裏切将校アーヒムレデルラードの受難

第二話:世界はろくでもないもので出来ていた


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 次に俺が目を覚めたとき、目の前にはアーマー野郎達が五体ほどいた。なんで数が分かるかって? そら両腕縛られてケツを突き出した格好で見えるのは、相手の足しか無いからだ。もはや見慣れた化け物達。スタイリッシュ金属ゴリラの足が十本ほど見える。そして意識が覚醒すると共に、奴らの話し声が耳に入ってきた。どうやら迎撃作戦について考えているようだ。いつも通り光線の一、二発でもぶち込んで暴れ回ればいいものをと思う。

 正直こいつらに作戦なんか必要ないのだ。今まで散々やられてきた。こいつらは機械帝国にとっては化け物で、悪魔であり死神でもある。俺達は数で足止めしてそのうちに強固な陣地を築き、前線を押し上げていくしか方法が無い。そういった意味では今回の橋頭堡作成の成功は奇跡的なものだった。あとは物資と人をたんまり運び込んで、アーマー野郎を釘付けにできる大量の重火器をこちらに運び込んで設置するだけで、また一つ前線を押し上げられたのに。

 そんなことを思っていたら、アーマー野郎の一人に乱暴に髪を掴まれて引き起こされる。

「コロサレタクナケレバ、シッテイルコトヲ、スベテハケ」

 なんで? いまさら情報? いまいち噛み合わない。もはや俺の隊が築いた橋頭堡は無いのだ。新たな上陸部隊ぐらい、こいつらなら簡単にあしらえるだろう。

「いや、そりゃ殺されたくないし話すけどさ。あー、言葉遣いが荒いのは許してね。えーと、どれどれ、見せられる範囲でいいから展開図か作戦図みたいなの見れる? 斥候が拾ってきた範囲でいいから見せて、あーそう。ほんほん、ほーん」

 いつも通りの機械帝国十八番の数で押し散らす上陸作戦だ。複数地点に数でものを言わせて上陸して、その後合流して橋頭堡を作り、川向こうの橋頭堡とする。ただ今回はかなり無理をしていることがわかる。向かってきている部隊の数が前回の三倍じゃきかない。どうも我ら機械帝国はどうしても、ここ数百年来の快挙となる川向こうの拠点という儚い希望を失いたくないらしい。この行軍状況だと予想される上陸地点は七カ所。前回の三カ所と比べて、密度も数も上げてきてる。

「上陸地点が増えただけで前回と一緒だな、まあおたくらの変態兵器でこれまで通り薙ぎ払っていけばいいんじゃないか? 特別何かあるような状況には見えないぞ。つーかこの軍旗、総大将はアドラー准将か。よろこべ、こいつは軍の中でも脳筋中の脳筋で突貫突撃しか指示しないし、身が危なくなれば即撤退する戦場で真っ先にカモになる部類の奴だ。奇策は無いから安心しろ」

 ちなみにとっとと逃げた俺の上官である。せっかく俺が隠密行動で築いた陣地をむざむざ敵にばらして失うきっかけになった原因を作った人物だ、正直憎々しい。

「しかしこれ便利だなー、大河の半分くらいから視認できるんだ。うちにも欲しいわ」

 どういう理屈か分からないが、地図の上の駒がゆっくりと自動で大河を動いているのが分かる。おまけに駒が光って中空に現地の映像も見える。なにこれ欲しい。すっごくうちに欲しい。

「ん、とすると前回俺の行動もバレバレだったのかこれ?」

 とまで話したところで、アーマー野郎が俺の頭からぱっと手を離した。

「イヤ、チイサイブタイハ、ニンシキデキナイ」

 なんか今、結構重大且つクリティカルな情報を聞いてしまった気がする。要は小規模なら潜入し放題ってことだよな、これ。

「オイドウスル」
「コンナゴミノジョウホウアテニナルノカ」
「デモコイツ」
「ドウシタ」
「イヤモシカシテ、ア、コレモシカシテ、コイツノカ」
「エ、マジカヨ、サッキカラビリビリキテイルシコウハ、オマエノジャネーノ?」

