだ。責任者、保護者、親、そう、おやああああ!!

 子供を最前線に送る親でてこい、割とマジで。この娘達に敵兵を前にここまで割り切った表情で助けを求める教育したヤツもでてこい。あ、ちょっとまって、ちょっとまって。

「あーもー、ダメ元で聞いてみただけです、みたいな悲しいを表情やめろ」
 
 うつむき加減だった少女達が顔を上げる。目の奥に不安とか恐怖とか見て取れるだけまだ希望がありそうだ。しかし魔導帝国の誰がこんな鬼畜の所業というかこんな女の子達を最前線へと送り出しているのかさっぱり分からんが、こっちも戦争しかけておいて何だが、とにかく魔導帝国《こっちの国》の倫理感ヤベぇ。

「あー、あーあー、ごめん悪いんだけど時間ある? 質問いい? 五分十分ぐらい」

 少女達が顔をお互いに顔を見合わせる。
 そして、こくんと一斉に頷いた。

「大人は?」
「ここにはいません」

 ふぁっきん。

「なんで」
「アルケイオスに乗れないから」

 ああ、あのスタイリッシュゴリラね、アルケイオスっていうんだ。

「いやそれでもおかしいでしょ、作戦は、戦術は、戦略は、誰が考えてるのさ」
「みんなで」

 少女達は顔を合わせて答える。
 サークル活動レベルか。
 答えになってねぇ、けどこれが答えなんだなきっと。

「聞き方悪かった、大人は何しているの?」
「アルケイオスに乗れない人は、仕事しています。畑を耕したり、ものを作ったり」

 リーダー格のパツキン少女に変わっておっとり系のメガネ少女が答える。まーだなんか噛み合わない。が、なんとなく分かりそう。つまりこいつらの価値観では、戦争に参加する基準が子供と大人では無く、乗れる人と乗れない人なのだ。

「乗れない人は戦争に参加しない?」
「うん、いても邪魔だし、ふっとばしちゃう」

 確かにそうだ、一理ある。俺もこの魔導アーマーが戦っている半径数十メートルには近づきたくない。

「乗れる人は、もうお前らだけしかいないんか?」
「三年前から……私達だけ」

 文化が違う。
 倫理感も大いに違う。
 でもちょっと理解できた。

 こいつらの文化の根底にあるのは、できるヤツがやるって慣習が基本なんだ。そりゃあ、こんなスーパーアーマー持っていたら、戦争に無頓着になるわ。誰かが一騎当千をし続けていれば、自然と平和ボケが進んでいくだろう。もしかしたらこの国さ、俺達と戦争している自覚すら無いとかないよな。いやあり得る、あり得るよ。うっわー、もしかして俺らの侵攻を村の外の蛮族警備程度ぐらいにしか思ってないのかもしれねー。

 それで数年前から乗り手がいない。
 んでジリ貧になっていて。
 たった今、この娘達の手にあまり始めてしまったのだ。
 はあ、ため息しかでねー。
 何年前から乗り手がこの子達で、何年間こんな理不尽がまかり通っていたんだよ。

 ちょっと頭の中を整理するか。なんかこのままだと魔導帝国、つーかもはや村っぽい。もう魔法の国の魔法村。まあ魔導帝国なんて俺らが勝手に呼んでるだけだしな、なんか内情聞いてみると魔法村の方がしっくり来るわ。魔法村とその番人と俺ら蛮族共。そんな認識で行こう。

「つーか、お前ら結構タフなのな、その年齢でドンパチやってたら正直精神が壊れてもおかしくないんだけど」
「大丈夫だ、アルケイオスに乗るとそこらへんはいい感じに調整してくれる」

 さらっとヤヴァイこといっちゃったよこのパツキン娘。つまりはじけ飛ぶ人型のナニやカニやら見ても、何らかの形で陰鬱にならないように頭弄られるてかもしれんのこれ。……えげつねぇー、まあいざ戦いとなるとハイになれるってのは今はプラス要素だな。

 って、もう俺こいつらの味方すること前提でものを考え始めてるなー。仲間や部下をたらふくぶち殺してくれた怨敵様にだよ? ほんとどういう心境の変化かねぇ。でもさー、万が一だよ、万が一さー、こいつらの誰かが捕まったり、逃げ遅れたりして俺みたいに捕まったりするじゃん? そりゃあ酷いことになる。機械帝国の兵士は男100%な上に割と魔導帝国を敵視するように教育済みだ。こんな子達が放り込まれたら当然まあ色んな意味で酷いことになるだろう。穴という穴に乱暴狼藉を働かれた上に、性欲の吐き出し口として都合の良い、小生意気なチンポおしゃぶり奴隷として仕込まれてしまうかもしれない。ごめん後半はちょっと俺の趣味入ったけど、まあそんな感じに間違いなくなるだろう。

 人間というものは不思議な物で、状況がこうもなってしまうと、もう簡単に手の平を返してしまう。この娘達が列に並ばされて機械帝国軍人にがっぽがっぽと頭を押さえられる姿や、ガンガン後ろから小突かれている喘ぎ声を抑えられない様子や、どんどこサンドイッチで責められたりするおちんぽ奴隷になる未来と、祖国への裏切りの選択を両端にのせた俺の心の天秤が一気に傾く。

 兎にも角にも俺は世界の真実を知ってしまった。魔導帝国《こいつら》に祖国を侵略する力もないし、その気もきっと無い。だってこいつら多分一人も死んでないんだもん。恨み辛み何て、もしかしたら俺達が勝手にメラメラさせているだけかも知れない。

 故に機械帝国は彼等に怯えなくてもよいのだ。その事実が公になるだけで、この対立構造は一気に変わるだろう。無茶な侵攻がなくなれば御の字だ。だが今さら平和なんて無理なことは知っている。どちらかの勝利も非現実的だ。だが均衡させればこの目の前の娘達はまともに寿命を全うできるのではないか。

「小娘共、俺ちゃんを信じる? 信じられる?」

 相変わらずの芋虫状態であるものの、俺の選択は決まった。悪いが化け物五体、この俺様が指揮を取れば、その理不尽さを五倍どころか五乗してやるさ。
 

 で、このありさまだ。


 え、機械帝国軍? 壊滅だよ。決まってんだろ。いままで馬鹿正直に小娘が正面から一部隊に一体みたいな形で、正面から迎え撃っていたから圧倒的火力をもっていても後れを取っていただけだ。害虫の掃除で一番確実で効率がいいやり方は一カ所ずつ強力な制圧力でキレイキレイしていくに限る。

 別に難しいことはしていない。今まで一部隊の前に現れていた戦場の死神、魔導アーマーが五体一緒に現れただけだ。





「まにあいますか?」

 おっとり眼鏡娘が俺に不安そうに問いかける。今回上陸部隊は七部隊、どのみち一部隊に一体出撃しても手が余るのだならば殲滅のスピードを上げたほうがこちらの戦力を有効利用できる。もっとも――

「間に合わなくてもいいんだ。まあ見てろ」

 基本的に機械帝国の目的は渡河拠点を作ることだ。しかしその事をしらないこの子達は常に浸透されないか不安だったんだろう。相手の作戦目標自体からして深くの浸透は無い。故にこちらは南側から順番に拠点建築に必要な物資を、今までの五倍の戦力で焼き払い、それを繰り返す。

「パツキンちゃんと眼鏡ちゃん弾幕受けてー、はい、ポニーちゃん、双子ちゃん、さっき見たいにブースト使って突入。とりあえず奥に進め。わはは、三段跳びで五百レード跳んでて笑えるー。緑シート見つけたらビーム焼却ね。はい、中が混乱したら、弾幕やむからパツキン隊は待機。えーと砲撃支援みたいな機能ある? ああそう、魔導グレネードですかそーですか、ちょっと飛距離足り無いかなーって、ああそう、遠投で届くのね、それでいいです。そんじゃそれ、ポニーちゃんと双子ちゃん離脱と同時に砲列に投げて、あと何個ある? え、魔力込めれば残弾無限? どうなってるのこの文明。まーいいや、次いこう」

 爆発炎上する上陸部隊。うんまあごめん。割と全部俺のせい。ただでさえ鬼畜な超兵器がいきなり連携しだしたりしたら怖いよね、狙い澄ましたように陣地構築用の物資や食料焼き払ったら不思議だよねー。うんごめんね。俺なんだ。

 どがががん、と後方に設置した作戦本部に舞い降りるアルケイオス五体。作戦本部といっても木箱に座って水晶玉に話しかけてる俺だけだけど。それにしても凄いのはこの子達だ。俺の心を読んでいるのかと思うほど、初めてやる連携作戦行動に関しての理解が深く、同期が並外れている。ろくすっぱ通信している様子は無いのに大した物だ。もしかして可愛い顔しておいて戦場経験値に関してはピカイチかも知れないな。