 人をナチュラルにゴミ扱いしつつ鉄板ゴリラ達が作戦会議を始めている。なんの話し合いが必要なのか、俺らとの火力差は歴然だ別にこの五体が全戦力だけとかでもあるまいし。

 と、考えていた所で、俺は妙な違和感を感じてしまう。

 あれ?
 あれあれあーれ?
 なーんか変だぞ。
 この状況から醸し出される、圧倒的違和感。
 あー、うー。なんか俺ちゃん、決定的でとんでもない何かに気づきそう。
 しかもこれ気づいちゃったらなんだろ、地獄の蓋か天国の門か何か開いちゃう予感。

 でも思考し始めちゃったら止まらないんだよね。癖なんだよねー。俺ほら、日常で妄想する癖あるから、なんつって、なんつってー。参戦本部付きだしー。考えるのが仕事だしー? んー、あともう少し。もう少しなんだよね。頑張れ俺の脳細胞。皮下脂肪をブドウ糖に変えて頭に送れ。情報よ回転しろ、スパークしろ。与えられた事実から決定的な根拠を想像して繋いでいけ。ほら、ほらほら、事は凄く単純、単純なんだよ。うん、簡単なことだ。

 そもそもさあ、何でこいつらこんなことで困っているわけ?
 いつも見たいに一部隊に対して鉄板ゴリラ一体でぽぽぽぽーんってさぁー……あ、違う。

「あ」

 突然俺は理解してしまった。
 まさかのまさかだ。
 そんな、嘘だ。ダメだ。
 信じたくない。信じられない。
 こいつら、こいつらもしかして。

「お前らだけ、なの?」

 俺の発言と同時にガシャリ、とスタイリッシュゴリラ全員が一斉にこちらを向いた。反応はええなおい。でもそれで分かった。やべぇ、これ正解だ。それも核心且つ弱点且つ、致命的な部分の中でも、極めて拙い所をどんぴしゃ抉り抉ってしまった。

「嘘だろ」

 魔導帝国側の戦力がたった五体。

 おいおい、互いの戦力が均衡状態なんて何処の誰が言ったんだ。資源が有り余ってお互いに満たされて戦争をしているなんて、どこの誰が言っていたんだよ。

 はい、俺達《機械帝国》です。

 うわーそうだよ俺達だよ。圧倒的俺達だよ。なんだよなんだよ、攻勢限界だと思ってたらホントもうあと一押しじゃん。やっぱ情報って神だわ、そうと知っていればもう帝国上げての大攻勢をしかけてるよ。いや知ってか知らずか今しかけてるし。こりゃ飛んでもないマル秘マル特情報だ。もし俺がまかり間違って生き残って機械帝国へ帰ることができれば統一の英雄として出世も金も女も思いのまま――。

 そこまで考えたところで、更に衝撃の事実が俺の目の前にぶちまけられてしまう。
 頭が真っ白。
 眼球が取得した情報を脳が理解を拒否している。

 ガシャリと、スタイリッシュゴリラの胸装甲が展開されていた。

 ちょっとまってくれ。

 嘘だろ。
 いやダメなヤツだろ、これは。
 
 ちょっと待て
 いいから待て
 俺に対処の準備をする時間をよこせ。
 
 どうしようも無い厄介事がズケズケと歩いてくる。
 五人分まとめ近づいてくる。
 頼むから超えちゃいけないラインを超えた上で、白いラインをぐりぐりと踏みにじるのをやめてくれ。
 
 ――ああ、なんということだ。

 現実がマズい。
 事実がヤバい。
 真実がキツい。

 なんて糞食らえだ。
 なんというくそったれで犬も食わない糞オブ糞なんだ。

「なぁ」

 あの化け物を操っている中の人が、
 いや、小さな女の子が、女の子達が

「助けて、くれないか――」

 歯を食いしばりながら
 涙ぐみながら、
 小刻みに震えながら、

 芋虫のように拘束される俺の前に蹲ったんだ。

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ぬける  
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