「すごいぞ、いつもよりすごくはやいぞ」

 パツキンちゃんが驚いている。女の子にすごくはやいって言われるとちょっとむずむずする。えへへ、今回は速かったね、もう一回がんばろ♡ とかなんつって、なんつって。それはおいといて、話を戻すがそりゃそうだ。少女の頭と部隊運用のなんたるかの軍隊教育を受けた大人との戦術格差は歴然だ。

「「ゴミのくせにやるじゃん」」

 双子ちゃんちょっと毒舌すぎやしませんかねぇ。

「これを繰り返せばいいんですか?」
「……なんかいけそうな気がする」

 眼鏡ちゃんとポニーちゃんが嬉しそうにはしゃいでる。だが鉄の超兵器が内股ジャンプは控えて欲しい。ハイタッチの衝撃波と着地の地響きが生身に響く。

そんな感じでいつもの数倍のスピードで機械帝国の軍隊は壊滅していく。一番最後の部隊は流石にある程度陣地を敷いており、機関銃やら大砲やらがこちらを向いている。がちがちである。

「……なぁ、これどうするんだ」

 パツキンちゃんの声色が水晶越しに流石にあの陣地の前に立つのは勘弁してくれと言っている。しかし、心配無用だ。

「全く問題ないね」
 
 これも娘ッ子達が昔から必ず俺達を正面から迎え撃っていたおかげだろう。視界に姿を見せるなり、陣地の砲すべてがパツキンちゃんを捕らえる。

「大丈夫、とどかないから」
「でも、本当にできるのか?」
「不安か?」
「当たり前だ」
「まあ俺は信じなくてもいい、アイツらを信じろ」

 うわ、俺くっさ、めちゃくっさいこと言ってるわ。

「……わかった。がんばる」

 だがこのくっさい発言は存外にパツキンちゃんの琴線に響いたらしい。
 こういうところはホント素直な娘っ子なんだよなぁ、マジで。

「んじゃ、GO。無理すんなよ、ダメだと思ったらすぐにもどってこい」
「……わかった」

 俺の号令と共にパツキンちゃんの肩部分がガションと開き、砲が展開。魔導迫撃砲とかいう巫山戯たネーミングで砲撃が始まる。なんだよグレネードよりも本格的な砲兵器あるじゃん。しっかし魔導ってつけりゃいいってもんじゃねーぞ、おい。

「このオプションは消費が激しい、多用したくない」

 左様ですか。
 ってあれ? 今のツッコミ俺声に出してたっけ? 

 人の顔ほどもある青白い魔導弾は、相手弾幕の射程内に着弾し、大穴を作る。そしてパツキンちゃんがそこをめがけて突貫する。当然鉛玉の嵐が彼女を襲うが、装甲限界前に無事砲撃後の穴に入り込めたようだ。

「中継塹壕完成。それじゃ本命よろぴく」

 そして、川の中から飛び出た四体のアルケイオスが敵陣後方を襲う。陣地内の機械帝国兵はそりゃ驚いたろう。今まで背後を突かれることなんて無かったろうし、そもそもこの超兵器が潜水も可能なんて報告も俺は受けていない。つまりデータもない。陣地も当然接敵を警戒するから川側を後回しにして布陣されている。

 つまりこれは今回に限り必ず成功する奇襲だ。そして陣中を四体のアルケイオスが内から食い破る。離脱と同時にパツキンちゃんの投擲魔導グレネードが援護、全員が中継塹壕に入りこんだら、残敵との応戦だ。と言っても相手の応射機能は先の奇襲でズタズタに引き裂かれている。裏から陣地を食い破られたんだ。縦列や砲列は所々破壊されているし、継戦しにくいように、弾薬や予備火器を破壊しろと言っておいた。

 いやー、見やすいとは言え、物資コンテナを色で管理するのやめた方がいいって上申してたんだけどなー。まーこれまで敵が戦術的な攻撃をしてこなかったのが原因か、だってこいつら子供だもん。しゃーない。あとは仮塹壕を増やして、面で制圧していけば事足りるだろう。必ず撤退するはずだ、そのために川側を空けている。





 で、話を戻そう。
 そう、このありさまって所までだ。

 かつて無いほどの機械帝国の大規模攻勢はこうして決着がついた。我が祖国は、俺の裏切りによりさんざんな被害を出し、しっぽを巻いて逃げ出したのだ。

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